大公謁見(2)
『さあ、シルよ。
そなたに告げねばならぬことがある。
それはそなたの力についてだ』
「力?」
『そうだ』
王が語り出す。
魔力を持つものはいる。
今まで出会ってきた中でいえば、マリアさんなども支えていた。
だがそれは完全なものではなく、中途半端なものだった。
多くは魔力を持ちつつも、それを持て余し、使いきれていないらしい。
そこで作られたのが魔導兵器だった。
魔導兵器そのものはこの世界の戦いにおいて対魔物、対人戦闘においてありふれたものであった。
それが時を経て、研究実践において、だんだんと強力なものになりつつあった。
そうは言っても、魔力源は変わらず、必要量が増えるばかり。
魔力が足りず扱いきれない強力な魔導兵器の実践投入には隷属種や犯罪者などの魔力が使われたが、
それも有限であった。
そこには戦争の惨さを語る一人の王の姿があった。
シルには膨大な魔力がある。
それを使えれば────
『もうそなたら二人とも勘づいているな。
そうだ────"白銀の狼"の魔力があればこの戦いの拮抗は一気に崩れる
魔導兵器は無尽蔵の殺戮兵器となりうるのだ』
「そんな……」
私はシルの過酷な運命に想いを馳せる。
憎しみにより家族を失い、今度は利用される可能性を見出される。
なんて世界は残酷なのだろうか。
ただ少し気になることがあった。わさわざ私たちを呼び寄せて告げた理由だった。
『獣王、俺を使う気はないんだな』
『ああ、そうだ。
もしそなたを使えばこの世界は────』
語るまでもなく、想像に難くなかった。
『経験上、更なる力は更なる災いを生む──それによって世界は均衡は崩れかねない。
救国の聖女がかつて世界を二分したように』
「それをシルに伝える理由はなんですか」
『同じ血を持つ者への情、だけでははない────今はな。
お前たちに祈ろう。
この世界をどうか救ってほしい』
『虫が良すぎるだろう』
『そうだな。シルの言う通りだ』
私たちは戦火に晒された人、利用された人、虐げられた人たちを見てきた。
それを作り出している国の長がこの人だ。
それを止めて欲しいだなんて。
私は唇を噛んだ。
怒りとも違う、行き場のない感情が胸に渦巻く。
『我は束ねる王だ。
この国の戦争も、魔導兵器も、隷属種の犠牲も────
すべて、我の治世の上にある』
重い沈黙が落ちる。
『では、なぜ今まで黙っていた』
シルの声は低く、鋭かった。
『知っていながら止めなかった理由を言え』
太公はしばし瞼を閉じた。
まるで、長い時間を遡るかのように。
『戦いをやめれば、鬼人国が我らの国を蹂躙するだろう。
そして、またあらたな憎しみと悲しみが生まれ、
争いは消えぬ。
我の責務は民を救うことではない。民を守ることだ。
だから託す────王でも、何者でもない、そなたらに』
それに対して、私は真っ向から言った。
「いやです!」
『そうだな──やっぱり、虫が良すぎる』
シルも私に続いた。
私は震える足で進み出る。
流石に傷つけることになると、
王の指示により、
咄嗟に喉元に添えられた剣から解放された。
「私は王の祈りを受け入れない──せめて私はシルや出会ってきた人たちのために祈りたい」
私は────
「自らの意志でこの世界を救いたい!」
それは、王のためでも、国のためでもない。
私自身が背負うと決めた、救いの形だった。




