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献上品

 現城塞都市を治める領主にして、獣人国の選帝王──獣王太公からのお触れが今、広まっていた。

 太公が"聖女の犬"と呼ばれる白銀の狼を探していると。


 その理由は明かされない。


 先日の市街での目撃情報からもしやと思い、

 抵抗者たちの中に紛れている可能性があると踏んだが────


 もし見つけて献上すれば、“腑抜け領主"と言われ父のせいで落ちた家名も少しはマシになると言うべきだろう。


 さあ、見つかってくれ

 私は手をこまねいた。


 ──────


 どうやら追手が来ている。

 そればシルヴァさん──いいや、ヴェルグさんが放った斥候が伝えた事実だった。


『領主側は私兵を動かしきたと思ったが、まさかまだ目的があるのか……』


 領主側の軍は少数で森に入ってきている。

 私たちを追討する構えではなく、誰かを探しているように見えるとのことであった。


『理由は定かでないが、あんたらのどちらか────

 あるいはどちらもか』

 ヴェルグさんは私とシルを見た。


 何にせよ、ここままでは私たちだけではない、

 せっかく逃げ延びた人たちにまで追手が及ぶ可能性があった。


「なら、追手は私たちが引き付ける。だから──みんなは逃げて」


 私は言い切った。

 感情は揺らいだが、判断は揺らがなかった。


 シルはしばらく黙っていた。

 やがて、深く息を吐く。


『……わかった。

 だが条件は変わらない。


 お前が限界だと判断したら、俺は迷わず連れて逃げる』

「わかってる。それが約束」

 私はシルを見つめると彼は少しため息をついて、私を見つめかえした。


 離れる間際、ヴェルグさんは申し訳なさそうに言った。

『すまない。守ってやると言えなくて』


 私は「大丈夫。必ずまた会いましょう」とそう言って、

 ヴェルグさんたちみんなから離れた。


 ──────


「シル」

『あぁ、覚悟は決まっているんだろう』


 私たちは足を止める。

 逃げ切る残ったはここまでだ。

 囲まれている。それは私でもすぐにわかった。


 やはり私たち、いやどちらかを追ってきていたのだ。

 これで他のみんなは助かるはずだ。


 私は彼に背を預け、シルは風を巻き起こし、そのまま獣化した。

 遠吠えが響く。


 すると私たちの追手が姿を現した。

 ジリジリと私たちを取り囲む兵はにじり寄ってくる。


『抵抗はするな。大事な献上品だ。傷つけるつもりはない』


 縦と槍をこちらに向けている。


 シルと私は顔を見合わせると、決心した。

『簡単に捕まるわけにもいかないんだ、こちらは!』


 疾風が巻き起こる。それが風塊を作り出し、やがて竜巻となり暴れ始める。


『あれを使え!』


 そう言って兵たちはとあるもの運び出した。

 それは轟音と共に、シルと私を押さえつけた。


 まるで重い鎖を手足につけられたように動けない。

 シルは膝を膝を折り、地に伏せる。

 私も立っていることができずに膝から崩れ落ちる。


「シルっ!」

『ことはッ、

 くっ、なにを、したッ』


『魔導兵器だ。無駄な労力────

 いや、要らぬ犠牲をかけさせやがって。


 重力操作など高等な魔法でどれだけの隷属種の命が必要だと思っている?』


 その言葉の意味は私でもすぐに理解することができた。

 いまだに周囲の兵たちに殺気を飛ばすシル。

 私は声を振り絞り叫ぶ。


「シル、抵抗は、やめてッ!」

『わかっ、た』


 シルは瞼を閉じ、力なく地に伏せた。そこでようやく、事態は収まった。


 私たちに恐る恐る近づく兵たち。

 槍の先端からは明確な敵意が感じ取られた。


 もう何もしないとわかると、兵たちは私たちを拘束した。


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