覚悟の行く先
私が目覚めて聞いた第一声はシルの怒りの声であった。
『ことはッ。君というやつは……』
シルは腕で私を抱きしめると、痛いくらいに抱きしめた。
私は突然力尽きて倒れたらしい。原因は一つ。力の使い過ぎだった。何人もの人に対して治療を行ったのだ。当然の結果だった。
「みんなは?」
『見た様子しかわからないが……ここを離れる準備をしているらしい。どうやらあまりいい状況じゃないらしい』
「シスイ、ばば様。何があったの?」
私にあまり話したくないのか、口ごもるシスイだったが、仕方なかろうと言ってばば様が話してくれた。
『どうやら鬼人国軍がワシらを探しているようなのじゃ』
ばば様曰く、森を焼いた理由にどうやら無角衆の追討もあるらしく、集落や逃げた私たちを探しているらしいのだ。
偵察をしていた者たちがそのことに気づき、ばば様に報告してきたそうだ。
『この洞窟の入り口も見つかるのも時間の問題じゃろう。ここも離れるしかあるまい』
『やはり、戦うしか……』
角がないことを隠せば、しばらくは町でも暮らせるだろう。でも目に付くことに変わりない。皆と別れて流れるようにしてとどまることなく移動しつつ生きるしかないが、子どもがいればなかなかそうもいかない。
それでも生き残るためには──。
『俺は残って足止めをする。逃げるだけじゃかっこつかねえからな』
そう言いだしたのはシスイだった。
シスイが言葉を発すると、堰を切ったように次々にまだ戦える大人たちが手を挙げた。その中はケガを治したばかりの人もいた。
『俺たちもだ!』
『そうだ!みんなで生きる道がないならせめて、女子どもだけでも!』
『ことは……シキたちやばば様を頼む』
「……わかった」
私はその覚悟を肯定することはできても否定することはできなかった。だって、シスイたちもそれが正しくはなくとも最善だっていうことはわかっていたからだ。
「シスイたちは残る。だからせめて、シル。安全なところまでみんなについて行こう」
『わかった。それが君の選択なら俺も共に行こう』
せめてものシスイたちの意向に報いる選択だった。
私たちは戦えない人たちを連れて、最低限の準備を整えて、洞窟を出た。苦心の選択だった。
眠っていたはずのシキちゃんがここで起きた。
『シスイお兄ちゃんは?』
そう言って、しきりに首を動かして探すシキちゃんにかける言葉は見つからず、ただ大丈夫だよと声をかけてあやすことしか私にはできなかった。
やっと明かりが差した。出口だと、そう思った。
だが、それは私たちにとって、光明の兆しではなかった────。
私たちを待ち受ける人だかりがいた。
先頭に立っていた私とシルは足を止め、身構えた。その異変はまたたくまに列に広がった。
『先回りされておったか……』
ばば様が呟く。ばば様の言う通り、洞窟に逃げ込んだことはすでに気づかれており、脱出する前に出口に先回りされていたらしい。
私たちを待ち受けていた人だかりは陣形を組んだ鬼人国の兵であった。兵たちは私たちに武器を向けていた。
『お前たち、森から逃れてきた角のない者たちだな』
『そうじゃ。わしらを追いかけてきたのじゃろう』
『そうだ。抵抗はしないのか』
『抵抗しようにもここには逃げてきた戦えぬものしかおらん。抵抗はしない』
『ほう。よかろう。兵たちよ!このものらを捕らえよ!』
兵たちは一斉に私たちに駆け寄り、拘束することで無力化しようとする。
それを制したのはばば様であった。
『待て!』
『なんだ?』
司令官らしき人物は兵たちをなぜか止めた。そしてばば様の言葉を聞いたのである。
『そこの男と女は部外者じゃ。この世界の外側の者』
『ほう、おもしろい。そやつらは別に連れていけ!男の方は一応魔力封じの鎖でもしておけ』
私たちはばば様たちと引きはがされる。抱えていたシキちゃんまでも引きはがされる。
『ことはお姉ちゃん!』
「シキちゃんっ!」
私とシルはそのまま拘束と目隠しをされ、どこかに押し込められた。
『いくぞ』
そんな掛け声が聞こえたと思えば、押し込められたその場所はなにか馬車のようで移動しているようで、しばらくすると揺れが伝わってきた。
「シル、無事?」
『ああ、だがこいつら俺たちをどこかへ連れて行く気だろうか』
「わからない。けど……」
シキちゃんは無事だろうか。ばば様は。シスイは──。
私たちはなすすべもなく、そのまま移動する馬車で夜を明かしたのであった。




