82 襲撃2
突如、立ち上がった新たな襲撃計画は、瞬く間に形を成し、2人の男達は実行の時を今や遅しと待つばかりだった。
「――待て待て待て」
「そんな事だろうと思ったぜ」
「なっ!?き、貴様等、何故ここに?」
計画を練る2人の男が自分達の作戦にゴーサインを出したのを見計らったかのようなタイミングで、彼らを囲むように3人の男が現われた。
彼らは2人の同僚だった。同じ組織に所属する魔法使いだ。
「俺たちは追加要員だ。というか『追加要員だった』」
2人は「だった?」と疑問の表情を浮かべた。
今になって急に3人も追加してくるなど、完全に上層部がここの領主の戦力を見誤っていたという事だ。いい加減な命令で送り出しやがって――。暗殺者の男は内心で自分達の組織の上層部に毒づいた。
「今はお前らの補助と見張りだ。特にあのガキ共は良く分からんのでお前らが手を出しそうなら止めろと言われている。手遅れなら最悪、後始末をする予定で来た」
「もうちょい早く補助が欲しかったぜ」
「お前らが此処まで早く動くとは上も思わなかったようだ」
暗殺者の男は自分が終わったと思った。起死回生のつもりの襲撃計画を止められてしまったら、持って帰れる手柄が無い。だが――。
「――けどよ、魔法使い5人だぜ?負ける訳なくね?」
援軍の3人の内の1人がぼそりと呟くと、全員が黙ってしまう。皆、同じ考えだったからだ。
多少は強いのかもしれないが、所詮、まだ10歳前後のガキという話だ。それがそもそも信じられないという事もあるが、事実だとしたら猶の事、そんなガキ2人と自分達大人の魔法使い5人。勝負にもならないのではないか。
「――やっちまうか?」
誰かがそう言った。
「――そうだな。ついうっかり殺っちまいました、って感じでな」
「しっかり殺して魔法石を回収すれば上も文句は言わんだろ?」
「――オレたちは有難いが……」
暗殺者の男は、予想外の展開に期待を込めて他の4人を窺った。
その時、先ほど宿に入って行った貴族が供を連れて出てきた。更に一行の人数が増えている。
改めて観察すると、入って行った貴族とその供の者が1人。その後ろにかなり小柄な人影が2つ。
「――おい、まさかアレじゃないだろうな?」
「確かにそこまで弱くは無さそうだが……だがあれは何歳だ?10歳にもなっていないんじゃないか?」
「いや、まあでも、情報通りだ。歳なんか関係ない。しかもちょうど向こうから出て来てくれたんだ。領主館の方は超腕利きの魔法使いが厳重に警戒してるはずだ。正直5人でもきびしいかもしれん。領主館に戻っちまう前が絶好の機会だぜ?」
「――よし、殺るぞ」
皆、心は既に決まっていた。全員が無言で頷いた。
☆
貴族の一行を秘かに追いながら、何処で仕掛けるのが良いか、暗殺者の男は考える。
今すぐ仕掛けると平民街に多大な被害が出るだろう。それは別にどうでも良いのだが、混乱に乗じて逃げられる可能性がある。
破壊された平民街が混乱を極める中、そこに紛れた一行は探しづらいだろう。しかも今は既に夕刻。視界もどんどん悪くなる。
となると平民街の目抜き通りで仕掛けるべきか。それなら多少クリアな視界を確保できる。あの貴族が待たせてある馬車と合流する時は襲撃のチャンスと言えるだろう。
貴族街の方が人が少なく道が広くて綺麗なので仕掛けやすいが、領主館に近く、援軍が来やすい。格上の魔法使いは領主一族の護衛で動かないと思うが絶対来ないとも言い切れない。
「よし、馬車に乗る前に仕掛けよう」
暗殺者の男の言葉に他の4人が頷いて先行する。馬車の周りに陣取って待ち受けるのだ。
その間、暗殺者の男は貴族と少女達の一行を追う。一見、ただの親子連れにも見えるので微妙に緊張感を削がれる。あんなのが本当に例の標的なのか――?
