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助けてという声を聞いた

7話目の更新です。

魔物と対峙する時、主人公は何を目にし、耳にするのか。


平民街を歩いて、最初に違和感を覚えたのは、

ところどころで建物が崩れていることだった。

風化にしては不自然だ。

新しいものも、古いものも、同じように壊れている。


「どうして、こんな……」

私の呟きに、隣を歩いていたヴァンが答えた。

「魔物が出たあとだよ」

「魔物……!?」

思わず声が裏返る。


「その時はどうしたの?」

「うーん。しばらくしたら消えたかな。

みんな、すごく怯えてたけど……」

そう言って、ヴァンは少し笑った。

「でも、もう大丈夫だよ。

聖女様が召喚されたって、発表されたからね」

「……聖女様、か」


あの少女は、今どうしているのだろう。

人々に囲まれ、称えられ、救いの象徴として生きているのだろうか。


あれから、数日が経っていた。

言葉をかけ続けるうちに、ミリアさんの病状は確かに良くなってきていた。

今では短い時間なら、部屋の中を動けるほどだ。


私の言葉には、やはり力がある。

それだけは、否定できない事実だった。


市場へ向かう途中だった。

「ま、魔物だ!」

叫び声と同時に、砂埃が舞い上がる。


視界が晴れた先に現れたのは、

黒く、淀んだ塊だった。


形を持たないそれは、

まるで感情そのものが溢れ出したかのようで──

魔物の振り上げた腕が、建物を、道を、人々の生活を壊していく。


「誰か! 聖女様を呼べ!」

「教会へ! 早く!」


人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


助けを求める声はあふれているのに、

誰一人として、ここに留まろうとはしなかった。


「ヴァン!」

私は彼の肩を掴んだ。

「逃げて! シルに伝えて!」

「で、でも……!」

「大丈夫。早く!」

一瞬迷ったあと、ヴァンは強く頷き、走り去った。


私は、その場に立ち尽くし、魔物と向き合った。

そのとき──聞こえた。


『たすけて』


消え入りそうな、か細い声。


次の瞬間、

頭の中に、濁流のように感情が流れ込んできた。


苦しい。

辛い。

憎い。


妬み、怒り、悲しみ。

誰にも向けられなかった感情の残骸。

「……なに、これ……」

どうして、私に聞こえるの。


「“止まって!”」

声を張り上げる。


一瞬、魔物の動きが止まった。

けれど、それはほんの刹那で、再び破壊を始める。


なんで。

どうして。


『誰も……助けてくれない』

それは、誰の声だったのか。

魔物なのか、人なのか、それとも──


「“街を壊すのはやめて!”」

言葉を重ねる。


いやだ。

いやだ。

全部、なくなれば――


「聖女はまだか!」

「なぜ来てくれない!?」

「私たちはどうすればいい!」


人々の叫びが重なる。


そのとき、

遠吠えが街に響いた。


間違いない。

シルだ。


白銀の獣が駆け抜け、私と魔物の間に躍り出る。


渦巻く風が生まれ、

それは刃のように魔物を切り裂いた。


痛い。

やめて。

誰か──


声は、途切れない。


どうすればいい。

どうすれば──


そして、

黒は霧散するように消え去った。


沈黙。


次の瞬間、一人が叫んだ。

「聖女の御使だ!」

それを合図に、歓声が広がる。


『まずい。ことは、行くぞ』

「……うん」


私はシルの背に乗った。


白銀の体が地を蹴り、

私たちは逃げるように、その場を後にした。


────


逃げた先は森だった。


ヴァンたちは大丈夫だっただろうか。

街はあの後どうなったのだろう。

あの魔物は────


考えることはたくさんあったが、とりあえずは獣化して戦ってくれたシルを労わらないと。

震える手を隠しながら私はシルに近づいた。


「シルありがとう。助かった」

『いやいい。それより大丈夫か?』

「うん、私は平気。

でも大変なことになっちゃったね」


困っている人は助けられたけど、困ったことに今度は自分たちの居場所がなくなってしまった。

ヴァンやミリアさんには何も言わずの別れとなってしまったし。


「どうしよう、これから」

『噂は広がる可能性がある。それゆえに、この人界に居られるかどうかは』

「シルは異界には帰りたいの?」

『異界は生まれ育った場所というだけだ。どちらでもいい。

言っただろう。俺はことはに従うだけだ』

「ありがとう。心強いや」


これからどうするか、どうするべきか────

あの声が残響する。

あの声は助けを求めていた。

私はあの時、あの声の感情に飲み込まれながらも、助けてという声に答えたい。

そう思った。


ならば私のやるべきことは──


私たちのもとに暗い夜が忍び寄ろうとしていた。


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