無角衆
辿り着いたのは樹上に作り上げられた集落。
数十の吊り上げられた家を繋ぐのは木でできた橋であった。
『ここにいるのは角無したち。俺たちは無角衆と名乗っている』
そうシスイは言った。
案内されたのは集落の中心部、一際大きな家であった。
集落の者たちが集まるのにも使う場所らしい。
入り口にかけられた簾をくぐればその上座には体躯の小さな老婆が座っていた。
『長よ。帰った─────』
『何やってるんじゃバカモン!』
『えっ』
投げられたのはクッションだろうか。
それはまっすぐにシスイに当たった。
ぼふっという音を立てて床に落ちた。
『警備を抜け出したと思えば、よそもん連れてきおって!』
『近くにこいつらの気配があって集落に近づかれたらまずいと思って』
『そんで何ゆえ、その二人を連れてきた?』
急に長の視線がこちらに向き、緊張感が走る。
『ああ、そっちの銀髪は言葉が通じねぇ、獣人らしい……んで、こっちの嬢ちゃんが異世界人らしい。言葉はなぜか通じる』
『ど、どうもことはと言います。こっちはシル』
私が説明すると礼儀正しくシルは言葉もわからないながら、一礼をする。
私もそれに続いた。
『ほお、厄介モン連れてきたってわけだ』
『いいだろ?
こいつらしつこく追いかけてきたし、訳ありっぽかったし』
『まあ、ここは訳ありのやつだらけだ。
構わんが滞在させれるほどの余裕もねぇ。
で早速単刀直入だ』
そう言って、長は話を切り出す。
私たちをじっと見据え、まるで私たちの出方を伺っているようだ。
『そっちの銀髪碧眼は"神の御使"、
そっちのお嬢さんはそいつがこっちへ連れてきた"聖女"だな』
「違います。シルも私もただ、知りたいだけなんです。
この世界を。
そしてどうやったらこの状況をよくできるかを」
『なぜそう思った?
あんたがただの異世界からの来訪者なら関係ないだろうに』
「私はここの世界の歪さもそこで生きている人も見てきた。
だから私にできることがあるならって」
『できることねぇ……んなら、この鬼人国をどうにかしてみな。
その一丁前にでかい口たたくのを許してやる』
睨め付ける長に私は固唾を飲む。
確かに私は聖女ではないと語りながら、
この世界が少しでも良い方向に向かえばと思っている。
おかしなことなのだろうか。
間を割って、茶化すようにシスイは言った。
『ばば様は相変わらず、何様なんだか』
『うるさいねぇ!そもそもあんたが持ち込んだ種火だろ!
あんたが世話しな!』
『はいはい、わかりましたよ』
シスイは胸を張って言い切った。
「あの、村長さん……この集落の話を聞いて良いですか?」
『ああ、それならまた明日だ。それに大体のことならそこのシスイに聞きな』
「はい、わかりました」
その場はお開きとなり、シスイに連れられるまま、
私とシルは長の家を後にした。
───────
シスイは彼の家へと案内してくれた。
彼の家へと入った瞬間、小さな女の子が出迎えてくれた。
その額にはやはり角はなく、シスイと同じ角無しであることがすぐに分かった。
『おかえり、お兄ちゃん!』
私たちを見るや否や、『ただいま』と返す、シスイの後ろへと隠れてしまった。
シスイはそのさまを見て、笑った。
『お兄ちゃん、この人たち誰?』
『こっちのお姉ちゃんがことは。こっちの銀髪のお兄ちゃんがシルだ』
「よろしくね」
私がすこし戸惑いながらも、一礼するとシルもそれに続いた。
私たちは囲炉裏らしきものを囲み、座るとシスイは話し始めた。
『俺たち似てねえだろ?こいつ、シキは俺が拾ったんだ』
「もしかして、それってこの集落の成り立ちに関係してるの?」
『そうだ。俺たちは流れ者だと言っただろう?
文字通り、ここへ流れ着いたんだ。
角の持たないものは忌み子、そうして産まれた時に川に流されるんだ』
シキちゃんの前で見せていた優しいまなざしはどこへやら、
シスイは暗い面持ちで話を続けた。
『俺やシキも拾われた。そうやって集まったやつらが集落を形成して、ここに息づいている』
「角がないだけで差別されるの?」
『違う。俺たちにはなぜか魅了耐性があるからな。大母やそれに与するやつらにとって扱いづらいんだろう』
大母────その人はこの鬼人国の頂に立つ人物、そしてこの国に巣食う闇だった。




