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84 戦いの後

  私たち――私とロナとトルストイさんとお供の人は、まだ混乱する平民街の人々をよそに、取り急ぎ襲撃してきた魔法使い達5人の身柄を確保し、馬車に積み込んだ。

 

 綺麗な馬車なのに申し訳ないと思うが、襲撃者達の身柄を兵士や騎士の人達に任せることは出来ない。

 

 首が変な方向に曲がっているのが2人、顔が完全に潰れて凹んでいるのが1人。この3人は一目見て絶命していると分かった。残りの二人はかろうじて息があったが怪我の具合がどの程度かは私たちには分からない。

 

 馬車が貴族街に向って走り出すと、私とロナは襲撃者達を裸に剥きつつ魔法石を探す。死体と瀕死の怪我人から所持品を漁る子供2人。さぞや酷い光景だろう。だが私たちにとってはお楽しみタイムでもあるのだ。

 

 私たちは揺れる馬車の中、次々と魔法石を収獲していく。

 

「ガタンッ」「あっ」「おっと!」「おぉ!?」


 貴族街と違って平民街は道が悪い箇所もある。少し大きく馬車が揺れた瞬間、ロナが収穫したばかりの魔法石(仮)を取り落とした。

 

 咄嗟に手を伸ばしたがギリギリ届かない。私は思わず「異空間収納」の魔法を発動していた。直後、馬車の床には落ちずにスッと消える魔法石(仮)。

 

 同時に「異空間収納」の魔法に魔法石(仮)が収納されたのが分かった。我ながら素晴らしい反射神経。完全に油断していたのに、ほぼ無意識に「異空間収納」の魔法を選び、使っていた。

 

「ナイスキャッチ」


「キャッチしてないけどね」


 私とロナは少し笑いあう。

 

 まあ、馬車の床が死体と瀕死の怪我人で埋まっていなければ少し余分に手を伸ばして全然余裕でキャッチ出来たし、私が手を出さなければロナが普通にキャッチした筈だが――と、その時、ふと何か思いついた気がしたが、再び馬車が揺れて霧散した。

 

 確かに何かを思った筈なのだが――思い出せない。どうにももやるが仕方ない。

 

 ちなみに馬車の中が狭くなったという事で、トルストイさんとお供の人は御者席に移動してくれていた。この光景を予想していたのだろうか。

 

 1つ見つかるごとに私が僅かに魔力を注いでみる。するとヨーコが何の魔法石か教えてくれる。 

 

 5人もの魔法使いが居たにしては、所持している魔法石は多くなかった。だが中には稀少な魔法石もあった。

 

 その内訳は「氷槍」の魔法石、「飛礫」の魔法石×2、「炎弾」の魔法石、「氷礫」の魔法石、「透明化」の魔法石、「認識阻害」の魔法石、「擬態」の魔法石、「隠形」の魔法石×2、「集音」の魔法石、計11個だ。

  

 私とロナでどう分けるかは後で決めるとして、魔法使いを倒したのは私とロナなので、これは全部、私たちが貰うべきものだ。領主には感謝しているが、そこだけは譲れない。

 

 とりあえず、絶対安全な私の「異空間収納」の魔法にまとめて放り込んでおく。

 

 それにしても今回の戦いはかなり恐ろしい思いをした。 

 戦闘そのものは「ほんの一瞬」と言って良いほど短時間で終わったが、開幕の魔法弾幕でいきなり全魔力の半分以上が削られた。

 

 そもそも今まで魔力が減ってると実感した事があまりない。あったかもしれないが記憶には無い。

 

 それが(敵の)魔法1回でガバッと減った。正直、身体が急に無くなったのかと感じたほどだ。 

 その事を小声でヨーコに聞くと、答えてくれた。

 

(人によって差があるからあくまで目安だけど、だいたい魔力1なら普通の魔法を1回使ったら枯渇しちゃう感じよねぇ。つまり魔力10なら魔法を10回連続で使うと枯渇する感じかしら) 

 

 いや、でも、そんなくらいで枯渇しちゃうなら私はとっくに枯渇しているのではないだろうか?

 

 なのに今まで結構魔法を使ってきたけど、半分以上減ったと思ったのは今回が初めてなのだが――。森での魔法建築の練習の時とか、かなりの回数使ったし。 

 あと身体強化や魔力探知は割と常時使ってる感じだし――?

