73 会談
領主が側近や護衛まで下がらせるのは初だ。それだけに嫌な予感がするが――。
「――度々、呼び出してすまんな」
領主はそんな挨拶から話し始めた。その内容は私とロナにも無関係ではなかった。
ミゴスカが私たちの店を襲って、ノエラさんやリザさん、マーシャさんを害そうとした後、アンネリーゼの率いる騎士と兵士に制圧され拘束された一件。
その後、ミゴスカは監獄塔に拘留され、取り調べを受けていたという。
その事が、父親であるホズアデク男爵に伝わったらしく、男爵自らミゴスカの身柄を引き取りに来ると連絡があり、連絡通り男爵はやって来た。
勿論、だからと言って「ハイそうですか」と引き渡すわけにはいかないのだが、問題はホズアデク男爵が到着する直前に起こった。拘留中だったミゴスカが監獄塔内で死亡したのだ。
何処に隠し持っていたのか、服毒したようで、看守が気付いたときには手遅れだったらしい。
そのため、直後の領主と男爵の会見は、ミゴスカの引き渡し交渉ではなく、事情説明と責任追及の場となってしまった。
タイミング的に、どう考えてもホズアデク男爵が怪しい。そもそも男爵がミゴスカの死を知っていたのが怪しすぎる。領主はそう考えたが証拠も無く他領の貴族を告発する事などできない。
結果、ホズアデク男爵が主導権を持って交渉が行われ、リヴァーディアは「ミゴスカの事件の責任を追及しない」「事件を公表しない事」。
代わりにホズアデク男爵は「ミゴスカの死についての責任を追及しない」「公表しない事」に決まったという。
領主の推測通りなら、ホズアデク男爵は家名の為、跡を継がせる予定の息子を自ら殺させ、その責任をリヴァーディアに押し付けることで事件をもみ消したという事になる。
私は、貴族ならどれだけ悪人でもそれを不思議とは思わないが、事件を揉み消すためにそこまでするほど家名と名誉が大事なら、ミゴスカをちゃんと教育すればよかったのに、と思わずにはいられなかった。
説明が終わったらしく、領主が口を閉じ、重い沈黙が応接室を支配した。だが、そこまで聞いても、何故、私とロナが呼び出されたのかが分からない。
私が領主に視線を向けると、領主と目が合った。
「――悔しいが今回の件、男爵にしてやられた。ミゴスカが毒など持っているはずがない。間違いなくミゴスカを暗殺したのはホズアデク男爵だろう。自分で息子を殺させておいて、息子が死んだのはリヴァーディアの責任だとネチネチネチネチ延々と抗議を続けおったわ」
その場面を想像すれば、物凄く同情したくなった。恥知らずな男の親父はもっと恥知らずということか。
私だったらすぐに言い返して「文句があるならかかって来い」とでも言いたくなるだろう。実際に言うかもしれない。だが領主がそんな事を簡単に言えるはずがないのは私でも分かった。
ただ、それでもまだ分からない。私とロナも被害者として事件と関係がないわけではないが、今日の話だと貴族同士の揉め事だ。私たちが呼ばれる理由は何だろう。
私の疑問を感じ取ってか、領主がやっと私とロナを呼んだ理由について説明してくれた。
それはある意味、納得できなくもない話だった。
「――実はな、ホズアデク男爵は今回の件を全て手打ちにする条件としてもう一つ要求をしおってな――ミラとロナに直接会わせろというのだ。結論として俺は領主として頷かざるを得なかった。だが其方たちが嫌なら勿論、拒否して良い」
「――ホントに良いんですか?」
「ああ、構わん。客分として迎える時にお互い守り合おうと言ったのだ。二言はない。それにそもそも今回の件は男爵にしてやられた我々に落ち度がある――まあ、揉めるかもしれんが、手打ち自体反故にする事まではないだろう。全て明らかにして争った所で男爵には何の得もないからな」
領主は約束を守ってくれるつもりらしい。私の中で領主の好感度が少し上がった。そうなると領主が困るのを見て見ぬふりもしづらい。
あるいは私がそう思う事まで計算してるんだろうか?以前ロナも領主は腕利きだと言っていた。だったらそれくらい朝飯前かもしれないな。
「分かりました。男爵に会います」
「――無理をしなくても良いんだぞ?」
「大丈夫です。それにホズアデク男爵は元々、私たちの敵なので」
「そうか、すまんな。何かあれば力になる。いつでも言ってくれて構わんからな」
「はい、ありがとうございます」
☆
翌日。貴族の儀礼から考えると異例の早さでホズアデク男爵との会談が決まった。
朝に城(領主館)から使いが来て、会談が昼過ぎと決まった事、昼前に迎えを寄越す事を告げられた。
「――男爵の目的は何だと思う?」
「んー?嫌味の一つも言いたいとか?」
「まさか。男爵がそこまで暇じゃないでしょ」
(男爵は十中八九、ミラたちを殺す気でしょうけど、だったらむしろ直接会わないほうが良い気もするわねぇ?)
