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答えなきガラス玉

 翌朝私たちはマリアさんにだけ言伝を残し、旅立とうとした。

 子どもたちも私たちに対して各々に思うところがあるだろう。


 マリアさんは立ち会うように呼ぼうとしていたが、

 私たちはそれをあえて止めた。


『元気でね』

「マリアさんもお元気で」


 私とシルが踵を返し、去ろうとした時だった。

 目の前からあの時の小さな女の子が物陰か現れたのだ。

 その子は私を見つけると駆け寄った。


 私は目線を合わせるように屈む。

 何か言いたげな視線。

 でも言い出しにくかったみたいだった。


 私は「どうしたの?」と優しく尋ねた。

 すると、少女は無言で私にあるものを差し出した。


 私は一瞬、それを受け取っていいのかわからず、手を止めた。

「ちいさなガラス玉?」

『あげる』

「綺麗だね。もしかして大事なもの?」

 彼女は再び頷いた。


 一部始終を見ていたシルが説明する。

『大事なものに願いを込めて、贈る。そんな風習が異界にはある』

「そっか」

 私は再び少女に向き直ると、「ありがとう」とだけ告げた。


 彼女が願ったものが何かは分からないけど、大事なものを私に託してくれた。

 それだけで十分だった。

 救えなかった。

 祈りも届けることができなかった。

 それでも──心の芯にあたたかい炎が点った気がした。


 ──────


 困っている、苦しんでいる人のために力を使えるなら、救うために使いたい。

 そう思っていたけれど、それは少し横暴で、私のわがままだったのかもしれない。


 救いを与えるのは救う側の人間のエゴだ。

 もしかしたら偽善にも近いのかもしれない。


 この加護は万能ではない。

 救われたいと願う意志がなければ通じない。

 祈りは届かない。


 ふと歩みを止める。

 私に歩調を合わせていたシルも足を止めた。


『どうしたのかな?』

「考え事だよ────

 この加護は何のために与えられたんだろうって」

『意味か。それは君が行動するのに必要なのか?』

「えっ」

『君はなにかに動かされる様な人間じゃない。

 自らの心で動ける人だ』

「自分の心か」


 今思えば、決して強くない心を持った私はその時その時、自らの心を行動で示してきた。

 私に正しさなんてない。

 ただ考えたこと感じたことをしてきただけだ。


 シルは顔を俯けたままの私を待ってくれていた。

 私は今度こそ顔を前に向けてシルに言う。


「正しさも意味も分からないけど────」

 私はしまっていたガラス玉を取り出した。

 それは朝日の光を受けて輝いた。

「どんなに苦しくても、進むよ。前へ」


 私の言葉に、朝の寒さで白い息を漏らしシルは言った。


『あぁ、そうだな。

 もし間違っても安心してくれ。俺がそばにいる』

「それは心強いや」


 私は満面の笑みでシルに向けた。

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