悔恨の烙印──眠りの底で聞いた声
その夜、私たちはシルヴァさんのテントで休ませてもらうことになった。
疑問に思うこと、尋ねたいことがあったが、
"ルール"を前に完成された今、訊くのも野暮だった。
シルヴァさんは私たちに寝床を用意してくれた。
『寝れそうか?』
「ありがとうございます、シルヴァさん」
私は布を被ると横になった。
上等とは言えないが、今までの野宿に比べれば寒さも雨や雪の心配もなく十分であった。
疲れ切っていた私の意識はそのまま深い眠りの底に落ちていった。
悲痛な叫び声。
『やめて!』
『いやだ!熱いッ、あッ』
右手を固定された子どもが逃れようと体をばたつかせる。
けれど逃れる術も、助ける者もいない。
まるで当たり前かのようにその光景が繰り広げられていた。
炉で熱せられたコテが右手に押しつけられる。
途端、喚く子どもの声は断末魔のような叫びにかわる。
その右腕の甲には紋が刻まれた。
解放されたと思えば、また次の子どもの番が来る。
擦れて鳴る拘束具の音、子どもたちの絶叫。
焼きゴテを持った者の下卑た笑い声。
"私"はただその光景を見ることしかできなかった。
本当は助けたかった。
でもそれは叶わない。
だって"私"も、隷属する側だったから。
誰か助けてくれ。"私"を、この子たちを、これから生まれてくるであろう先の未来に生きる子たちも────
──────
私はがばりと勢いよく体を起こす。
胸が苦しく、呼吸がうまくできなかった。
私は夢を見ていた。
私自身ではない。誰かの夢を覗いていたのだ。
おそらくまた私は聞いてしまったのだろう。
誰かの声を。
私が目覚めてしまったことに気がついたシルとシルヴァは私に駆け寄る。
『大丈夫か?』
「ただ夢を見ていただけで。それがちょっと怖くて」
『あまり無理するな』
私の顔色があまり良くなかったようだ。
二人は心配げに私の様子を窺う。
内容を話すほかないのだろう。
「実は────」
私はその夢の内容を語った。
子どもたちが囚われ、烙印を押される様を。
それがまた誰かの夢と共鳴しているのだと。
私が説明すると、まるで何かを知っているかのように、
シルヴァさんは唖然として口を押さえた。
『なるほど、それは──おそらく彼女の夢だ。そうだろう、シルヴァ』
『ああ、そうだ────私の過去の記憶のようだ』
シルヴァさんは驚きつつも困ったように笑った。
「ごめんなさい。夢を見てしまったみたいで。
どうやら私、声を聞いてしまうみたいなんです」
『いいさ。おそらく、私の"後悔"に呼応したのだろう』
「後悔。それは、子どもたちを助けられなかったこと、ですか」
『そうさ────今もまだ私は過去に囚われたままだ』
その悔恨をどうにもできずに彼女はここにいることを選んだ。
「その苦しみや後悔と同じ重さなわけはないと思うけれど、
私にも助けられなかった後悔があるから。
分かり合えるだなんて思わない。
だってその痛みはシルヴァさんだけのものだから」
『あんた、本当にやさしいね。その優しさ──時には裏目に出るかもしれない。でも私は少し救われたよ』
シルヴァさんは意を決したように、重い口を開いた。
彼女は城塞都市の地下で生まれ、
──生まれた瞬間から、人として扱われなかった。
彼女は隷属種であった。
しかも劣悪な環境に押し込められ、働かされてきた。
死んでいく仲間たちは代わりはいくらでもいると言わんばかりに補充され、また過酷な労働に死に絶えていく。
あの光景は七歳になると行われる奴隷紋の烙印。
使役する側の獣人たちによって行われるの残虐なその光景を何度も何度も見てきたらしい。
ある時の暴動でシルヴァさんは命かながら逃げ延び、ここに流れ着いて保護されたらしい。
「強い人ですね、シルヴァさんは……
怖いはずなのに、それでも戦うことを選ぶなんて」
『そうでもないさ。私はそれしか選べなかった。ことは、お前さんならある意味、別の手段を選べるかもしれない』
私なら違う道を歩けると彼女は言う。
私にしかできないこと。
まだ私はこの世界の全てを知らない。
知るべきかはわからないけど、知った上で何かできないか、
そう思った。
怖い夢を見たというのに、私はなぜか前を向いていた。
シルヴァさんに背中を押され、少しばかりの答えをもらった気がした。
それはまだ形にならない答えだったけれど、
私は確かに、立ち止まってはいなかった。




