金より重いもの
4話目になります。
意図的に鍵括弧をつかったりしていますので、じつは伏線になっていたりします。
考察して読んでいただけると嬉しいです。
「質屋なんてところ、この世界にあるのかな」
当てもなく、私たちはとにかく自分たちで情報を集めるしかなかった。
少し人通りのある通りへ出て、通りすがりの人に声をかけてみる。
異世界に召喚されたというのに、不思議と私の言葉は自然に通じていた。
この世界で金や銀がどれほどの価値を持つのかも分からないが、
とりあえず聞いてみるしかない。
話しかけやすそうなおばさんを見つけ、私は思い切って声をかけた。
「すみません。金を売れるところを探しているんですが」
「金!?」
おばさんは目を見開き、私をつま先から頭のてっぺんまでじろじろと眺めた。
その視線は、黙って立っているシルにも向けられる。
「……あんたが、持ってるのかい?」
なんでそんな目で見られるんだろう。
私は戸惑いながらも、場所だけでも教えてほしいと思っていた。
するとおばさんは何かを納得したようにうなずき、
私の耳元へ顔を寄せ、小声で囁いた。
「あんたら、わけありで二人してどこかから駆け落ちしてきたんだろう?」
拍子抜けとは、まさにこのことだった。
私は慌てて首をぶんぶんと横に振る。
たしかに、イケメンなシルと一般人丸出しの私では釣り合わないけど。
それにしても、その発想はどこから来たのだろう。
「違うのかい? まあいいさ」
おばさんはこほん、と咳払いをすると、少し真剣な顔になる。
「あんまり人目のあるところで金の話なんてするもんじゃないよ。
誰が聞いてるかわからないからね」
なるほど。
どうやら私は、相当危ないことをしていたらしい。
「一応、買い取ってくれるところはある。案内してあげるよ」
「ありがとうございます」
戸惑いながらも頭を下げると、おばさんは先を歩き出した。
─────────
「ここだよ」
案内されたのは、大通りに面した立派な店だった。
中へ入ると、店主らしき人物がすぐに出迎えてくれる。
店内には宝石や装飾品が並び、
質屋というより宝飾店といった雰囲気だった。
「じゃあ、気を付けるんだよ」
そう言っておばさんは店主に、
「この子たち、ちょっと危なっかしいから頼んだよ」
とだけ告げ、去っていく。
私はお礼を伝え、シルもその横で丁寧に頭を下げていた。
店主は何かを察したようで、私たちを店先ではなく、
店の奥にある応接室へ案内した。
「さて。ご用件を聞こうか」
向かいに座った初老の店主に促され、私は口を開く。
「実は……事情があってお金がなくて。
金や銀なら、あるんですが」
「ほう。とりあえず、見せてもらえますかな」
シルは懐から革袋を取り出し、中身を机の上に広げた。
そこには、まばゆく輝く金と銀の粒が入っていた。
「……盗品ではなさそうだが」
「盗品!? 違います。これはシルの持ち物です」
私が慌てて言うと、シルも静かにうなずいた。
「正直に言うとね。
銀ならまだしも、これほど大粒の金を見ることは滅多にない」
「えっと……どうしてですか?」
「知らないのかい。金は相当貴重なんだ。
昔は採れたが、とり尽くしてしまってね」
「じゃあ、今は……」
「流通しているのは、ほとんどが加工品だ。
未加工の金は、貴族でも持っているかどうか」
思った以上に、とんでもないものを持ち歩いていたらしい。
「……買い取り、難しいですか?」
「金はな。銀なら問題ない。
とりあえず、このくらいでどうだろう」
提示された金額は、銀の粒ひとつかみで五万ダルク。
村落部なら、数年は暮らせる額らしい。
「なるべく大金にならないよう、硬貨に替えておこう」
「一部だけにしてもらってもいいですか。持ち歩けないので」
「賢明だ」
その時、シルが小声で耳打ちする。
『ぼられていないか、注意したほうがいい』
はっとする。
確かに、私はこの世界の相場を何も知らない。
気づけば、言葉が口をついて出ていた。
「……店主さんのこと、“信じてもいいんですよね”」
「――もちろんだとも」
店主は、人の良さそうな笑みを浮かべた。




