62 森で工作
暫くの間、応接室には耳が痛くなるほどの静寂があり、やがてアドレッドが静かに立ち上がり、応接室を出て行った。
少し遅れてお付きの貴族たちが「ア、アドレッド様!」と主の名を呼びつつ、慌ててアドレッドを追いかけて出て行った。
あまりにも怒り過ぎて、逆に静かだったのだろうか?怒ったら普通にキレる人よりは複雑な性格なのかもしれない。まあでも、もうどうでも良い。
だが、マーシャや商人ギルドの人達はメチャクチャ心配そうな顔で、「ああ言う態度はいけない」「もっと言葉に気を付けて」「たった一言の失言で命を失うこともあるんだよ?」「多少気に入らなくてもアドレッド様は身分も年齢も君より上だろう?」「相手に敬意を示してほしいならまず自分から」などと、一斉に、真剣に、蒼白な顔で、こんこんと説教された。
ホントは「一応、身分は私のほうが上ってことになっているんですけど」と言いたかったが、皆の真剣な目を見るとちょっと言えなかった。まあ実際「客分」の効力がどこまで有効か分からないし。
商人ギルドは一応、今の拠り所で、メインの活動場所だ。その一応真っ当な関係を築いているはずの商人ギルドの職員さんたちや、何よりマーシャさんに延々と諭されて私の精神力はほぼ0になった。
流石に「文句があるならやってやる」が通用するのはそれなりの無礼、理不尽、攻撃、犯罪行為を受けた時のみだ。
解放された私は半泣きでロナと一緒に北街門へと走った。
「ミラってあーいう人に弱いの?」
「――いや、人っていうか状況?自分の方が悪いっていう状況が嫌い。相手が何か無礼な事言ってくれたらいくらでも反撃できるのにね」
「なるほど、分かる様な分からない様な?」
「え?分かんないのはマズいよ?ロナ、私が説教してあげようか?」
「いや!分かった気がする。ウチ今、ビシッと分かったよ!」
慌てて理解を深めたらしいロナを後目に街中を駆け抜け、やっと北街門を出て、昼頃、森の入口についた。
すぐにカレーとレモンティで昼食。その後、まずは森の浅層を入口付近から西へ流しつつ薬草を採取。ある程度行ったら引き返し入口付近まで戻って今度は東へ流しつつ薬草を採取。また入口付近へ戻る。
これを繰り返し、採取済みのラインを森の奥へ押し込んでいく。夕方ごろ採取作業終了。
大量の薬草は私の「異空間収納」の魔法に仕舞って、次に「粘着」「凝固」「脱色」の3魔法を試す。
「粘着」の魔法をイメージするのは自分一人では難しかったが、ヨーコの(ネバネバするスライムが何でも取り込む感じ?)というアドバイスで成功した。
ちなみに「スライム」は一般人は誰も実際に見たことが無いのに広く語り継がれており、大抵誰でもイメージできる有名な魔物だ。
私は「粘着」の魔法を発動しつつ、森の地面から土や小石、木の葉、小枝、木の実などをスライムのような透明な粘体の中に取り込んでいく。
そしてとりあえず2人は中に入れる大きさにする事を考え、厚さ10センチほどで3メートル四方の真四角の形に整えて、今度は「凝固」の魔法を発動し、粘体を固める。
魔法の感触として固め終えたのが分かったので、軽く叩いてみるとまるで鉄のように固い感触だった。
同じ様にあと5枚の四角い壁を作り、計6枚。これも新しく入手した「透明な腕」の魔法で持ち上げ、組み上げる。
「透明な腕」の魔法の便利な所は腕という魔法名だが同時に2本以上発動できる事だ。イメージし、制御出来る限り同時に何本でも「透明な腕」を操ることが出来る。
もちろん、実際に制御できるのは数本だろうけど――そしてその上、結構パワーもあって非常に役に立つ魔法だった。
壁と壁を接続するため、端っこの方だけ「凝固」の魔法を制御し解除する。粘体に戻した部分同士を結着させ、もう一度「凝固」させるとL字型に繋がった壁が出来上がる。
同じ作業を繰り返し出来上がったL字型の壁を2つ繋げると、床と天井の抜けた大きな箱が出来る。
残り2枚の四角い壁を天井と床の位置につなげ、完全に密閉された1辺3メートルの大きな箱が出来た。
「ふぅっ」
「――いや、これどうやって中に入るん?」
ロナが箱を見ながら呆れた感じで引いている。だが、勿論これで完成ではない。
「次はちょっと難しい」
私は壁からちょうど扉くらいの大きさの長方形を分離させる。やり方は「凝固」の魔法を制御し、イメージするドアの淵の部分に沿って出来るだけ薄く解除し粘体に戻せばいい。
長方形部分は壁の一部のようで良く見れば分離した状態になっていた。さらにこの分離させた扉部分は内側に向って面積が狭くなるように、斜めに切り込むように分離したので、外から押しても中側に倒れ込まない。
最後に新しく「粘着」の魔法と「凝固」の魔法を使って蝶番の部品を形作る。ヨーコの指示で商人ギルド会館に行った時、扉の蝶番を観察してきたのだが、分解して観察出来たわけではないので内部は想像に頼るしかない。
