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導きの光

「火の手が近づいてきている!西の洞窟へと避難するんだ!」

 集落の人で避難する人を誘導している声が聞こえる。とりあえず、みんなは洞窟の方へと逃げているらしい。


「シル。私たちも──」

 その時だった。声が聞こえたのだ。


 ──苦しい……みんな私たちと同じようになって……死んじゃえ!

 

 背後に振り向く。そこには今にも私を貫かんとする魔物の姿があった。

 まずい。私はシキちゃんをかばうようにして抱きかかえ、来るべき痛みに耐えようとした。

 だが衝撃が痛みに変わることはなく、代わりにシルがうめき声をあげた。

『ぐッ』

 シルが痛みをこらえた声を出す。私はそこでシルが庇ってくれたのだということに気づき、私はシルに駆け寄った。


「シルっ……血が」

 どくどくと流れ出す血。その光景を見て、初めてシルにあった日のことがフラッシュバックした。いやそれ以上に強い情念に取りつかれ、このままシルを失ってしまったらという考えでいっぱいいっぱいになった。

 そんな私に気づいていたのかシルは私に落ち着くように言った。

『…大丈夫だ。それより、追撃が来る』

 シルは次の攻撃に備えて、身構える。魔物はその姿を変え、まるで不定形のスライムのような物質となる。


 ──なんで私たちだけ苦しまなきゃならないのッ!

 ──そうだ!俺たちが何をしたっていうんだ!


 魔物たちが呼応するかのように次々と夜の闇から姿を現す。

 声がひりつくように心をえぐった。それはかつて聞いた魔物の声と違い明確な悪意と悲しみを抱え込んでいた。

 折を見たように現れた魔物の存在に集落の人たちは逃げ惑う。

 ここで魔物を止めなければ家を失うだけではない。命まで失ってしまうことになりかねないのは明白であった。


『ここで食い止めるぞ!』

 シルが足を引きずりながら、魔物に向かって駆け出す。その姿は瞬く間に姿を変化させる。

 遠吠えをすると、魔物は怯み、一瞬動きを止めた。

 そして、シルは魔力を使い、空気中の水蒸気から水をそして風を巻き起こし、雪の竜巻をぶつける。

 それは確かに効果抜群だと思えたが、多勢に無勢。倒しては次々に現れる魔物には追い付かない。


「もうやめて、こんなこと」

 足がすくみそうになりながらも私は踏ん張り声をあげた。

 

 するとその時だった。

 抱えていたシキちゃんの胸元が光りだしたのだ。するとシキちゃんは胸元にしまっていたひすいの石のようなペンダントを取り出した。

 光はあふれだし、あたりを照らす。それはまるで私の声に反応したかのように見えた。


 ──本当はいやだ。

 ──悲しみも苦しみも、それをだれかにぶつけるのも。

 魔物は涙こそ流しはしないが、その声は確かに泣いていた。

 

「やめようこんなこと。君たちは”誰かを傷つけるために生まれた存在じゃ……ない!”」

 私は一生懸命に叫ぶ。

 すると、シキちゃんの胸元にあったペンダントがさらに強い光を放ち始めた。その光はやがて空まで届き、立ち込めていた暗雲を切り裂いた。


 ──僕たちはただわかってほしくて……そうだ。この声は、この苦しみは、この痛みは君に届いて……。


 その言葉は私の脳裏を駆け抜けていった。映像が再生される。


 戦争で家や家族を失う悲しみ。何者かによって痛めつけられた傷。虐げられた子ども。行き場のない怒り。


 私は涙を流し、慟哭した。


『終わったのか?』

 

 呆気にとられたシルが呟く。

 

 もうそこには誰かを傷つける魔物の姿はなかった。


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