私が相談すると、ロナとヨーコが応じてくれた。そしてヨーコの意見に私も同意だった。男爵は暗殺という手段を使う人間だ。誰かを暗殺するならその標的とは極力、関りが無い方が犯行を疑われ難いだろう。
だがあれ程、家名や貴族の誇りを重要視しているのだ。平民に舐められたまま何もしないというのは考えにくい。
だがリヴァーディアが用意した会談の場で私たちを襲うと、リヴァーディアの面子を潰す。それではリヴァーディアまで完全に敵にまわすことになるのではないだろうか?それとも、それくらいでリヴァーディアが敵対する事はないという判断だろうか。あるいは敵対、大いに歓迎ということか?
「まあ、いきなり襲って来るかも知れないと警戒しておこうか。魔力探知は常に発動しておいて」
「了解」
そんな感じで軽く打ち合わせ、早めに昼食を取りつつ迎えを待った。
その後しばらくして、宿に迎えの馬車が来た。と言うか馬車は大通りまでで宿には使者が来た。
昨日に引き続き今日も馬車で領主館へ。「何だ何だ?」という視線を向けられるが、普通はあまり無い事なので仕方がない。
やはりソロソロ森に拠点を作って引っ越すか。あと、出来れば街にも拠点がほしい。土地っていくらくらいするだろう。
アレコレ考えている間に、私とロナはいつもより少し大きい応接室に案内された。いつもの小さめの応接室も豪華だが、こちらは更に煌びやかだった。男爵が来るせいだろう。
1時間ほども待っていると、ホズアデク男爵が到着した。貴族は人を待たせるものだとヨーコから聞いたが、正直意味が分からない。男爵が会いたいと言ったんだから、先に来て待ってろよ、と思ったがさすがに私でも口には出さない。
現状、ハッキリと敵なので挨拶も無しで、一挙手一投足まで監視していると、ホズアデク男爵が軽く苦笑したように見えた。そして、私とロナの対面に座った後、すぐに口を開いた。
「――この度は、うちの愚息が迷惑をかけた。ホズアデク家として公に認めることは出来んが、父親として謝罪させてもらいたい。済まなかった」
さすがに男爵が開口一番、謝るとは思わなかったので少し驚いた。
「――本心ですか?」
「ああ、本心だ。モンテシエラでの事も大凡だが聞いた。度々、申し訳ないと思っている」
「そうですか……」
意外にも、これほど素直に謝罪するとは本当に驚いた。だが「気にしないでください」とかはとても言えない。しっかり気にするといい――本当に心から反省しているなら、だが。そして悪いが、とても信じられない。
「用件はそれだけですか?」
「ああ。手間をとらせて悪かった」
「――では、私たちはこれで失礼します」
私とロナは席を立って軽く一礼した。そんな私たちに、この場に立ち会っているリヴァーディアの人間が不快そうにしていた。
ふむ?殊勝な態度で謝り、私とロナに冷たくあしらわせる事で、リヴァーディアでの私とロナの印象を悪くする作戦という事だろうか?――正直、仕返しとしてはセコイ。セコ過ぎる。
さすがに考えすぎだろうか。だがどうしても、男爵の謝罪が本心とは思えなかった。
そんな事を思いながら、扉を開けてもらって応接室の外に出る。
その時、ほんのわずかに気配――というか誰かの視線――悪意を感じた。魔力探知は今も発動中だが怪しい魔力反応は一切感じない。そして、気配か視線か悪意か、微かに感じたその「何か」もすぐに消えてしまった。
気のせいだろうか。だが、状況が状況だけに気のせいとは考えにくい。
私はいつでも魔法を発動できるように身構えつつ、馬車まで案内され、馬車で宿に送られた。特に何も起きなかった。
やはり気のせいだったのか?私の感覚は「違う」「気のせいじゃない」と言っているが――。
その後、領主が寄越してくれた使いによって、ホズアデク男爵が街を出た事を知った。
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