緩みそうになる気を引き締めつつ、尾行を続けるうち、貴族と少女たちの一行が安宿や食事処の集まる通りを抜けた。少し先に目をやると場違いに豪華な馬車が止まっている。
今だ!そう判断し、暗殺者の男は一気に魔力を集め「氷槍」の魔法を発動。自分の限界まで氷の槍の数を増やし空中に待機させてゆく。
ほぼ同時に馬車の周囲の各所で魔力反応が迸った。魔法使いでなくとも敏感な者なら気づくレベルだ。標的も既に気付いているだろう。だが、気づいたところでもう遅い。
「死ね!」
暗殺者の男は空中に溜めたたくさんの氷の槍を一気に貴族の一行の、少女達に向って解き放った。同時に周囲からも炎の塊や氷の礫、尖った石の塊が次々と撃ち込まれ、破裂音や轟音が鳴り響く。周囲の人々の怒号や悲鳴も負けじと鳴り響いていた。
「パパパパパンッ!」「ドガガッ!」「ドドドドドッ!」
だが魔法の攻撃の数々はまたしても標的の目前で弾かれていく。まるでそこに透明な壁が有るかの如く、炎の塊も氷の礫も尖った石の塊も衝突し、破裂し、砕け散った。
「くそっ!もう一度だ!」
暗殺者の男が再度、「氷槍」の魔法を発動し、氷の槍を空中に蓄え始める。その時、突然、背後に強烈な魔力反応を感じた。
暗殺者の男は慌ててその場から飛び退りながら振り向こうとし、果たせなかった。
暗殺者の男は突然、馬車にはねられたような強烈な衝撃に襲われ、高速でスライドするように真横に宙を飛んで民家の壁に激突した。脇腹に穴が開いたかと思うほどの一撃だった。
「カハッ……!?」
何とか相手を確認しようとする。だが同時に壁に激突して頭を強く打ちつけたせいで、暗殺者の男はそれ以上意識を繋ぎとめることが出来なかった。
☆
領主襲撃に失敗した2人を援護し、監視するためやって来た男の1人は、最速で放ったはずの氷礫が少女の頭を撃ち貫く光景を幻視していた。
次の瞬間、氷礫は見えない障壁によって粉々に砕け散り霧散した。驚愕に目を丸くした男は「氷礫」の魔法を連打する事で見えない障壁を打ち破ろうとした。
だが、すぐに障壁を打つ感触が無くなり氷礫は地面や通りの建物の壁にぶつかって穴を開け、砕け散る。
標的を確認しようと連打を止めた瞬間、目の前には少女が一人、拳を振りかぶっていた。
慌てて「氷礫」の魔法を連打する。男は「氷礫」の魔法の速射には自信があった。
3つ撃ち出された氷礫は狙いを過たず、全て少女に命中した。だが、まるで鉄板にでもぶつかったように破裂音を響かせて氷礫は粉々に砕け散る。
「は?」
自分の声が漏れたのだと気づく暇もなく、男は少女の小さい拳で顔面を粉砕され、血反吐を撒き散らしながら吹き飛んだ。
☆
「――どうした、どうなった?」
「いや、何か魔力反応が――?」
急に攻撃魔法の弾幕が薄くなり、標的を見失った。通りにはつい先ほどまで家路を急ぐ人々や買い物の客が溢れていたが、今は蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていた。それに紛れてか、貴族の一行の姿も見当たらない。
他の仲間の様子を探ろうと、手近な2人が合流したその瞬間、彼らの近くに急激な魔力反応が迸った。
振り返り、身構えた瞬間、数メートル先の地面に唐突に少女が現われた。そして次の瞬間には残像を残す勢いで消えようとする。
ちょっと驚いたが「短距離転移」の魔法だ。使う奴がいないわけじゃない。身体強化で体中に魔力を漲らせて少女を目で追う。
こちとら毎日毎日、魔法の訓練と暗殺ばっかやっているのだ。身体強化だってその辺の魔法使いとはレベルが違う。
少女は杖を構え、確かに人間とは思えない速さで近づいて来る。だが自分には完全に見えているし、おそらく仲間の男も同じだろう。
少女が攻撃のため近づけばこちらも攻撃できるのだ。武器すら必要ない。拳の1撃――仲間の分と合わせても2撃で終わりだ。
仲間の男と共に少女を前後から挟むように追い込む。そして少女の顔面がグシャグシャに潰れて首ごと千切れ飛ぶのを幻視しながら男達は拳を繰り出した。
そしてそこで2人の意識は完全に途絶えた。
勢い込んで地面に倒れ伏す男2人の首は完全に圧し折れ、頭はあらぬ方向を向いていた。
☆
最後の1人はアンネリーゼの襲撃に失敗した男だった。彼も初撃のあと、仲間達の魔力反応を探っていたが、ほんのわずかの間に全て消え去り、追えなくなった。
一方で標的の少女たちの魔力反応は依然として消えていない。
彼は襲撃が失敗したと悟り、一か八か逃亡しようと襲撃の現場に背を向けた。これからは組織からもここの領主からも追われる身だ。
絶望しながら踏み出した先に、標的の少女が立っていた。そして真っすぐに自分を見ている。
「クッ……そ、がぁあああぁおぅううっ!?」
男が逃げようと反応したのと同時に「見えない何か」に猛烈に締め上げられて動けなくなった。それどころかその「見えない何か」は文字通り男を捻り潰そうとしているかのように圧力を増していく。
そんな男に別の少女が近づいてくると頭に手を伸ばした。逃げたいが頭どころか指一本、1ミリも動かせない。
そして、少女の手から強烈過ぎる衝撃と光が放たれ、同時に男は意識を失った。
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