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83 襲撃3

 襲撃の少し前、宿の食堂。

 

「――ミラ様ロナ様、度々申し訳ございません」 

 

 トルストイさんが深々と頭を下げた。慌てて供の者も追随する。

 

「いや、気にしないで下さい。それで今日はどうしました?」 

 

 時間は既に夕刻。あとはカレーを食べてレモンティを飲んで寝るだけのミラとロナだったのだが、トルストイさんが来たと言うので慌てて食堂まで降りて来たらこの通りだった。

 

 貴族が年端もゆかぬ少女たちに深々と頭を下げる光景に、宿の女将さんや従業員が青ざめて視線を彷徨わせている。

 

 まあ、確かにトルストイさんが言う通り、ここのところ領主館に度々呼び出されているとは感じているが、そんなことより「今」死ぬほど悪目立ちしている事に気づいて欲しい。

 

 トルストイさんに促され、食堂の一番奥の壁際のテーブルまで行き、椅子に座る。トルストイさんの供の者が人払いするように私たちのテーブルの傍らに立つ。

 

「――実は今日の昼ごろ、領主館で事件がございまして……」 

 

 挨拶もそこそこにトルストイさんが話し始めた。内容は驚くべきものだった。何と、領主とアンネリーゼが、領主館の中で魔法使いに襲撃されたというのだ。

 

 襲われたのはほぼ同時刻、それぞれ別々の場所であり、犯人は最低でも2人以上の魔法使いだという。

 

「――幸い、我々にも備えがございましたのでご領主様、アンネリーゼ姫様共にご無事です。そして現状、襲撃犯として最も可能性が高いと思われるのがギーストリアの背後に居たと思われる広域犯罪組織です。もし我々の推測の通りでしたら、ギーストリアを討伐なさったお二方も狙われる可能性がございます」 

 

 なるほど、それでトルストイさんがわざわざ急いで警告しに来てくれたのだ。

 

「敵の戦力も定かではございません。危険ですので領主館へおいで下さいませんか?」 

 

 そして、守りの固い領主館で守ってくれるから私とロナも協力しろってことか。そんな状況なら非常に有難い話だ。領主には毎度気を遣わせて申し訳ない。

 

 しかし今後もこういう襲撃があるなら、さっさと森の拠点を作り、長期間立て籠もって防衛出来る感じに仕上げないとダメだ。

 

 それはともかく、今は襲撃事件だ。

 

「分かりました。お世話になります」 

 

 私がトルストイさんにそう返事を返した時、ヨーコの声がした。

 

(――ミラ、気のせいかな?って思ってたんだけど……)


 ヨーコが言うには、どうも近くに魔法使いらしい魔力反応があると言う。その魔力反応はトルストイさん達を尾行するように現れて、今も宿の近くに待機しているらしい。

 

 しかもはっきりしないが複数人いるようだ。正直、ここまでタイミングが良すぎると、間違いなく領主館襲撃犯だと思われる。 


 自分でも慌てて魔力探知をしてみるが、私には分からなかった。ヨーコが気のせいかと思ったくらいなので相手が上手く隠しているのだろう。


「――トルストイさん」


「はい」


「どうも、既にその襲撃犯に見張られているようです」


「……お分かりになるのですか?」


「はい。私たちも魔法使いなので」


 ホントは自力じゃ分からないのだが、何となく見栄を張ってしまった。ロナは私を見て少し目を丸くしている。あ、気が急いてつい、ロナに先に教えるのを忘れてしまった。


「そういたしますと、お二人はこの宿で敵を迎え撃たれますか?」 

 

「――それだと宿に迷惑をかけるので……」 


 宿の女将さんだけでなく、他のお客や従業員も巻き込んでしまう。敵の魔法使いの攻撃規模が今聞いた通りだと宿丸ごと破壊されるかもしれない。

 

「でしたら、危険ではございますが、我々と領主館へ急ぎましょう」


「間違いなく途中で襲われると思いますけど――」 

 

