78 新しい店と新しいスタッフ
おにぎりパーティその後――。
早速、明日から新しい販売スペースで営業するため、お腹を抱えて苦しそうなノエラさんとリザさんを先に帰し、私とロナで旧販売スペースを片付け、点検した。
と言っても箱テーブルと自作のイス、厨房の調理器具を「異空間収納」の魔法で回収して、「洗浄」の魔法であちこち洗浄するだけだ。ただ、一応手で拭いているように見せつつなので、それなりに手間と時間はかかってしまった。
そして、隣に移動し倉庫に箱テーブルと自作の椅子、調理器具などを収納していると商人ギルドに紹介してもらった工房の人が来て、サクッと竈を設置してくれた。
魔法か魔法具を使ってるのでは?と言うくらいあっという間だった。一応「明日まで触らないで下さい」と言われたが、という事は土台の素材は粘土か何かで乾き待ちだろうか?だったら「乾燥」の魔法があるのだが――まあ明日、まだ乾いてないようなら魔法で乾かそう。
工房の人が帰るのを見届け、私とロナも新しい販売スペースを出た。
☆
翌朝、私とロナは、いつもノエラさんリザさんが来るのと同じ時間に新しい店にやって来た。
確か今日、タイ・ルミエラ商会から1週間分の米1俵が届く。その前にノエラさん――と一応リザさんにもお米を炊く練習をしてもらう必要がある。
と言うか、もしかしたらノエラさんは料理人だしお米を炊いた事があるかも?いや、孤児院では高級品の米は扱わないか?
そんな事を考えていたら、ノエラさんとリザさんがやって来たので、昨日、練習してヨーコの指導と修正も受けたライスの炊き方を解説する。
ノエラさんは米を扱うのは初めてだったが、料理人なのでさすがに私より勘が良かった。米を研ぐところから浸水、炊き、蒸らしと問題なくこなし、次から一人で炊けそうだ、と言ってくれた。
ちなみに昨日と今日は私が来ているのでお米を炊く水もスープの水も「洗浄」の魔法で洗浄している。私がカレー粉を届けるだけの日は井戸水のままだ。
私は「洗浄」の魔法を使い出してから、ちょっと綺麗好きが過ぎる所がある。井戸水は貴族だって普通に使うのに、なんか微妙に色が濁っていて汚いと感じるので自分が食べる時は洗浄している。
これにはロナも呆れた顔をするが、ヨーコは(そういう性質の人もいるから気にしないで良いわ~)と言ってくれている。
ともかく、お米の炊き方は伝授できた。時間がかかるのでノエラさんはカレースープの方も同時に仕込み、練習用の米が炊けたときにはカレースープも出来上がっていた。
ノエラさんが炊いた練習用の米で昨日と同じくおにぎりを作り、ノエラさん、リザさん、私、ロナの4人で試食する。昨日よりさらに美味しい。ノエラさんが炊いたからだろう。やはりプロは違う。
昨日と同じく今日も10合炊いたので4人でおにぎりを食べても全然余っている。残りは私が引き取るということで背負い籠にお釜ごと仕舞う――ということにして「異空間収納」の魔法に収納した。お釜を空けるため宿に帰ってからおにぎりにして「異空間収納」の魔法に収納し直す予定だ。
カレーライスを売るのは明日から。ノエラさんに営業時間中に米が届いたら倉庫に入れといてと頼み、倉庫の鍵を渡す。ちなみにこの鍵は私が「粘着」の魔法と「凝固」の魔法で作った予備の鍵だ。今度タイ・ルミエラ商会の配達の人にも渡しておく必要があるかもしれない。
私とロナは営業を開始する前に販売スペースを離れ、その足で商人ギルドへ向かう。マーシャさんに新しい人の事を聞くためと、カレーライスの値段を相談するためだ。
仕事の早いマーシャさんは早速、新人候補の2人を呼び出して話をしている所だった。
ちょうどいいので私とロナも顔合わせをさせてもらい、少し話しをしてみた。
人柄などはそんなにすぐには分からないが、2人とも嫌な感じはしなかった。
姉のソフィさんの方は美人だが少々キツイ感じで、妹のケイトさんは美人だがちょっと弱気な印象だった。
明るい緑の髪は探索者っぽく2人とも短く切りそろえていて、瞳は濃い緑。双子なので顔の作りは瓜二つと言う程似ているのに印象はまるで違う。
そして意外にも料理が得意なのは姉のソフィさんの方だった。妹のケイトさんは売り子をするようだ。――まあカレーを出してお金を受け取るだけなので、大丈夫だろう、多分。
とりあえず2人には明日の朝一から来てもらう事にして顔合わせは終わった。
2人が帰ると今度はマーシャさんにカレーライスの値段を相談する。
私はライーズさんから7日に1度、米1俵60キロを金貨6枚で売ってもらうことになった。60キロで400合だと言うので約600食分。なので1食分のライスで小銀貨1枚。さすが貴族用の高級食材だ。
一方、スープの方はカレー粉を自作する限り野菜代だけ。80食分の野菜代は小銀貨20枚ほど。1食あたり銅貨2.5枚。
なんというか元々めちゃくちゃ高く売っているので元の値段のままでも全然大丈夫な気がする。
マーシャさんにそう言うと、欲がないと笑われた。そう言われても私たちは元々生活費が欲しかっただけなので、そこまで猛烈に儲からなくても良いのだ。
「――分かりました。要するにミラさん、面倒になったんでしょう?」
「なっ!?」
……何故、分かった!?
