表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

だから私は助けたい

7話目8話目のまとめての更新です。


これは『選ばれた』聖女の物語ではありません。

これは聖女に『なる』彼女の物語です。

雨風を凌げる洞窟を見つけ、私たちは身を寄せ合うように夜を明かした。

交代で眠り、交代で周囲の番をした。ただそれだけのことなのに、ひどく長い夜だった。


小鳥のさえずりで目を覚ます。

数度目の朝。まさか異世界で、野宿をすることになるなんて思ってもみなかった。


すぐそばには、狼の姿をしたシルがいた。

その白銀の毛並みに包まれていたおかげで、夜の冷え込みもそれほど堪えなかった。


「シル」


声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げる。


「私、この人界を少し旅してみたい」

『……どうしてかな』

「私、魔物の声を聞いたの」

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


「助けて、って。

そう、聞こえたの」


シルは何も言わず、しばらく私を見つめていた。

「……怖いけど」

言葉をゆっくりと選んで丁寧に一つ一つ紡ぎ出す。

「それでも、助けたいって思った」


『なるほど』

彼は小さく息を吐いた。

『思っていたが、君は随分と優しすぎる』

「そんなことないよ。

目の前で、助けを求められたから。それだけ」


簡単な理由だ。

でも、その「それだけ」が、一番難しい。

きっとできるなら誰かがすでにやっている。


「ねえ、シル。さっき街で、魔法……みたいなのを使ってたよね。

どうしてあれで魔物は消えたの?」

『魔物も、あれは一種の魔力の塊だ。

魔力をぶつけ合い、相殺すれば霧散する』

「……なるほど?」

正直、理屈はよくわからない。

ただ、同じことを私ができる気はしなかった。


私の言葉は、確かに力を持っている。

でも、あの魔物にはほとんど届かなかった。


「でも、もし魔物を助けられる方法が見つかれば……

なんとかできるかもしれない」

『それは、生半可な覚悟で踏み込んでいい領域じゃない』

シルの声は静かだったが、強かった。

『俺は、君が心配だ』


反論されるとは思っていなかった。

彼は、いつも私の意志を尊重してくれていたから。


「……シル」


少し、言いづらそうに口を開く。


「変なこと聞いていい?

シルって、家族はいるの?」


『いるとも』

一拍後彼は答えた。

『……正確には、居た、だが』

「……」


『皆、死んだ』

それ以上は聞けなかった。


「ごめん。

簡単に“助けられるかも”なんて言って」

『気にするな』

シルは首を振る。


『俺は魔物を憎んでいるわけじゃない。

誇りを持って戦ったし、使命も果たした。

死んだ家族も、一族の誇りだ』


少し間を置いて、彼は続けた。

『ただ──聖女のことは、少し憎いかな』


理由を尋ねる前に、シルは立ち上がった。

『そろそろ行こう。

こんなところで油を売っている場合じゃない』


私はそれに続き、彼を見上げる。

「シル」

一度、深く息を吸った。


「私、やってみる。

簡単なことじゃないって分かってる。

それでも、魔物を助けたい」


そして、はっきりと言う。


「だから約束して。

私はあなたを助ける。

だから、あなたは私の背中を守って」


シルは一瞬、目を見開いたあと、楽しそうに笑った。

『いいだろう。

ことは、背中は任せてくれ』


──────


「何だと。

平民街に巨躯の魔物が現れ、何者かが退けただと?」

「はい、陛下。

おそらく……例の白銀の狼と、小娘かと」

「……まずいな」


王は低く唸る。


「救国の聖女が使った神器は、確かにこちらにある。

よもや──」


「王よ」

それを遮るように私は静かに前へ出た。


「私こそが聖女です。

神杖に力が宿ったのも、この私が振るったからこそ」


「……確かに」


だが王の表情は晴れない。


「もし、あちらが“本物”であれば……」


(馬鹿馬鹿しい)


私は内心で吐き捨てた。


私は選ばれた。

私は正しい。

私は必要とされている。


間違いなんて、あるはずがない。


「民にも示す必要があるでしょう」


臣下の一人が進言する。


「ああ、そうだな。

噂を広めよ。

そして、狼をこちら側につければいい」


王は頷く。


「神の御使などと呼ばれているそうじゃないか。

捕らえよ。

そして──小娘は……」


それでいい。

だって私は、いつだって正しいのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