68 中層への道
宿に帰ると、宿の女将さんに少し留守にすると伝え、さらに1か月分の宿泊費を先払いした。
あと残り何日、宿泊可能か把握していないが、まあ宿を出る時になって宿泊費が余っていても感謝の印と思えば良い。
そんな風に思える余裕が自分達にあるのがまだ信じられないくらいだ。だからと言って無駄遣いする必要はないが、この宿にはお世話になっているのでそれで良いだろう。
部屋に戻って遅めの昼食を食べると、ロナと二人で宿を出た。
街中を速攻で駆け抜け、いつもの北街門から街を出る。兵士が手を上げて挨拶してくるので、私たちも同じく手を上げて挨拶を返した。
最初この街に来た時、門の兵士たちは胡散臭そうに私とロナを見ていた。私なんか「とても姉には見えない」などと侮辱されたりもした。その時と比べると門の兵士にも顔見知りが増え、皆、随分と当たりが緩くなった。
「――前の街、モンテシエラだっけ?あそこだって結構長くいたのに、ずっと嫌な感じのままだったよねー?ここと何が違うんだろうね?」
ロナも同じことを思っていたらしく、そんな事を呟いた。
「――うーん、やっぱ領主の違いと領主とのコネ?貴族街の門も素通り出来るようになってたしね」
「なるほど。だとするとこの街はもう逃げたくないねー」
「出来ればね」
私も同じ気持ちだが、ヤバくなったら逃げるしかない。
そんな話をしながらロナはほぼ全力で、私は半分くらいの力で走る。走っている間、私とロナは手をつなぐ。仲良し姉妹だからじゃない。仲は良いが手をつなぐ理由は違う。以前、手に入れた「慣性力」の魔法を使っているからだ。
この魔法を使うと、走り始めのパワーが持続するのでスピードアップしない限り、殆ど体力を消耗しなくなる。最初は私だけ使っていたがロナがズルいと言うので、魔法石を時々渡してロナにも使わせている。
どっちが魔法石を使っても、手を繋げば2人で同時に魔法の効力を発揮出来るので平坦で障害物の無い、街から森の入口までの区間でよく使う。たまにすれ違う人が居ると凄く驚かれるが、最近はそこまで神経質に隠さなくなってきた。
そんな風に走るうちに巨木の森の入口に到着した。
今は昼過ぎで、ふつう今頃から森に入る探索者は殆どいないし、今日は全くいない。そしてまだ森から出て来る人も見かけない。
私とロナは手を離すと、小走りくらいにスピードを落として巨木の森の浅層を進み始めた。
巨木の森の浅層、特に森の外縁部は特筆すべき特徴も無く、普通の森と変わらない。探索者的には旨味も無いので基本、素通りする。この辺りで活動するのは新人探索者か見習い探索者、それか貧乏人くらいだ。
暫くの間、獣道よりは広く、しっかり踏み固められた多少マシな林道が続くが、それも浅層のみ。中層以降は部分的な獣道しかない。
樹木が目に見えて大きくなり始めたら中層に入った証拠だ。
もし飛んで空から見たら、浅層と中層の境目が断層みたいにくっきり見えるはずだ。それほど浅層と中層では木々の大きさが違う。
以前はここまでくるにも1日くらいかかったが、今は数時間で到達できるようになった。
中層のルート開拓はほとんど進んでない。私のルートでは中層に入ってすぐ西に岩山地帯がある。その岩山地帯を西に見ながら抜けて半日ほど行くと巨大湖がある。ここも手を付けていないので何が棲んでいるか全く不明。
この巨大湖沿いに西回りで半日ほど進むと大峡谷地帯に行き当たる。東回りはまだ未開拓。今判っているのはそんな所だった。
ちなみに探索者じゃなくなったのでギルドで資料を見れなくなった。だったらいっその事、探索者を雇って調査、開拓してもらう選択肢もあるのだが、なるべくあまり知られていないルートに隠れ家を作りたいので自力で開拓するしかない。
私とロナは中層と浅層の境目付近で野営する事にした。森の木々の切れ目から空を見ると、既に夕方近い。今回の遠征の目的でもある魔法建築の練習を始めよう。
私は中層側で一番大きそうな木に添わせる形で隠しながら、シンプルな箱型の家を上に積み重ねる事を提案した。目指したのは塔だ。