 

 ヨーコは首を傾げる私に、疑問が晴れないのだと察してくれたらしく、説明の続きをしてくれた。

 

(ちなみに魔力は完全に枯渇したら生き物は死ぬからね。で、ほぼ魔力残量0から1時間くらいで全快の満タンになるわ。ちなみのちなみに身体強化は魔力を放出せずに体内で循環させるので殆ど減らないわ。それでも身体強化を全開で発動しつづけたら1時間で4~5割くらいは減るわね。いつもは身体強化してると言っても全然、全開じゃないからね。そして魔力の消耗速度は戦闘中が最も速いわ。逆に平時だとあまり減らないの) 

 

 なるほど、それで今まで魔力量を気にした事がなかったのだ。今までは魔力が枯渇するような状況にならなかったのだ。

 

「あとさ、さっきこいつらの身体強化、メチャクチャ凄かったのに、なんで余裕で勝てたのかな?」

 

 せっかくなので疑問に思っていたことを、小声でもう1つ聞いてみる。

 

 こいつらに囲まれた時、あまりの魔力反応に恐怖で体が竦みそうになった。軽く私の2倍以上は補正がついてそうだった。

 

 軽く掴まれただけでも簡単に捻り潰されそうなほどの強大な魔力反応だった。

 

(あぁ、それは単純なことね。身体強化で強くなるのは単純な身体能力だけなの。要するにメチャクチャ力の強い素人ね。対してミラの棒術は熟練の戦士と言っていい程で、そこへ身体強化も乗ってるからトータルで達人級よね。ミラやロナはハッキリ言って魔法使いとしては特殊なのよ。魔法使いのくせに接近戦の武術メインなんてあまりいないから、その差が出たんだと思うわ) 

 

 なるほど、言われてみれば簡単な事だ。いくら単純に力が強くてもそれだけで達人相手に楽勝できるわけがない。状況次第では力がメチャクチャ強い素人が勝つこともあるだろうが、油断せず戦えば普通に達人が勝つだろう。

 

 ふと見ればロナはうつらうつらとしている。私とロナ以外、死体と瀕死の怪我人が転がっている状況だが、そんな事より疲れたらしい。まあ、私もかなりシンドイ。

 

 そんな状況で引き続き馬車に揺られていると、領主館に着いたらしい動きに変わった。私は一応、ロナを揺すって起こす。

 

「――着いたん?」


「うん、領主館」 

 

「あー、そうだった」 

 

 そうしている内に馬車が止まって扉が外から開けられた。開けたのは領主館の兵士で、馬車の床に裸に剥かれた死体が幾つも転がっているのを見て一瞬怯んだが、私とロナに頭を下げた。

 

 私たちが馬車から降りるとトルストイさんが待っていた。

 

「ご案内いたします」 

 

 いつも通り、トルストイさんに案内され、今日はいつもの応接室よりかなり大きめな応接室に案内された。ここも初めて来る部屋な気がする。一体、こういう部屋が幾つあるのだろうか。まあ、相当あるんだろう。貴族だし。

 

 部屋の中に案内され、デカい長椅子にロナと2人で腰掛ける。向かいの長椅子が空いていてこれから領主が来るんだろう。そして横の豪華だが小さめの椅子にはアンネリーゼが座っていた。

 

「ミラ、ロナ、久し振りだな」 

 

「アンネリーゼ様。お久しぶりです」 

 

「どもっす」 

 

 ロナと二人、簡単に挨拶を交わすが、今日はいちいち嫌な顔をする貴族は居なかった。

 

 そうこうする内、領主が慌ただしく応接室に入ってきた。その後ろから豪華なドレスを身に纏った貴婦人も一緒で、それぞれの側近も伴っていて、あっという間に室内は貴族だらけになった。

 

「すまんな、ミラ、ロナ。側近達がどうしても同席したいと引き下がらぬのでな。まあ居ないものと思ってくれれば良い」 

 

 かろうじて頷いて見せたが、そう言われても何と答えて良いか分からない。

 

「そして、こっちは俺の2人目の妻でマリアローゼ。アンネリーゼの母だ」 

 

 領主の言葉でマリアローゼと呼ばれた貴婦人が立ち上がって儀礼的な姿勢になった。

 

