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失格聖女、異世界に降り立つ

 我々とは違うどこかの惑星もしくはどこかの世界。

 そこは私の知っている世界とは違った。


 人は誰もが分かり合い、憎しみ合わない、争いのない理想郷──

 一つの言語、一つの文化、一つの人種で構成された場所であった。


 もとにいた世界と比べるとそこははるかに美しかった。

 まさに神によって祝福されたといっても過言ではなかった。


 この世界を生み出したのはたった一人の聖女によるものだったらしい。

 混沌とした世界からは悲しみや憎しみが絶え間なくあふれていたが、

その力により聖女は争いの絶えないこの地に平和をもたらした。


 その人は救国の聖女と呼ばれた。

 そのものに連なる家系が今もこの世界を統治している。


 それは完全なる救国であった。


 その統治が数百年続いた。

 人々は永世の平和を享受できると信じていた。


 だが今になって市外の村落に魔のものが現れ始めた。

 人々は恐怖に惑い、王を頼った。

 しかし、王はその答えを持ち合わせていなかった。


 王は神に願った。

 やがて、一人の美しい獣人、風と共に白銀をまとった若い狼がこの世界に現れた。


 それはかつて分断された向こう側に追いやったはずの獣であった。


「負の情念は断絶されていたはずだが、澱は溜まり続けた。

 いま魔族はこちら側よりあふれ出している。


 わが肉体を使い、再び救国の聖女を召喚せよ。

 さすれば世界は救われる」


 その瞳には神が宿っていた。その者は神からの使いであった。


 そして王と神官たちはその者の言葉を信じ、

 再び救国の聖女の召喚へと臨んだ。



 ─────────



 気づけば私は光の中に立っていた。


「これはどういうことだ」


 光の向こう側から聞こえた第一声がそれだった。


 私は目を細めながら、その声の持ち主の影を見やった。

 ひげを長く伸ばし、片手には杖を持った初老の人物が玉座ともいうべき腰掛から立ち上がり、

私ともう一人の女性、いや女の子というべき年齢の人を見下ろしていた。


「聖女は一人だけでは?」

「二人召喚されたなど伝説には残っていないはずだが」


 私たちを囲うように取り巻く白い衣をまとった人物たちは口々に私たちを見やる。


 そんな中、私の脳裏には違う美しい男の声が聞こえていた。


『痛い。助けてくれ。だれか』


 私はその声に振り向く。

 そこには何やら幾何学模様の円状の陣の傍らに放りだされたようにうずくまる美しい獣がいた。

 血にまみれた、その白銀の獣、狼らしきもの。


 私はその獣に駆け寄った。

 たぶんこの子から聞こえる。

 間違いない。


「痛いね。けど、助かる。助けるから。信じて」


 その瞳はうっすらと開かれる。青い眼に私を映し、そして笑った。


『成功したのか。じゃあ、俺の役目は終わりだな』

「だめ。きっともっと生きる理由がある。”生きて”」


 なぜそんな言葉をかけたのかはわからない。かけなきゃいけない気がした。

 でもきっとその言葉が力になることなんてない。だって私はただの力ない人だ。

 その狼は私の言葉を聞くと、力なくまぶたを閉じた。



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