まず断熱2重構造の壁で、内部が3メートル四方くらいの箱を作る。その箱の上に乗り、同じ物を作って積み上げていく。
地上で作った壁を「透明な腕」の魔法で持ち上げて組み立てる。1階の箱の床に階段を付け、1階の天井と2階の床を抜く。壁にも出入り用の扉と小さい換気用の扉を付け、閂を取りつける。
同じ様にして4階まで作り、地上から5階用の床を持ち上げようとした時、「透明な腕」の魔法が届かなくなった。地上まで約12メートルほどなので、おそらく射程距離は10メートルほどなんだろう。
私は4階の床の穴――階段の降り口に、刳り貫いた床を戻して扉に加工し、閂も取りつけた。これで人でも魔物でも上がって来れないはずだ。
4階の天井には「脱色」の魔法で明り取り用の透明部分を広めに作る。同じく「脱色」の魔法で壁には遠くを見る用と地上を見る用の透明部分を作る。
そこまででとりあえず完成だ。4階の天井を見上げると、既に空は夜空で星が見えた。
「――お腹減った~」
ロナが疲れた声で言う。私も疲れたしお腹が減った。作業自体は楽しいとは言え、作業は作業だし、魔力も消費するので思ったより疲れるのだ。
私とロナは4階で夜空と夜の森を見ながら夕食のカレーを食べた。夜空は綺麗に見えるが地上は真っ暗で何も見えなかった。
真っ暗なので私が小さい炎の玉を浮かべて明かりにすると、部屋は結構な明かりに照らされた。
食べ終わると炎の玉を消し、私もロナもあっという間に寝た。寝る前に「洗浄」の魔法で口を洗うのだけは忘れなかった。
☆
翌朝。目が覚めると天井の透明部分から光が差し込んでいた。
この4階部分の床は地面から9メートルちょい、天井で12メートルちょいくらいだ。森の中は普段、昼間でもちょっと暗いがここはいつもより大分明るい。
壁の透明部分から周りを見回してみる。この箱の塔は中層側に作ったが、ほぼ中層と浅層の境界線上にある。浅層側を見ると、木の上の方が見えている。反対に中層側を見るとまだまだ全然、木の中ほどからちょい下の方が見えていた。それ程、中層側と浅層側では木の大きさが違う。
私が物珍しそうにキョロキョロしていると、ロナも目を覚まし、体を起こした。
「はよー」
「おはよ」
挨拶だけすると、一旦、服を脱ぎ、私が2人分、服と体と口に「洗浄」の魔法をかけて綺麗にする。綺麗になったら服を着直して朝食だ。朝食はもちろんヨーコのカレーとレモンティだ。
ヨーコが(あー久し振りに自分で作ったカレーが食べたいわ~!)とか言っている。気持ち的には食べさせてあげたいが、どうしようもないのでスルーする。
ヨーコは喋りたい気分らしく(レモンティも久しぶりに飲みたいわ~!)とか(レモンティって熱い紅茶をただ冷ましてもあんまり美味しく出来ないのよねぇ。プロってすごいわ~)とか言っていた。
今知ったが、カレーはヨーコが作ったのもあるが、レモンティはヨーコが作ってるわけじゃないらしい。と言うか作れないらしい。
そうなるとレモンティも再現したくなってきた。と言うか、そう言えば今まで何故かレモンティを再現しようと思わなかった。お金はカレーで稼げそうだが、レモンティも絶対売れると思う。
私も今ではレモンティのティがティー(お茶)だという事を知っている。お茶なら買う事も出来るが、カレーみたいに材料の代用品を森で探せたらもっと良い。あとはレモンと砂糖か。ヨーコによればシロップというものがあると良いらしいが――。
そうこうしているうちに食べ終わった。食べ終わったら再度、口を「洗浄」の魔法で洗浄して朝の儀式終了だ。
断熱構造が効いたのか効いてないのか、炎の玉で温まらなくてもそこまで寒くなかった。日の光が温いからかもしれない。
ともかく今日から中層を開拓しつつ、魔法石狩りと魔法建築の練習だ。合間にカレーの材料も採ると良いかもしれない。
私とロナは4階の床の閂を外し、地上に向って階段を降りて行った。
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