「微力ながら、私もお二人の前衛として戦わせて頂きます」

 

 そうまで言ってもらって有難いが、相当危険だ。しかし留まっても同じかそれ以上に危険なのだ。

 

「じゃあ、すぐ行きましょう」


「かしこまりました」

 

 ☆

 

 宿を出ると私とロナはトルストイさんとお供の人について歩く。その間も全開で魔力探知しているが、まだそれらしい魔力反応を感じない。だがヨーコはハッキリ補足しているらしい。

 

(後ろから1人ついてくるわ。あと4人ほど離れて行ったから少し先で待ち伏せかもしれないわねぇ) 

 

 少し先というと、この路地では仕掛けず目抜き通りに出てからという事か。

 

「ロナ、『剛体』最優先で、切らさないで。その上で魔力探知出来たら攻撃してもオッケー。私は一人ずつやる。まず後ろのやつからいくから」

 

「了解」 

 

 歩きながらロナと小声で作戦会議を済ませる。大体の敵の位置を共有し私の動きを先に言っておく。ロナは器用で賢いので勝手にあわせてくれるだろう。

 

 ちなみに「剛体」の魔法はギースが使っていた魔法で、身体がメチャクチャ頑丈になる。ギースとの闘いでは私が不意討ちで思いっきり首筋に短剣を突き立てたにも拘らず、皮一枚薄っすら傷がついただけだった。

 

 物理攻撃に対しては相当強い筈だし、物を飛ばして来る系の魔法にも強い筈だ。問題は「雷撃」の魔法みたいな形の無いタイプや魅了などの精神系、以前ヨーコにチラッと聞いた防御を無視する威力貫通系だと通用しない可能性が高い。

 

 実際、私もギース戦のトドメは「雷撃」の魔法を頭に喰らわせた。

 

 いつものことながら、相手の実力が分からないまま戦いになるのは怖い。相性が悪かったり、圧倒的に相手が格上だったりすると何も出来ずに終わる可能性がある。終わるのは「戦い」ではなく「自分の命」だ。

 

 その時、目の前に領主館の豪華な馬車が見えて来た。同時に周囲で魔力反応が急激に高まる。私の魔力探知でも余裕で探知できるほどの大きな反応。敵はもう隠すのを止めた。つまり攻撃が来る。

 

「来るよ!」


 私はトルストイさんにも聞こえるように声を張り、「透明な防壁」の魔法をドーム状に張り巡らせる。 

 

 同時に周囲から一斉に遠距離射撃系の魔法が次々と飛来した。それが私の「透明な防壁」に衝突して次々と破裂していく。

 

「バババババァンッ!」「ドガガガガッ!」「ドドドドドォンッ!」

 

 轟音が鳴り響き破裂片が飛散する。はっきりは分からないが炎の塊と氷の塊、石の塊が大量に飛んで来ているようだ。

 

 そして「透明な防壁」が飛来する攻撃魔法を弾くたびに私の魔力が急速に消耗するような感覚。今まで感じた事の無い感覚で、正直血の気が引いた。

 

 ハッキリした数値は分からないが魔力の消費量が尋常ではない。今の攻撃で間違いなく半分以上持っていかれたはずだ。つまりもう一度同じ攻撃は耐えられない。

 

 攻撃魔法が砕け散り、煙の様になって濛々と周囲に立ち込め視界が曇る。

 

 その瞬間、私は「短距離転移」の魔法で2度飛んで、後ろからつけていた男の背後に出現した。

 

 男は私の出現に反応を見せたが、振り向く前に横っ腹に全力で杖を叩き込んだ。

 

 間違いなく男の脇腹を砕き、男は数メートル吹き飛んで建物の壁に激突し動かなくなった。

 

 そのまま、「短距離転移」の魔法を連打して一気に別の男達との距離を詰める。魔力は既に枯渇しかけていると感じる。このまま時間が経てば身体が動かなくなるかもしれない。一気に勝負を付けなくてはいけない。

