託された背中
シルは言った。
『……正直に言おう。
俺は……君を失うのが怖いんだ』
私はその言葉の重さを受け止めきれなかった。
失うことは怖いことだ。
シルの言葉を無碍にはできなかった。
でも私の覚悟は堅かった。
「ごめん、シル。これだけは曲げれないんだ」
『そう言うだろうと思ったよ』
彼は深くため息をつき、肩を落とした。
そして、私に向き直った。
『君が頑固なのはわかったよ。
だから条件がある』
私は緊張からごくりと唾を飲み込んだ。
『お前が倒れそうになったら、俺は迷わず連れて逃げる────
それだけは譲れない』
「わかった」
私の決意、シルの誓い────
私たちなりの、どちらも取った選択だった。
シルは銀髪を隠していたフードを取り去った。
覚悟は決まった、そう言っているようだった。
──────
戦うと決めた者たちは半分にも満たない人数であった。
その中にシルヴァさんの姿もあった。
『あんたらも残ったんだね』
「見届けたくて」
『俺はただのお守りだ』
「シルってば」
まもなく残った者たちに対してヴォルグさんが声をかけた。
『すでに送っていた見張り役が帰らないことを見るに、
もうすでに叔父の配下の私軍が向かってきていると考えられる』
戦うと決めた者たちは、
この場所から逃げる者たちの先導と、
後から追ってくるであろう軍に対して時間稼ぎをすることになった。
ここから街の外へとつながる道を知っているシルヴァさんは先導役に、
戦力となるだろうシルが逃げ出す者たちのしんがりを、
ヴォルグさんはここに残って時間稼ぎとして戦う者たちの指揮をすることになった。
『ヴォルグ、あんたバカなのかい!?
指導者がいなきゃどうすりゃいい?』
『何言ってるんだ?
俺は毛頭死ぬつもりはない。
隘路で迎え撃てばそう人数もいらんだろう。
ここからの撤退がうまくいけばすぐに追いかける、
安心しろ』
体躯が大きく力強そうな彼が一人で迎え撃つと言う。
そんなの無茶だ────
私だけではなく、誰もが、シルヴァさんもが思ったはずだ。
それでも誰も止めなかったのは、彼がある意味招き寄せてしまった事態だからだろう。
私自身も止めたい気持ちはあったが、ヴォルグさんが決めたことを変えさせるわけにもいかなかった。
おそらく私たちが散り散りに逃げ、この"隠れ家"が壊滅すれば追手は諦める。
その指導者的存在で、
実質的現領主であるヴォルグさんの叔父の目の上のたんこぶである、
ヴォルグさん自身を確保もしくは殺害できれば尚更だ。
シルヴァさんも私と同じく、彼を止めたい気持ちはあっただろうが、
託された手前、それは叶わなかった。
一人残るヴォルグさん。
その背を振り返り見ることはできなかった。
してはいけないような気がした。
私たちは託されたのだから。
『あとは……頼んだ』
そんな声が聞こえたような気がした。




