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聖女という名の枷

 目隠しされたままの移動が続いてどれほど時間が経過しただろうか。私たちを拘束して運んでいた馬車のようなも野の揺れがとまった。そして目隠しの布越しであるが光を感じた。

『降りろ』

 私たちは鎖に引っ張られるまま、連れていかれる。その合間も目隠しはされ、ようやく外されたのはどこか気品のあるがそこまで豪華ではない部屋に連れてこられたときだった。

 

 私とシルはまさか連れてこられたのが牢屋でもなにもないことに驚き、周囲を見渡す。

 その様子に兵は慌て私たちに一喝した。

『顔を伏せろ。かの尊きお方の御前であるぞ』

『よい。理由も告げず連れてきたのは我たちだ。むしろ戸惑うことは自然の道理』

『承知いたしました』

 怒りをあらわにした兵を諫めた声はすだれ越しに聞こえた。その声は幼く、まだ十にも満たない子どものようにも思えたが、兵たちが言った「尊きお方」と呼ばれるのにふさわしい威厳を持ち合わせていた。


『安心せよ。無角衆のものたちも我の保護下にある。我はそなたらの敵ではない』

 安心してくれといいつつも、私たちの拘束を解かない。特にシルは、兵が言っていることが本当であれば、魔法を封じる拘束をされている。私たちの味方だと語りながら、私たちのことは信用していない、もしくはできないのだろう。


『そなたらの名前はなんと言う?』

「私はことは、です。こちらはシル。多分シルにあなたたちの言葉は通じません」

『ほう。やはり兵から聞いた通り、そなたは特殊なようだな。どこから来たのだ?』

 私は少し間をあけて考えた。うそを伝えたら後でばれた時、大変なことになるし、うそをつく理由もなかった。私はありのまま伝えた。

 

「私は人界……ではなく、異世界から。この世界ではないところから召喚されました」

『それでいて我々の言葉もわかり、魔物とも意思疎通ができると』

 もしかしてどこかで魔物と対峙しているところを見られていたのだろうか。いや間違いない。このことを知っているのは私とシル、シキちゃんだけだ。どこかでみていたのだろう。

 

『そなたが使った石はこの鬼人国で採掘される特殊な魔石である。とはいっても特別なものではない。常人には使えぬからな。ありふれている。そなたが使っていたものは誰の物だ?』

「シキちゃん……無角衆で拾われた小さな女の子の物です」

『ほう……』

 そこで兵ではない、側近のものが御簾の中へと消えていった。何か尊きお方と呼ばれた人物と話しているようである。

 

 そして話がまとまったのか、尊きお方と呼ばれた人物は再び口を開いた。

『我は本来であればこの国を治める者である。だが、すべてを奪われここに半ば幽閉されている』

「それってつまり……ばば様が言っていた、鬼人国の幼き帝ということ?」

『恐らくそうだな』

 私の言葉にシルが同意するだが、私の言葉を聞いても幼帝は名乗ることはなかった。理由があって立場というものを明かすことはできないのだろう。

 

『我はそなたに頼みたいことがあってここに連れてきた。それを成せばこの長きにわたる無為な戦争は終わる』

「私に頼みたいことは……」

『この国を救う聖女として立て。そしてその力を貸せ』


 私はずっと否定し続けてきた。私は聖女ではないと。

 でも幼帝の進言はもうその否定すらも許されぬ、物言いであった。


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