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囁く声

『世界の真実について、

 長命種である"漂泊の民"が何か知っているかもしれぬが、

 存在しているかすら定かではない。

 辿り着く方法も絶たれている』

「漂泊の民……」

 その言葉を繰り返す。

 その名を聞いたのはマリアさんとの会話以来だろうか。

 居所はわからないのではどうしようもない。


「シル。私はガラス玉の示す先に行くのは変わらず、

 このまま鬼人国との国境を越えたい」

『正気か……と、問いたいところだけど』

 そうして私の顔を見たシルはため息をついた。

『本気みたいだな』

「うん……知るべきだと思うから、異界のこと」


 そうすれば救う糸口が見つかるかもしれない。

 私に何かできるかわからないけど、

 何者でもない私だから見えることもあるんじゃないかと思う。


『ガラス玉……とな』

 獣王にガラス玉を差し出すように指示される。

 私は王の前に進み出て、胸元から取り出したガラス玉を手のひらに差し出す。


 すると王は大きな体を屈ませ、ふむふむと顎に手をやり、眺めた。


「異界には、願いを込めたガラス玉を贈る風習があると聞いて……

 この淡く光ったガラス玉の指し示す先にその持ち主がいるんじゃないかって」

『ほう────たしかにそうだが、元々はその風習は漂泊の民のものだと聞いたことがある。

 よもや、な』


 王は長考し一つ唸ると、私を退がらせた。


 ──────


 新たな旅立ちは静かなものだった。

 獣人国にもう私たちを追うものはいない。

 ただいまだに、聖女への憎しみをシルや私たちにぶつけるものはいた。

 憎しみの輪廻は続く。


 渡された地図を頼りに、城塞都市を抜け数日。

 私たちは国境付近へと向かっていた。

 現在の国境線付近には国境に沿うように横断する鬱蒼とした森があり、

 そこは誰も近付かぬ場所となっていた。

 この森はもともと獣人国に属していたものだと言うが、

 この森近くまで国境を押しこめられたらしい。


 ガラス玉は森のその奥を指していた。


『ここが緩衝地帯になっているのは聞いていたが、

 たしかにこの巨木を焼き払ってまで攻め入ろうと考える者は少ないか』


 それでも鬼人国側では国境を侵犯しようとする者もいるらしく、

 獣人国の兵の拠点が散見された。


 戦え────

 争え────

 戦火を求めよ、我らのために────


 頭に声が響く。微かだが、妖艶な女性の声だとわかる


「シル、誰かの声が聞こえる……」

『俺にはさっぱり聞こえないな……。

 ことはにだけ聞こえているようだ』


 憎しみを求めよ──

 悲しみに贖え────

 闘争に狂え──────


 耳元に囁かれるような気配を感じ、私は振り返る。

 もちろんそこには誰もいなかった。


「この先、嫌な予感がする」


 身震いが止まらない。

 私は体を抱えた。

 恐怖によるものだろうか、それとも。

 シルは私の手を取り、重ね合わせた。


『震えているな』

「そうかも、すこし足が竦んで……」

『俺がいる。忘れるな』

「うん、ありがとう」


 私の緊張をほぐすように、笑いかけるシル。

 恐怖は拭えない。

 けれどそんな中でもシルの言葉は心強かった。


これにて一章完結です。

ここからは二章とさせていただきます。


二章以降は二日に一回の更新となりますので、

ご了承ください。

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