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不穏の狼煙

 シスイは私たちにこの国の現状をわかりやすく話してくれた。

 大母────という女性は実質的なこの国の支配者だそうだ。

 本当は皇帝がいるが、幼いために摂政として大母が実権を握っている。

 その名の通り、皇帝の祖母に当たる人物らしい。


 早逝した先々代皇帝の代からの彼女の治世は約二百年だとばば様は言ったそうだ。

 その頃からだと言う──魔物との闘いだけではなく、獣人国への侵攻が始まった。

 戦火は見る見るうちに広がった。


『どういうわけか、角のあるやつは皆感応するように、戦いへと身を投じていった。ばば様曰く、どうやってか国民全員洗脳や魅了にかけられているらしい。俺たちには効かねえけど』

 耐性があるのかそれとも何か理由があるのか。


 そう言えば巨人の森に入る前、私は謎の女性の声を聞いた。

 それがもし関係あるとしたら。

 私はそこはかとない恐怖を感じ、身震いした。


 シキちゃんは木で作られた積み木のようなものを積み上げて壊しては遊ぶ。

 その様子をめずらしそうに見ていたシル。

 どうしてかと尋ねると、子どもがこうして遊ぶところを初めて見たからと言っていた。


 そう言えば、異界に来たばかりのころ、マリアさんにお世話になって時もこうやって、珍しそうに見ていた気がする。

「シルは子どものころおもちゃであそんだりしなかったの?」

『そんな状況じゃなかったからな』

 その言葉はきっとシルの幼少期の過酷さを物語っていた。


「一緒に遊ぼう」

 私はシキちゃんに声をかけると、シキちゃんは喜んでうんとうなずく。

 私はついついシルも誘った。

 シルはすこし戸惑いながらも私の誘いに乗ってくれた。


──────

 

 その夜のことだった。

 大きなけたたましい笛の音で目覚める。

 隣で寝ていたシルやシスイに尋ねると、なにか大変なことがあったのだと言った。

『これは警笛の音だ。しかもこの音、おそらく魔物の出現か敵襲だ』


 非常事態だということがシスイの焦り具合からわかった。

 シスイは立てかけてあった武具や装備を身に着けると、私たちにシキちゃんを預け行ってしまった。

 シスイには防衛の任があるらしい。

『シキのこと頼んだぞ!』

「うんわかった」

 シルがいるからこちらは大丈夫たと、まかせてと伝えると、シスイは安心したように笑いその場から去った。


 シキちゃんはまだねむいのか眠気眼を擦りながら、私たちに何があったのか不安そうに尋ねた。

 私はシキちゃんを抱き留め、「大丈夫だよ」と声をかけた。


 警笛は鳴りやまないどころか、外がだんだんと騒がしくなっていく。

 見かねた私たちは、シルが外に出て様子を確認することにした。

 すると、シルは外をみて叫んだ。


『遠くだが、森が燃えている!』


 私もあわてて外を見た。その光景を見て私は絶句した。


 空が夕焼けのように赤い──違う。森が燃えているのだ。


「どうしよう」

『シキを連れて逃げるぞ』

「シキちゃん、逃げよう」

『でもシスイお兄ちゃんが……』


 シスイは防衛に駆り出されている。合流するのは難しい。

 待ってろと言って出ていったシスイを心配するシキちゃんを無理やり連れだすほかなかった。


 シキちゃんを抱え上げ、シルについて外に出る。

 日中、あんなに平和で安穏としてた村の気配は消え、悲鳴と狂乱が集落を埋め尽くす。


『逃げろ、こっちだ!』


 村に残った子どもや老人、女性が逃げ惑う。


 もうここに平和な日常はなかった。

 


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