代償
火の手から逃げ、私たちもみんなが逃げたであろう洞窟へとたどりつく。そこには多くの人が身を寄せ合っていた。
逃げる際にけがをした人もいて、手当てを受けている人もいた。
ここなら落ち着いてシルのけがを診られるだろう。シルは苦悶の表情を浮かべ、その場で座り込む。出血は続いている。
もしシキちゃんのペンダントに私の祈りを増幅する力があるならば──。
「シキちゃんこのペンダントは?」
『きれいでしょ?これね、おまもりなの!わたしがここにながれついた時から身に着けてたって!』
この国ではよくある飾りなんだろうか。私が借りていいかシキちゃんに尋ねると、シキちゃんは心よく貸してくれた。
「シル、待っててね」
私はシキちゃんのペンダントを握り、シルのケガに手をかざし、祈った。
「シルのケガ、”治って”……お願い……」
そうすると、私の祈りに呼応するようにして、ペンダントのヒスイのような石が光を放つ。そしてシルのケガはみるみるうちにふさがっていった。
完全に治りきったところで、シルに声をかける。
「シル、大丈夫?」
『傷が、ふさがったようだ。ありがとう』
その一部始終を眺めていたシキちゃんがすごいねと笑う。その無邪気さには心が洗われたような気がした。
ほかにもケガを負っている人がいる。もし私の力が手助けになるのならば──。
私は、同じくこの洞窟に避難してきていた村長であるばば様に声をかけた。
「ばば様、いいですか。私、みんなのケガを治したいんです」
『覚悟はできているんじゃな?』
ばば様の言う覚悟はこの力を使うことによって、私が背負うことになる責務のことを言っているんだとすぐに分かった。
「わかりません。でも私は目の前で大変な思いをしている人を放っておけない。それだけです」
『それで十分じゃ。その目を見ればわかる。お前はわからんというが、その目は覚悟しているものの目じゃよ』
私はばば様ともにケガをしている民のもとへと向かった。いち早く助けたかった。
最初は何をされるのか戸惑っていた民衆も、ばば様の言葉を受けると、私を信用して身を預けてくれた。
けがをした子どもを最初に、そして守りについていた、それからつく人、そのあとに残りの人を見た。その中にシスイもいた。
シキちゃんはようやくシスイを見つけて安心したのか。シスイの軽いけがが治って見届けると、そのそばですうすうとあっだやかな寝息を立てて眠りについた。
シスイはどうやら山火事の現場を見たらしい。私やばば様に状況を話してくれた。
『あれは、ただの火事じゃねえ。鬼人国の軍の仕業だ。あいつら獣人国との現状の国境である巨人の森をどでかい魔導兵器で焼きやがった』
『非常にまずいのう。今しばらくの食料はここにはあるが、ここに長居はあまりできん』
『やっぱり俺たちがなんとかするしか……』
早まりかけているシスイをばば様は止めるのかと思ったけれど、ばば様は意外にも『時が来たのかもしれぬな』と言い出した。
『長らく俺たちはあいつらから姿を隠して生きてきたが、もう限界だ』
「でもそんなことをすれば、誰かが傷つく。シスイだって、シキちゃんだって──」
『俺たちにはもうあとがねえんだ。家であった森も焼かれた。このままもしあいつらがやってくればみんなどうせ死んじまう。シキを子どもたちを守りたい』
そうすると、それを聞いていた周囲の人たちも立ち上がった。その中にはまだケガが治っていない人たちも見られた。
『シキの言う通りだ。俺たちにはもう後がない』
『この子たちを守るには戦うしかないんだ』
私は待ってと伝えようと立ち上がろうとした。すると不意に体がしびれ、そのまま地面へと倒れる。
なんだこれは。今までなかった現象に戸惑う。体に力がうまく入らないどころか、起き上がれもしない。
『おい、ことは!』
『しっかりするのじゃ!手負いじゃが、シルをよんできてくれんか!』
遠くでそんな声がした気がするが、瞼が重い。体が鉛のように動かない。
これが力を使いすぎた代償なんだろうか────。
私はそのまま泥の中に体を沈めるように意識を手放した。
更新遅れてしまいすみません!
明後日以降も21時更新にしたいと思います!