私は愕然とした。――そう、もう正直面倒になってきたのだ。店をやる時間で、もっと魔法やら戦闘の訓練がしたい。この前、10日ほど森に行って、改めてそう思ってしまった。
マーシャさんは仕方ないなと言う表情で口を開いた。
「――じゃあ、カレースープは今まで通り小銀貨2枚、カレーライスは小銀貨3枚でどうでしょう?それなら計算もしやすいですし」
「――でもそれだとメチャクチャ高いというか、材料費が増えた分を、全部値段に上乗せしてますけど……」
「ダメなんですか?」
「えっ?――どうなんですかね?」
「カレースープもカレーライスもミラさん達のお店でしか食べられません。そしてカレースープで十分美味しいのに、ミラさんたちがさらに美味しいカレーライスを出せるようにわざわざ新たな材料や従業員を手配するんです。かかった費用を何故ミラさんたちが負担するんです?」
「な、なるほど?」
マーシャさんの静かで強烈な圧に屈し、値段はマーシャさんの言う通り小銀貨2枚と3枚で行くことになった。
☆
翌朝。新しいお店の従業員スペースにノエラさん、リザさん、マーシャさん、ソフィさん、ケイトさん、ロナ、私と関係者が7人全員そろった。
「えっと、まずは新しく働いてもらうことになったソフィさんとケイトさんです。ソフィさんが料理人助手、ケイトさんが売り子助手です。2人が慣れるまで、ノエラさんリザさんが教えてあげてください。いずれは交互に休みが取れるようにしたいです」
ノエラさんとリザさんも、ソフィさんとケイトさんもそれぞれ顔を見合わせて戸惑った様子になった。まあ、無理もない。私もヨーコに聞くまでは「休み」という概念がなかった。仕事を休めば収入がない。収入がなければ暮らしていけないからだ。
「次に、今日から売り方が変わります。メニューと値段が変わるので覚えてください。まずカレースープは今まで通り小銀貨2枚です。新しく増えるカレーライスというメニューは小銀貨3枚と決まりましたので、よろしくおねがいします。売り子の2人は余裕があればお客さんに新しいメニューの事を知らせてあげてください」
リザさんとケイトさんが少し緊張した表情になった。まあ、余裕があればで良いので適当に頑張って欲しい。
ノエラさんとソフィさんにはカレーライスの場合のライスとカレーの盛り付け方を説明した。こちらは2人ともウンウンと頷いている。頼もしい。
その後、皆が開店準備を始めた。私とロナはマーシャさんと脇に寄って、様子を見る。大変そうなら手伝うつもりだが、基本、手を出さない。
ノエラさんがソフィさんに説明しつつ、スープ作りと米を炊く準備をする。ちなみに米は昨日の営業中に来たらしい。
一方リザさんとケイトさんは箱テーブルとイスを出し、軽く拭き掃除をして、それが終わると厨房の手伝いにまわる。人が増えたが混乱も無く上手く回っているようだ。
それから1時間とちょっとの時間が過ぎるとスープはほぼ完成し、米もあとちょっとで炊けるというくらいになった。
店の外には気の早い人が2人ほど、既に並んで待っている。
「――それじゃ、開店します?」
「了解です」
私はノエラさんに開店するかどうかを聞いたのだが、それが開店の合図となったのだった。
読んでくれて、ありがとうございました♪
もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。




