まつろわぬ民
追いかけた先、そこにはまさかの集落があった。
質素な家々が寄り添うように建ち並び、
逃げ込んだ子どもたちはその一角に姿を消した。
次の瞬間だった。
営みを続けていた人々が、一斉にこちらを見た。
老若男女、誰一人として視線を逸らさない。
「人がいる……でも、なんだか」
違う。
これまで出会ってきた人たちとは、明らかに。
衣服も、生活も、空気さえも。
『白銀の狼だ』
シルの狼姿が明るみになっている。
まずいと思ったが、私たちの考えとは裏腹に、人々はその場で膝をついた。
『神の御使がこの地に帰還された』
『背にいるのは』
『聖女だ────』
この人たちは何か知っている。
私はシルの背から降りた。
すると集落の長老らしき人物が進み出た。
すると私の前に膝をつき、私の手を取った。
『おかえりなさいませ、聖女よ』
「え、あ、わ、私はそんな大したものではなく」
慌てる私に、シルが『しっかりしろ』と一喝する。
『この集落の者達には────おそらく、人界の者達と違う言葉を、文化を持つ者たちのようだ』
その人達は自らをこう名乗った────救国の聖女の救いを望まなかった者達だと。
────
長老に招かれ、私たちは集落のの集会の場へと向かった。
そこには子ども達だけではない、大人達や老人達も私たちを取り囲むようにしていた。
『聖女様が戻られたということは、この世界に破綻が生まれたということじゃな』
「破綻?よくわかりません。私はただの人です」
私はそう答えただけであったが、長老は感嘆した。
『なんと、我々の言葉を聞けるのか』
「それって、どういう────」
戸惑う私にシルがそばで助言する。
『おそらくこの民達が話しているのはかつてこの地に存在した言語だ────
ことは。君は人々だけでなくあらゆる者つなぐ存在。そうだな、これを仮に"言の葉の加護"と名付けよう』
『神の御使がいう通り。我らは一つの言葉に染まることを選ばなかった者、
一つの信仰や文化に恭順しなかった、まつろわぬ民の一つじゃ。
それゆえにこの地に根付いた』
一つの文化、一つの言語、一つの信仰。
そう言われて全て合点が言った。
この地を訪れる前に感じた違和感。
皆一様の衣装に身を包み、同じ信仰や王を戴き、文化を持っていた。
この村はそれとは異なり、異質だった。
『かつての聖女が言った────かの王国は理想郷だと。ただわしらは望まなかった』
「豊かさ、同じ信仰、同じ言語であれば争わぬと。
そういうこと、なのかな」
『そうだという者もおるじゃろう。だからわしらは否定せぬ』
否定しない。
それがまつろわぬ民の選択だった。
シルは重く沈黙し、話を聞くだけだった。
話を終えた長老は私たちの元を離れた。
大人達はどちらでもいい、滞在してもしなくても、と言った。
子どもたちは外からの来客が珍しかったのだろう。
私たちを好奇の目で見ながらも、近寄ってきた。
シルなんかはすこし迷惑そうにしながら遊ばれていた。
遊ばれ疲れたシルは珍しくぐったりしていた。
でもここで滞在するわけにも行かない。
猶予が残っていないのもそうだが、もしこの国の王の先鋒に見つかれば、
なにかこの地の民たちに実害が及ぶことも否めなかったからだ。
私たちはその日の午後にはこの地を後にした。




