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第1話

「皆の者、私に続け続けーッ!」


 明るい声が暗い洞窟内に響いた。陽気な娘とも馬鹿な女とも言える剣を掲げた金髪の娘が、洞窟の深淵の奥へ奥へと突き進んでいく。

 仲間たちはそんな彼女に急かされながらもついて行った。


 女の仲間は4人。女が騎士で、残りは弓兵、魔術師、僧侶、戦士といった基本的なパーティー編成だ。

 そんな中、俺は先をどんどん進む騎士の女に声を掛けた。


「あ、あのお嬢様、これ以上の探索は危険です。ここは一度引き返して体勢を整え直すべきかと」

「何を言う! 良いかバギル? ダンジョンに入ってもう半日だ。目標であるボスまでもうすぐそこまで迫っているというのに、何を弱気なことを言っているのだ。引き返すなどありえん! 前進あるのみだ!」


 ため息を吐く。俺の言葉も虚しく、この女――領主の娘ジークリンデはひたすら進んでいくじゃないか。

 俺の背中を仲間たちが優しく叩きながら声を掛けてきた。


「バギル。ここは言うことを聞こう」

「そうだぜ。相手は大貴族のご息女だ。ここで反抗したら帰った後に何をされるか分かったもんじゃない」

「まあ、天命だと思って割り切るべきですね」


 天命……。天命か。

 この任務が誰かを救うものや、魔王討伐といった栄誉ある任務であったのなら、どれだけ割り切れただろう。

 だが実際この任務はそんな高尚なものではない。


 【竜の寝床】と呼ばれるこのダンジョンの最奥にいるとされる竜の逆鱗の回収。


 そんな貴族の願い文と共に、貴族の娘であるジークリンデを付けられた。

 彼女は見た目こそ麗しいものの、話は全く聞かず、敵を見つけては突っ込むばかりだ。正直言って足手まとい……邪魔だ。端でじっとしていればいいのに、何かと自分の実力を示したがる節がある。


 クソみたいな娘を付けられたとはいえ、この任務の良いところは羽振りがやたら良いところだ。

 これが無事達成できれば5億。30年は遊んで暮らせるほどの額が報酬として支払われることになっている。


 竜討伐はこのパーティーでも何度か達成してきたし、ここで一気に稼いで冒険者稼業とはおさらばしたいと俺たちは考えて受けたのだ。


 だが実際はどうだ。リスク管理もお粗末なまま先へ進む馬鹿な娘のお守りをしながらの竜討伐。最悪の任務じゃないか。

 ハッキリ言おう。自殺行為だ。貴族様はどうしてこんな危険地帯に一人娘を送り込んだのやら。もしかしてこの女は親から愛されてないのではないか? そう思わずにはいられなかった。


「シーラ。残りの魔力はどれぐらいだ?」

「ヒールがあと2回、キュアが3回ぐらいですね」


 僧侶のシーラは目を細めながらそう答えた。

 危険な状態だ。魔力が殆ど尽きているという事じゃないか。

 彼女の魔力は平均より高いぐらいはあったはず。それがここまで魔力を消耗しているのは、あの女がバカスカと雑魚の攻撃を被弾するたび、その都度回復魔法を施させたからだろう。


「あれぐらいの痛みなら携帯医療キットで治せばいいものを……」


 シーラはジークリンデの背中に向かって聞こえないように呟いた。相当怒りが溜まっているらしい。

 彼女の愚痴も理解できるが、本人に聞こえたら後が怖い……。俺は敢えて聞こえないふりをした。


「了解だシーラ。その魔力は最後まで温存しておくように。最悪あの女が死ぬことになったとしても俺たちの生存最優先だ。死んでくれれば後で蘇生すれば良いだけだからな」

「了解したわ」


 この世には蘇生魔法という神が与えたもうた奇跡がある。死んだ人間の体の一部さえ教会に持ち帰ることができれば生き返らせることができる。

 依頼主である貴族にバレる前にジークリンデの死体を回収しに行けば良いだけの話だ。

 頷くシーラに代わって、不安げな顔で魔術師の男が耳打ちしてくる。


「いいの!? 大貴族様の娘さんだよ? 万が一失敗して見捨てたことがバレたら……」


 蘇生にはデメリットがある……記憶の消失。

 生き返ったジークリンデが父親との会話で噛み合わない点が見つかれば、それは自分たちがジークリンデを見捨てたとバレる。そう言いたいのだろう。


「その時は国外へ高跳びだ。命あっての物種。それが冒険者だろ? マハイル」

「それは……そうだけど……」

「おーい。まだ失敗もしてないのにそんな終わった後のことなんか話してんじゃねーよ!」


 不安そうなマハイルに弓兵の優男――ジェームズが肩を組んだ。いきなりのことだったのか素っ頓狂な声を上げてしまうマハイルに、思わず笑いをこぼしてしまう。


「そうだなジェームズ。たしかにこいつの言う通りだマハイル。俺たちはまだ負けたわけでも失敗したわけでもない。今までも似たような状況は何度もあっただろ?」

「で、でもそのたびに『もう二度とあんなリスクは負わない!』って誓ってたじゃないか」


 そんなこともあった。だがこれも冒険者の抱えるジレンマの一つだろう。リスクを負わなければ得られたはずのものを逃す。故に危険と分かっていたとしても足を踏み込まずにはいられないのだ。


「まあこれもあとで思い返せば愉快な冒険話の一つになるってことだな」

「もー。そんな適当な〜」


 仲間たちと談笑していると奥の方からジークリンデの声が響いてきた。


「あったぞ目標の扉だ! お前達も早く来い」


 見た目は良いが我儘な彼女の声を聞くたびイラッとしてしまう。それは目を向けた仲間たちも同じだろうか、皆「こいつ何言ってんだ?」と言った目を向けていた。


 彼女の元へ駆けつけると、確かにそこには自分たちの背よりも大きな扉があった。冒険者を迎える死の扉。ボスの間へと続く最後の関所だ。


 ここを潜れば後戻りはできない。ボスを倒して生還するか死かだ。

 俺と仲間はごくりと息を飲んだ。

 さっき確認した回復魔法の回数。自分たちの手持ちの消耗品。体力。全てを加味しても『退け』と本能が告げてくる。


 だが――


「よーし! ここまで来たんだ。みんなで竜討伐を成し遂げ父上に逆鱗を持ち帰ろうではないか!」


 なんでこんなに元気なんだ。バカだからか? いや大馬鹿者だからか。

 そう思った。だが顔には出さない。一挙手一投足が不敬に当たるかもしれないからだ。

 仲間たちの顔を見合い、『退け』と訴える生存本能を振り払った。


 ジークリンデが扉を開く――

 奥から生温い風が俺の体をすり抜けていく。


 ああ。死の香りだ。死の香りを纏った風が俺達を歓迎してきた。

 生きて帰るか死んであの世に行くか……。


 ジークリンデは間違いなく死ぬだろう。そうなれば自分たちでなんとか討伐するだけだ。

 目の前で寝息を立てる真っ赤で傷一つない竜が瞳を開いて立ち上がる。

 太っているがボスの名に恥じないプレッシャーを感じ、ブルッと体が震える。


 生き残れるかどうか……。

 答えはこの竜のみが知っていることだろう。

新作です!

ここまで読んで頂きありがとうございます!

主人公たちはまだ出てきてませんが次回から出てきます。

もし宜しければ、ブックマークに高評価をいただけると嬉しいです。

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