それでも機能と構造から大凡のイメージは出来た。そのイメージに沿って「粘着」の魔法で部品を作り「凝固」の魔法で固めたり解除したりしながらちょっと大雑把な蝶番を作り、壁と扉に結着、固定する。同様にして持ち手の部分も作って結着、固定。
試しに扉を開けてみると音も無く滑るようにスーッと開いた。ヨーコが(銀行の大型金庫の扉みたいねぇ)とか言っていたが、そもそもギンコウが分からない。相変わらずだ。
扉の内側に簡単な閂を設置し、一応、箱は完成した。
仕上げに「脱色」の魔法を発動し、とりあえず天井の一部が透明になるまで使ってみると、壁の形や硬さには変化がないのに色だけすっかり抜け落ちて空が見えた。何かカッコいい。ちょっと感動する。
中で寝る事を考え、4方の壁の上の方に明り取り補助として小さく透明な部分を作っていく。窓も開くように出来るが、面倒なのでとりあえず脱色だけ。後は空気穴を忘れていたので開けて、網目状の部品を作って空気穴を塞ぎ、一応の虫除けとした。
こうしてかなり苦労して、四角くて大きな建物が完成した。見た目も機能も今ひとつ――どころではない、簡素で不便すぎる建物だが、練習としては良く出来たと秘かに満足する。
ニヤニヤしていると、ロナが魔法石を貸してというので「粘着」「凝固」「脱色」の3つの魔法石を渡す。既にすっかり夜になっているが、ロナも今からやる気らしい。
私はロナが作り始めると、焚き火を作り、「異空間収納」の魔法の中からテーブルとイスを出して座った。これを出すのも久し振りだ。
考えたら今日はまだ晩御飯を食べてないのだが、ロナが作業中なのですぐには食べられそうにない。
そう思いながら、自分の作った練習用の箱型建物を眺める。非常にカッコ悪いが、もっと形にもこだわって大きく作れば冬も森で暮らせたりするだろうか?
こっそりヨーコに意識を向けると、ヨーコの声がした。
(初めてにしちゃ、良く出来てるじゃない?)
「冬の拠点としては、どうだろう?」
私が小声で呟くとヨーコの返答。
(寒さ対策が必要ねぇ。壁を2重にして断熱材を入れるとかね。断熱材っていうのは人が着る服の様に暖かさを逃がさない、外の寒さを中に通さない役目をする素材ね。あとは暖炉とか何か暖房設備がほしいわねぇ)
色々言ってもらったが、良く分からなかった。ただ、このままじゃ寒いから無理、って事は分かった。残念。
ロナの方を見ると早くも作業が完成しかかっている。何やら尖った船みたいな形の箱――建物が出来ようとしていた。少なくとも私の箱よりはカッコいいが家としては変な形だった。
「良し!完成!どうこれ!?」
「うーん、カッコイイような変な形なような?」
私が正直な感想を言うとロナは首を傾げた。
「えー?変かなぁ?こう、ビシーッと角みたいで攻撃的じゃない?」
「それ、魔物が怒って襲ってこない?」
「え?いや、どうだろ?」
私は探索者に見られても悪目立ちしそうだな、と思った。思ったがロナの作業を終えさせて、夜ご飯を食べた。かなりお腹が減っていたのだ。
勿論、夜もカレーとレモンティだ。ヨーコのおかげで食生活がメチャクチャ充実している。それだけでヨーコに大感謝だ。私とヨーコは常に繋がっているので私の感謝は伝わっている筈だった。いちいち改まってお礼を言うのは恥ずかしいのでこれは非常に助かる。
夜ご飯の後、私とロナは断熱構造を作る練習がてら2人でもう一つ箱を作った。今度は5メートル四方。壁、天井、床を2重構造にして間に少し空間を作り、試しにそこに枯れ葉を詰め込んであるので内部は1辺5メートルより大分狭くなった。
いつの間にか、随分夜遅くなってしまったので、一番新作の箱に入って寝る事にした。相変わらず見張りと虫よけはヨーコに頼む。
「んー……どう思う?」
「ん~……寒くはない、かなぁ?」
私は寝る準備をして横たわりながらロナと箱の感想を言いあう。まあ、悪くはない、が、良くも無い?と言うのが正直な感想だった。
貧民街の頃の様に掛布1枚を纏って箱の床で横になってみたが、とにかく寒かったり冷たかったりはしなかったのでそこは良かった。でもまあそれも、一番寒い頃に一晩、中で過ごしてみなければ何とも言えない。
とは言え、私もロナも、この巨大工作が気に入った。作るのは非常に楽しいしそれが上手く出来れば拠点として使えるのがまた最高に良い。
「まー、もっと練習しようか」
「そうねー、その内、城とか作りたいねぇ♪」
「良いけど、魔法使いは塔らしいよ?――正直メチャクチャ高い塔は作ってみたいね」
「下の方を城にしたらカッコいいんじゃん?」
なんだか思ってた以上に「作りたい気持ち」が溢れて来る。
ロナも同じらしくお互い、どんどんやってみたいアイデアを出し始めた。
「それなら――」
「そこを、こう――」
その後も、私たちの夢の建設計画は留まるところを知らず、どこまでも膨らんでいった。やっと眠ったのは既に早朝だった。
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