角無し
「繋げる者……か」
『あの人……いやあの樹はそう言ったんだな』
「繋げるって、」
『ある意味、人同士を繋げる”言葉”を理解することはに
相応しい言葉ではあるが……』
私が繋げる者という立場なら、シルの考えは正しいのかもしれない。
じゃあヴァンのお母さんを治したことや逆に獣人の女の子を治せなかったことにも、
なにか理由があるのだろうか。
不可思議な声が聞こえるのもそれゆえ、というわけなのだろうか。
「うーん」
私は首をかしげる。考えれば考えるほど思考の渦に捕らわれる。
私がうなっているのを見て、シルはめずらしく声を立てて笑っていた。
その場を後にし、私たちが巨人の森を歩く。
シルが常に周囲を警戒してくれている。
緩衝地帯と言えど、いつ襲われる可能性があるかわからない。
慎重に進む必要があった。
『ことはッ』
「えっ」
シルの声に振り向く。
うしろに気配があると気づいた時には遅く、私は背後を取られていた。
『ここで何をしている』
外套をまとい、口元まで隠した姿の人物は私ののど元に刃を突き付ける。
刃の冷たさに固唾を飲んだ。
その声は刃に似て冷たく冴えわたっていた。
「私たちは旅をしていて……」
『ここに来た理由はなんだッ!』
「鬼人国に向かうためです」
『なぜ鬼人国に向かう』
「────世界を、知るためです」
私の言葉を聞いて、覆面の人物が息をのんだ。
『世界を知ってどうする──いまさらだ』
「この状況を打破できる方法がないか、私にできることはないか探るためです」
『お前にできることはない。去れ』
私は解放されたと思いきや、そのまま突き飛ばされる。
とっさに受け身を取ろうとすれば、シルが受け止めてくれた。
私を突き飛ばした張本人は私たちを置いて去ろうと踵を返そうとしていた。
そこを私が引き止めた。
「待って!」
『なんだ』
「あなたは鬼人国側の立場の人でないんですよね」
『あんな操られた奴らと一緒にするな』
「操られた? 一体それはどういう……」
私が矢継ぎ早に尋ねようとしたが遅かった。
その人は跳躍し、どこかへと去っていく。
「シル、あの人を追える?」
『やってみよう』
そう言うと、私を抱えあげ、シルは人影を追いかけ始めた。
──────
シルは私を抱え上げながらも身軽に跳躍し、
鬱蒼とした木々の間を駆け抜けていく。
私は振り落とされないように懸命にシルに掴まった。
その勢いは逃げていく人に迫る勢いだった。
その途中、唐突に覆面の人物は足を止めた。逃げるのをやめたのだ。
そして振り返って私たちに迫ると、大きなため息をついた。
『やめだ……冗談なく、しつこい』
シルは覆面の人物の言葉を聞き取れないのか、私に耳打ちでなんと言ったか尋ねてきた。
私はとりあえず、しつこいと言われた部分は伏せて、
逃げるのをやめたということだけ伝えておいた。
『お前たちを巻こうとも思ったが、徒労に終わりだと確信した。
だからあきらめた。ほんとうにしつこい』
よっぽど執拗に追いかけたことが気に障ったらしい。
二度目、しつこいと言われた。
『お前たち獣人か?そっちの女には言葉も通じるみたいだが』
「シルはそう、です。
私は獣人じゃありません。
人────この世界でも人界からでもない異世界からところから来ました」
『言葉も通じる……』
首を傾げる覆面の人はうんうんとうなり始める。
そして結論がでたのか私に向き直った。
『聖女なのか?』
「……違います。多分。だって私はすべてを救えないから」
私がそう否定すると、その人は『大丈夫。俺は、俺たちは聖女になんか祈らないから気にするな』と言った。
『お前たちに名乗ってなかったな。俺はシスイ。角はないが、鬼人だ』
そう言って外套を取るとその下には鬼人という名にふさわしい象徴である角がなかった。
「シスイ、さん」
『シスイでいい。お前たちの旅の目的は世界を知るためだと言ったな』
私は首を縦に振り肯定する。
『なら着いてこい』
シスイは何かを決心したように、晴れやかな表情をしていた。




