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65 騒動

 マーシャさんに素早く駆け寄った私は小声で、挨拶抜きで切り出した。

 

「ノエラさんは、リザさんは無事ですか!?」 

 

「ええ、大丈夫、無事ですよ。どこかで誰かから聞きましたか?」 

 

「いえ、何かあったらしいとしか――あ、使いの人には会いました」


 私が首を振るとマーシャさんが頷いた。まだ息の整いきらないロナがようやく私の傍まで歩いて来る。


「とにかく会議室へどうぞ」


 いつも通り会議室に通され、椅子に座ってマーシャさんの話を待つ。

 

 一度会議室を出たマーシャさんが少しするとトレイにお茶を淹れて戻ってきた。そして当たり前のように私とロナにお茶の入ったグラスを配ってくれる。今更ながら随分まともな扱いを受ける様になったなぁと、感慨深いが今はそれどころではなかった。


「ノエラとリザさんは帰しました。現場には私も居たので私がお話しますね」


 そう言うとマーシャさんが事の次第を話し始めた。

 

 マーシャさんは一昨日アンネリーゼの襲来があり、昨日はアドレッドの襲来があったので、何となく今日も何かありそうな嫌な予感がして私たちのお店に行ったらしい。


 ☆


 開店準備は進み、昼直前、そろそろ開店しようかと言う頃、突然武装した集団が店の前に現れた。既に人が数人並んでいたがお構いなしに押しのけて店に入って来ると、武装集団の先頭の男が口を開く。

 

「ミラとロナという小娘がここにいるな!?隠し立てすると為にならんぞ!?」


 もちろん、ここは彼女たちの店なので皆、ミラとロナを知っているが、今のこの状況は意味が分からなかった。

 

「まだ開店してません。店内に立ち入らないでください」


 マーシャが進み出て男にそう言うと、男はマーシャをジロリと睨め付ける。

 

「おい女、門の兵と言い、この街では貴族に対する礼儀というものを教えてないらしいな?私はモンテシエラのホズアデク家の者だ。分かったら弁えろ」 

 

「貴方こそ弁えられたほうが良いと思います。ここはリヴァーディアの客分であるラミナ商会が経営するお店です。ラミナ商会の経営者のお二人はリヴァーディアにあってはご領主様に次ぐ地位をお持ちですので、貴方の方が無礼を働いている事になりますよ?」 

 

 男の顔が見る見る怒りに染まっていく。

 マーシャは自分が相手の軽率さを侮りすぎていた事にようやく気付いた。最低限、話せば分かるまともな人間として対応してしまったのだ。

 

「何ィ!?客分だと!?そんなもの知るか!商会の者なら平民だろうが!平民の分際で貴族に楯突くとどうなるか、私が分からせてやろう!オイ!」 


「きゃあっ!?」

 

 男が怒鳴り、顎をしゃくると武装した男たちが店に押し入りマーシャを押さえ付け、小さい厨房スペースからノエラとリザを引っ張り出してきた。

 男は彼女たちを見て少し目つきが変わる。

 

「――フンッ!平民の食事処如きが見目の良い女ばかり揃えおって――ああ、そうだ、丁度いい。この女共はあの小娘に雇われているのだったな。主の罪は臣下の罪でもある。無礼の詫び料にこの女どもを貰っていこう。勿論、あのクソガキ共には改めてしっかりと罰を与えるがな!」


 そんな有り得ないほど知性も品性も無い言葉に、マーシャ、ノエラ、リザは青ざめた。当たり前の言葉や良識が通じない貴族など平民にとっては魔物と変わらない。


 マーシャが自分の失敗を悟り、殆ど絶望しかけた時、可憐な高い声が響いた。


「オイ、それは一体どういう理屈だ?モンテシエラではそんな山賊の様な理屈が罷り通るのか?――というか、お前のような品性の欠片もない奴が貴族と言うのはどう考えても嘘だろう?」


