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第13話

「ギッルド〜ギッルド〜♩ いざ行かん冒険者〜♩」


 昼過ぎ……。時刻にして13時あたりだろうか。私は今、サリネルとジーナと共に冒険者ギルドを目指してグライカン中央地区へと赴いている所だ。

 不快なジーナの歌を聞き流しつつ街に目を向ける。

 この辺りはギルドの他に雑貨店などの冒険に必要な店が全て集まっている。

 そんな1軒の店からダンジョン籠りをするのだろうか、武具を携えた4人団体が雑貨店から出て南を目指して歩き始めていた。


 だが彼らの装備に荷物の量……そして表情から察するにアレはダメだ。

 金をケチって最低限のアイテムしか揃えていない。それになんだ? あの緩んだ顔……。緊張感に欠けていやしないか? いくら蘇生魔法があるからと言って確実に助かる保証はないんだぞ?

 蘇生を目的にダンジョンに潜る冒険者は少ない。同じダンジョンを潜っていた別パーティーが見つけて教会に持ち帰ると言った奇跡に近いレベルで助かるケースが大半だ。


 まあギルドに提出した帰還予定日から1日遅れたらギルドから救出依頼が出されるので、失敗したとしても助かると思っているのだろう。だが死んでから死体を拾われるまでタイムラグがある分、記憶はかなり失われるのだがな。

 そんな南に向かうパーティーに目を向けているとサリネルが私の横に歩幅を合わせてきた。


「どうかしましたか?」

「別に……」

「別にって……。なにか考えていたんですよね? 教えてください先生」

「はぁ……。なら言わせていただきますがアレは何です?」

「アレ? あ〜。あのパーティーですか? 最近名をあげてきたルーキーですよ。なんでも今日は中級ダンジョンの攻略に行くとかなんとか……それが?」


 どうやらギルドではそれなりに名を上げてるらしいが。

 

「アレはダメだ。恐らく今回の攻略は失敗に終わって死ぬでしょうな」

「なぜ分かるんですか? 彼らは確かにルーキーですが力ある冒険者で――」

「顔」

「え?」


 サリネルはキョトンとした顔になった。顔……。ただその一言だけの意味が分からない。もしくは捉え間違えたのだろう。


「正確には表情ですよ」

「あ〜……。表情ですか。でも彼らの顔色は良くて病気の兆候などは無さそうですけど……」

「そう言う意味ではありません。あの踏破を確信した顔つき。アレはダメだ。ダンジョンを舐めていると言う意味です」


 サリネルが「そうですか?」とあのパーティーの後ろ姿に目を向けた。そんな彼女には少しばかり授業が必要な様だ。


「自信から来る慢心ですよ。その証拠に消耗品の数が少ない。恐らく自分達の実力ならアイテムなぞ使わなくとも踏破できると思い込んでいるのでしょう。彼らのこれから向かうダンジョンは今回が初ですか?」

「ええ。今までは初級ばかりでしたので……」

「では生存率は甘く見積もって30%と言った所でしょう」

「30!? そんなに低いんですか?」

「甘く見積もってですよ? 自信ほど危うい幻想はない。ダンジョンは生きているんです。探索に来る冒険者を殺すため、常に学習し進化を続ける。獰猛な魔物の一種と考えた方がいい。そんな存在に何を慢心しましょう……。どうせ失敗してもギルドが助けてくれるとでも思い込んでいるのでしょうな」

「確かにギルドにある保険に加入していれば救助に蘇生は手配しますけど……」


 保険……。決して安くない蘇生保険だ。加入に50万。毎月の支払いに10万。余程活躍してるパーティーでないと採算が取れない額だ。それに救助される確率はダンジョンの難易度によって左右される。

 中級レベルなら助かる確率は7割あたりだろう。

 だが上級となれば話が変わってくる。未踏破のダンジョンが多い故に救助される確率はガクンと落ちて大体2.30%あたり。それも犠牲を払った上で……。

 ミイラ取りがミイラになるとはこの事を言うのだろうな。


「その保険も大した物でもないのに高い。これだからギルドは嫌いなんです。私なら100%の確率で、記憶もほとんど残った状態で助けますがね」

「確かに……先生なら可能でしょうが……額があまりにも……」

「高いですかい?」

「まあ……はい」


 命に価値などつけるべきではないのだろう。だがこの世界においてはその価値があまりにも低い。死んでやり直せる? 成功するまで何度でも死ねばいい? 本来命は一度限りの物だ。蘇生魔法が無くなればその価値は一気に高くなる……。それをこの世界は忘れているのだ。

 だから私は命の価値を額に表しているに過ぎない。


「まあこの話は貴方にしても理解されないでしょうな。それとこの話は終わりです」

「ですね……」


 話が終わると目の前には役所の様にどっしり構えられた建物があった。冒険者ギルドだ。グライカン支部は大陸中央に存在しているからか、ギルドの規模は他国に比べて大きい。


「ここがギルド! なんとも広い!」

 

 ジーナが先に入っては目の色を輝かせて辺りを見渡している。私達も後に続き中に入るとそれが顕著に出ていて、受付カウンターには数多くの職員が冒険者と何らかの手続きを行なっていたり、その背後では書類整理にパソコン業務を行っている。


 こんなに発展したギルドはここだけだ。

 私達が目指す新人冒険者セミナー会場はここから2階に上がった講義室で行われるらしい。

 そう案内が記されているからな。


「講師が私だと知らせているのですか?」

「いえ……。講師は毎回その日の高ランク冒険者を呼び付けて行っています」

「なるほど。そして今回は異例にも私が選ばれたと……」

「はい」


 屋敷で聞いた話によれば、私をここに招いたのはサリネル発進ではなく、ギルド長たっての依頼だと言う事だ。

 本来無資格の探索者はギルドから敵視されているのだが――どういう風の吹き回しか、私が採用された。


「先生は有名ですからね」

「そうですか。それは結構ですな」


 私の仕事が大陸中に知れ渡っていることは素直に嬉しい。こっちも商売なのだ。稼がなくては飢えてしまう。

 それに今私には生かさなければならない同居人が2人いるのだしな。


「ご主人! 着いたぞ、ここ。ここだ!」


 ジーナが部屋を指差して飛び跳ねている。この馬鹿を連れて来たのには理由がある。こいつ自信、前の竜討伐で独断先行……そして死と言った馬鹿丸出しの敗北を経験している。いずれはこいつにもリオンと同じ様に仕事を任せたいと思っている。これはいい機会だと思い私の話を叩き込む事にしたのだ。


「静かに」

「むぐ……」


 ジーナを黙らせ部屋の前に立つ。扉には新人冒険者セミナーと紙が貼られていた。

 中からザワザワと人の気配を感じる。

 期待、不安、それと好奇心と言ったフワフワした淡い幻想がこちらにも伝わってきてなかなかに不快だ。

 流石幼稚園と言った所だな。

 そんな扉を開き中へと足を踏み入れるのだった。

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