 

 ロナが肉弾戦で1人吹き飛ばすのを後目に、私は2人で固まっている男たちに仕掛けた。もう魔力があまりないので身体強化頼みの棒術で戦うしかない。

 

 だが私の瞬発力は補正込みで普通の大人の男の人の4倍を超えている。棒術もすでに熟練級だ。地味だが私の最強の武器で一気に突撃した。

 

 2人の男達は私の動きをしっかり目で追って、私を前後に挟み込むように連携して動いた。これはマズいかもしれない。おそらく彼らは魔法と暗殺の達人で私より遥かに経験豊富。身体強化も相当鍛えられているだろう。魔力反応で判断するなら補正込みで私の2倍以上の能力値になってそうだ。

 

 だがもう行くしかない。私は文字通り私を叩き潰そうと待ち構えている、自分より遥かに身体強化されている筈の敵に向って飛び込むしかなかった。

 

 私は恐怖によって限界を越え、更なるスピードをひねり出した。私の杖先は自分でも見えない速度で男達の頭部を打擲した。 

 男達にも見えなかったらしく、あっけなく頭部がはじけ飛び、首がおかしな方向に曲がる。

 

 私は大量の汗が噴き出すのを感じつつ、最後の敵に向って止まらず走った。

 

 ☆

 

 ミラが飛び出して行くと同時にロナもまた狙いを付けていた敵の魔力反応に向って飛び出した。

 

 気付かれる前に一撃を入れる!その思いで必死に走ったが直前で気づかれてしまった。

 それでももう今更攻撃を止めたり、逃げたりという選択肢は無い。

 

 ロナはミラに言われた通り「剛体」の魔法でキッチリ身を固め、身体強化で強化された肉体に任せて拳を振りぬいた。

 

 拳が男に命中する前に顔や体に強烈な衝撃が来た。男の魔法攻撃だった。僅かに遅れて拳にもさらに強い衝撃が来る。

 

 男は血を撒き散らして吹き飛んでいくが、ロナも顔や体の攻撃魔法を食らった部分がもげてしまったんじゃないか、と言う程の激痛を感じてガックリと膝を付いた。

 

 ロナがどうしようもなく震える指先で顔や体を触って確認すると、僅かの出血もない。「剛体」の魔法の防御力は本物だった。ただ、痛みからは守ってくれないと言うだけで――死ぬほど痛いというだけで――。

 

 それでもロナは痛みより怒りで体を支えて立ち上がった。

 

 全速力で最後の魔力反応に駆け付けると、ミラが男を魔法で拘束して締め上げているところだった。

 

 ロナは怒りに任せて男に近づくと、ミラから渡された「雷撃」の魔法で止めを刺した。

 

 この程度であの激痛の恨みは晴れないが、何もやり返さないよりマシだった。

   

 ☆  

   

 最後の一人は既にこの場から離れようとしていたが、攻撃の瞬間から魔力反応は掴んでいるのであっという間に追いつき追い越し、進路に立ち塞がった。

 

 私に敵だとバレているのを察し、即座に走り出そうとする男を、私は用意していた「透明な腕」の魔法で捕まえた。

 

 ギースはこの「透明な腕」の魔法を相手を殴る拳のように使ったが、私は何かを掴むイメージが使いやすい。

 

 この「透明な腕」の魔法は建材を楽々持ち上げられるほどのパワーがあるので、人間一人捻り潰すのは簡単だ。

 もっとしっかり力を籠めるとホントにそうなりそうだったが、ロナが来て男の頭に「雷撃」の魔法を食らわせ、止めを刺した。

 

 ちなみに今回「雷撃」の魔法はロナに切り札として渡してあった。ロナはまだ攻撃の魔法が少なく威力もそれほど育って無い。だが、頭に直接「雷撃」の魔法を食らえばギースでも気絶するのは実証済みだ。

 

 こうして襲撃犯は全員制圧したが、街は甚大な被害を受けたのだった。



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