 いったい何事かと集まり始めていた人並みをかき分けて現れたのは、男装の可憐な少女だった。そして彼女の背後にはリヴァーディアの騎士2名と兵士数名が付き従っている。


「――何だお前は?」


「アンネリーゼ・リヴァーディア。この街の領主一族だ。この街で訳の分からぬ狼藉は許さぬ!」


「何!?領主一族だと!?だ、だったらさっさとこの無礼な平民共を捕縛して犯罪者の居場所を聞き出すべきだろうが!」


「愚か者!この場にいる犯罪者はお前たちだけだ!者共、速やかに制圧せよ!」


「はっ!」


 言うが早いか、彼女の後ろに控えていた騎士と兵士が店になだれ込んだ。


 決着はあっという間だった。武装集団たちは咄嗟にノエラとリザを人質にしようとしたが、少女の連れて来た騎士達、兵士達はノエラとリザの安全にあまり配慮しなかったからだ。


 すぐに乱戦になり、ノエラとリザは放り出されて床に転がった。おかげで2人は奇跡的にかすり傷と軽い打撲という軽傷を負っただけでこの戦闘から離脱できた。


 武装集団には大した手練れも居なかったようで、不意をつかれる形で即座に制圧され、拘束された。

 

 集団の先頭にいた自称貴族の男が、連行されながら何やら罵詈雑言を喚き散らしていたが、内容までは聞こえなかった。

 

 マーシャ達が呆然としていると、アンネリーゼが近づいて来た。

 

「すまんな。奴らの情報は掴んでいたので、父上がこの店にも護衛を付けるよう、事前に命じていたのだが騎士達や兵達の動きがどうにも鈍くてな――」 

 

 それで護衛の兵が来る前に犯罪者たちが先に到着してしまったらしい。アンネリーゼが渋い顔をしていた。

 

「奴ら、ミラとロナの重要性を分かっておらんのだ。大方、何故自分達が平民の護衛をせねばならんのだ、ぐらいに考えている」 

 

「――いえ、守っていただき、ありがとうございます、アンネリーゼ様。おかげで助かりました」


「良い。そもそも我が領地の民を領主一族である私が守るのは当たり前だ。だが兵達には礼を言ってやってくれてもいいぞ。そうすれば多少はやる気も出るだろうからな」


 ☆


 そんなやり取りがあり、アンネリーゼは拘束した犯罪者たちを引き連れ、兵を2人ほど残して引き上げた。


 マーシャさん、ノエラさん、リザさんは乱れた店内を直し、開店準備をやり直して開店し、いつも通り営業して閉店。その後、2人は家に帰したと言う。


 私はとりあえずホッとした。どうやら何事も無く、犯人達も既に捕まっているらしい。

 

 だがホズアデク家の貴族と言うのは、間違いなく、魔法使いを使ってロナを攫ったあの貴族だろう。

 

 完全に居所がバレてしまった。そしてそのせいでノエラさんやリザさん、マーシャさんにも迷惑をかけてしまった。

 

 ちなみに私とロナが物心つく前からずっと暮らしていた街がモンテシエラと言う名前だと、今初めて知った。

 

「――すみません、今回は完全に私たちのせいでとばっちりでしたね」 

 

 ノエラさんに引き続き働いてくれるようにお願いした時に危惧していた事が、早くも現実に起こってしまった。


「いえ、ミラさん達のせいじゃないですよ」


 マーシャさんは笑ってそう言ってくれた。確かに私たちのせいではない。悪いのは完全にモンテシエラから来た貴族だ。だがそいつらを引き寄せてしまったのが私たちなのも間違いない。


「とりあえず報告は以上です」


「分かりました。ありがとうございます」


 私とロナはマーシャさんに礼を言って商人ギルド会館を出た。


 正直、ちょっと憂鬱だ。どうすれば良かっただろう?逃げてくる時、関わったホズアデク家の貴族全員ぶっ殺して来ればよかったのか?

 

 流石にその頃の私の実力的にそれは無理だっただろう。それに現実的にそんな事をしていたらモンテシエラの貴族だけでなく街ごと敵になっていたかもしれない。と言うより私たちの方が犯罪者として大々的に指名手配されていただろう。そうなるとこの街にも手配書が回ったりしていたかもしれない。


 ――これは私には答えの出せない問題、と言うか、私に分かる唯一の答えは既に放棄している。最初に魔法石を諦めて手放す事が穏便で唯一の解決策だった。その選択肢は私には無いも同じだ。その上、既に終わった事だ。


 私はこの事に関して考えても無駄と気づき、考えるのをやめる事にした。



読んでくれて、ありがとうございました♪

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