「お初にお目にかかります、マリアローゼと申します。ミラ様、ロナ様、いつも夫とアンネリーゼがお世話になっております。どうぞ夫や娘同様、仲良くしてくださいませ」


 そんな風に丁寧に挨拶され、私も慌てて立ち上がって頭を下げる。

 

「よろしくお願いします、マリアローゼ様」


「よろしくおねがいします」


 ロナもさすがに言葉を崩さない。ロナは空気を読める子なのだ。

 

「良し、挨拶は済んだな。では皆、下がってくれ。このままでは堅苦しすぎて2人が口をきいてくれん」 

 

 領主がそう言って、不満そうな側近の人達を下がらせてくれた。

 マリアローゼ様の側近が1人とトルストイさんが残り、扉の内側に護衛の騎士が1人立っているくらいになった。 そうなると、急に応接室内がめちゃくちゃだだっ広く感じる。

 

「――使いに出したトルストイが言ったと思うが、お前たちにも来てもらって領主館の守りを固めようと考えていたのだがな。既に決着がついたと聞いている。ご苦労だったな」

 

 私は一応首を横に振っておいた。

 

「――今回は狙われたのは、俺と俺の家族だった。息子どもは狙われなかったが、単に居場所が分からなかったんだろうと考えている。そして襲撃の理由は恐らくギーストリアを捕縛して奴を取り調べさせているせいだろうと思われる。黒幕はおそらく広域犯罪組織と目される組織だろう。複数の領地にまたがって犯罪行為を行う組織だと言われているが簡単には尻尾を掴ませぬ狡猾な組織だ。奴らのこの街への足掛かりがギーストリアであったため、それを潰した俺は奴らに喧嘩を売ったとみなされたのだろうな」

 

 領主は苦い顔だった。まあ領主の言ったことは推測ばかりだし、実際、相手の全容も拠点も、組織の名前すら分からないので、こちらは今のところ受け一方だ。そんな顔にもなるだろう。

 

「まあ、それは良い。それより今日はミラとロナにマリアローゼを紹介したかったのだ。と言うのも、本人から紹介せよとせっつかれておってな」

 

 一転、領主は苦笑しつつそんな風に改めてマリアローゼ様を紹介した。

 

「今話題のカレーライスを開発したのが客分の魔法使い様で、しかもこんな小さいお嬢様方と聞いて、ぜひ一度お話したかったんです」 

 

 夫である領主の言葉を受けて、マリアローゼ様が笑顔でそう言った。

 まあ、そう言われても私たちの方から何を話せばいいか分からないが――。

 

「では、ミラ、ロナ、俺はこれで失礼する。今回も我が領地に仇なす者の討伐に協力してくれたこと、感謝している。何か欲しいものがあれば遠慮なく言ってきてくれ。いつでもいいぞ。――ではな」 

 

 そう言って領主はトルストイさんを残して応接室を出て行った。慌ただしいのはまだ色々、後始末とか大変なんだろう。

 

 その後、私とロナはマリアローゼ様に請われるまま、前の街モンテシエラを逃げ出した顛末などを代わる代わる話して、色々感心された。

 

「――はぁ、その歳で……身につまされるわ」 

 

 マリアローゼ様はそっと目元に布を当てる。彼女がするとメチャクチャ上品な仕草に見えるが、それはそれとして、まさか平民の孤児の境遇にホントに心を痛めた訳ではあるまい、などと失礼な事を考えるくらいには、私は貴族というものを信じていない。

 

「――ふっ、ミラよ。母上はその辺の凡百の貴族夫人とは違うぞ」 

 

 視線を動かすとアンネリーゼがニヤリと笑っていた。うっかり考えが表情に出ていたらしい。

 

「良いの良いの。私も身に覚えがあるもの」 


 正直、住む世界が違い過ぎるので「身に覚え」と言われても、どの辺だろう?と首を傾げそうになる。

 

 そんな私にマリアローゼ様がとんでもないことを言い出した。

 

「ミラ様、実は私も平民出身なの。そして私も少女の頃に魔法石を拾って魔法使いになったのよ。だから本当に貴女達の環境を理解できるわ。だから何だという訳ではないのだけど、心から貴女達と、お友達になりたいと思っているわ」 

 

「――それは、何と言うか、光栄です」 

 

 私は何とかそれだけ言う事が出来たが、暫く開いた口が塞がらなかった。



読んでくれて、ありがとうございました♪

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