金より重いもの
「質屋なんてところ、この世界にあるのかな」
当てもなく、私たちはとにかく自分たちで情報を集めるしかなかった。
少し人通りのある通りへ出て、通りすがりの人に声をかけてみる。
異世界に召喚されたというのに、不思議と私の言葉は自然に通じていた。
この世界で金や銀がどれほどの価値を持つのかも分からないが、とりあえず聞いてみるしかない。
話しかけやすそうなおばさんを見つけ、私は思い切って声をかけた。
「すみません。金を売れるところを探しているんですが」
「金!?」
おばさんは目を見開き、私をつま先から頭のてっぺんまでじろじろと眺めた。
その視線は、黙って立っているシルにも向けられる。
「……あんたが、持ってるのかい?」
なんでそんな目で見られるんだろう。
私は戸惑いながらも、場所だけでも教えてほしいと思っていた。
するとおばさんは何かを納得したようにうなずき、私の耳元へ顔を寄せ、小声で囁いた。
「あんたら、わけありで二人してどこかから駆け落ちしてきたんだろう?」
拍子抜けとは、まさにこのことだった。
私は慌てて首をぶんぶんと横に振る。
たしかに、イケメンなシルと一般人丸出しの私では釣り合わないけど。
それにしても、その発想はどこから来たのだろう。
「違うのかい? まあいいさ」
おばさんはこほん、と咳払いをすると、少し真剣な顔になる。
「あんまり人目のあるところで金の話なんてするもんじゃないよ。誰が聞いてるかわからないからね」
なるほど。
どうやら私は、相当危ないことをしていたらしい。
「一応、買い取ってくれるところはある。案内してあげるよ」
「ありがとうございます」
戸惑いながらも頭を下げると、おばさんは先を歩き出した。
─────────
「ここだよ」
案内されたのは、大通りに面した立派な店だった。
中へ入ると、店主らしき人物がすぐに出迎えてくれる。
店内には宝石や装飾品が並び、
質屋というより宝飾店といった雰囲気だった。
「じゃあ、気を付けるんだよ」
そう言っておばさんは店主に、
「この子たち、ちょっと危なっかしいから頼んだよ」とだけ告げ、去っていく。
私はお礼を伝え、シルもその横で丁寧に頭を下げていた。
店主は何かを察したようで、私たちを店先ではなく、店の奥にある応接室へ案内した。
「さて。ご用件を聞こうか」
向かいに座った初老の店主に促され、私は口を開く。
「実は……事情があってお金がなくて。金や銀なら、あるんですが」
「ほう。とりあえず、見せてもらえますかな」
シルは懐から革袋を取り出し、中身を机の上に広げた。
そこには、まばゆく輝く金と銀の粒が入っていた。
「……盗品ではなさそうだが」
「盗品!? 違います。これはシルの持ち物です」
私が慌てて言うと、シルも静かにうなずいた。
「正直に言うとね。銀ならまだしも、これほど大粒の金を見ることは滅多にない」
「えっと……どうしてですか?」
「知らないのかい。金は相当貴重なんだ。
昔は採れたが、とり尽くしてしまってね」
「じゃあ、今は……」
「流通しているのは、ほとんどが加工品だ。未加工の金は、貴族でも持っているかどうか」
思った以上に、とんでもないものを持ち歩いていたらしい。
「……買い取り、難しいですか?」
「金はな。銀なら問題ない。とりあえず、このくらいでどうだろう」
提示された金額は、銀の粒ひとつかみで五万ダルク。
村落部なら、数年は暮らせる額らしい。
「なるべく大金にならないよう、硬貨に替えておこう」
「一部だけにしてもらってもいいですか。持ち歩けないので」
「賢明だ」
その時、シルが小声で耳打ちする。
『ぼられていないか、注意したほうがいい』
はっとする。
確かに、私はこの世界の相場を何も知らない。
気づけば、言葉が口をついて出ていた。
「……店主さんのこと、“信じてもいいんですよね”」
「──もちろんだとも」
店主は、人の良さそうな笑みを浮かべた。




