60 一方その頃
ロナはミラと一緒に店を手伝いつつ、ミラの事を見ていた。
せっかく料理人と売り子を雇ったんだし、予定外に忙しくなったとは言えそれが彼女たちの仕事なのだ。任せておけば良いのに、とロナは思うのだが「大変そうだし」「来たついでに」「ちょっとだけ」とか言ってミラが店を手伝い始めてしまった。
ロナが「弟子で妹」という立場になってから早数か月。今では自分より後から弟子になった妹弟子も1人いる。
ミラとは物心ついた頃からほぼずっと一緒にいるが、探索者をしてた頃くらいまでは、ミラの事をお人好しだと思った事はなかった。
じゃあ今のミラはお人好しかと聞かれるとやっぱり「そうだ」とは言えない。言えないが他人に対して、ロナの予想以上に優しく接する時があるのに気づいた。
というか偶に損得をあまり気にしない時があると言う感じか。
一方でロナはずっと、自分は力ばっかり強いがミラは賢くて冷静だ、と思っていたのだが、実は結構ミラは短気だと気づいた。
以前もロナが気付かなかっただけでミラはきっと頻繁に、でも静かに怒っていたんだろう。ただ当時は力が無かったので怒っても無駄だった。だから怒りを表に出さなかった。だが、最近、少しずつ理不尽に対抗する力がついて来た。力があるなら泣き寝入りはしない、そういう事らしい。
特に偉そうな奴が嫌いらしく、割と積極的に戦うことを選択している気がする。「偉そう」「無礼」「理不尽」とくればミラは絶対許さない。そしてそういう奴を叩きのめす事を喜んでいる節がある。
「姉」と言う立場にこだわるのもそういうところが関係している気がする。ミラは甘えるより甘やかすほうが、守られるより守るほうが性にあうらしい。
何にせよ、「姉」であるミラには何の文句もない。
と言うか、呼び方も言葉遣いも今までと特に変わらないのに、ロナはミラに「妹」として守られているような、可愛がられているような気がして最初はそのこそばゆい感じが堪らなかった。
今はもう慣れて当たり前の感覚になってしまい、たまにウザかったり安心したりしてしまう。
そして時折、呼び方を「お姉ちゃん」に変えてみようか、とか考えたりするのだが、結局「今更過ぎる」と否定して苦笑する。
ロナは自分でも不思議なほど、ミラの「妹」という立場に満足していたのだった。
☆
一方その頃、リヴァーディアの街から東にある隣領の街モンテシエラ。
モンテシエラ領の領主モンテシエラ子爵が暮らす街であり、領主に仕えるいくつかの貴族家の住む街でもある。
そのいくつかの貴族家の一つがホズアデク男爵のホズアデク家であり、その男爵家の次期当主と目されているのが嫡男のミゴスカ・ホズアデクだった。
「――まだ見つからんのか!?いったい、いつまでかかるのだ!?」
父親である男爵から与えられている自分用の離れの一室。ミゴスカが蒼い顔で部下を怒鳴りつける。叱責された部下の男もその表情に苦渋の色を滲ませていた。
と言うのも、捜索開始当初、名前も顔も分かっており、探索者ギルドに所属しているのも分かっていて貧民街に巣食っていると知れているガキの1人や2人、あっという間に捕獲できると考えていたからだ。
それがどれだけ探しても見つからず、既に数か月が過ぎようとしている。
「それがどうも、巨木の森に逃げ込んだようでして……」
今やこの定期報告の時間は部下の男にとって只々苦行だった。彼は冬とは思えないほど噴き出した額の汗を拭いつつ成果の無い報告を口にする。
「それがどうした!?だったら森を探してこい!」
「勿論部下を入れて探させてはいるのですが、何分、巨木の森は広大でして……」
「そんな事は子供でも知っている!何のための探索者だ!?貴様等がそこまで無能だと言うならさっさと探索者を雇って探させろ!」
「――探索者ギルドに依頼は出しているのですが、今のところ見つかったと言う連絡は――」
部下の男が「ありません」と締めくくる前に上司の拳が飛んできた。ミゴスカはそのまま2発3発と殴り、息を荒げる。
「――話にならんっ!」
「も、申し訳ございません」
「いい加減、父上にも知られているはずだ!さっさと後始末をしたうえで報告し、赦しを請わねば私は廃嫡され、追放されるだろう!跡継ぎの代わりなど妾に生ませた子がいくらでもいるのだからな!」
ミゴスカは不安の滲む青い顔に青筋を立て、怒りで顔を紅潮させるという混乱ぶりだった。
父に頼み込んで無理を言って付けてもらっていた魔法使いはミゴスカのものではない。それを自分が私用を言いつけて失ってしまった。ミゴスカは今でも意味が分からない。何故、貧民街のガキに差し向けただけで魔法使いが殺されるのか。
今回もいつもと同じ、ちょっとした遊びだった。分不相応なお宝を掘り当てたらしい貧民のガキからお宝を取り上げ、ついでにちょっと甚振って鬱憤を晴らす。見目の良いガキという事なので、売れば丁度良い追加報酬になる。魔法使いと山分けしても相当な儲けになるはずだった。
それが何をどう間違ったのか、自分自身の進退がかかってしまっている。
「わ、私がそんな事になればお前たちもただの無能な職無しの身分に堕ちるのだぞ!?少しは気を入れて探さんか!」
部下の男は黙って頭を下げ、与えられた仕事を熟すためにミゴスカの離れを出て行った。その背中に一瞥もくれずに頭を抱えるミゴスカ。
☆
ところがその翌日、部下の男が慌てた様子でミゴスカの離れを訪れた。
「見つかりました!」
「何ッ!?それは本当か!?どこだ!奴らは何処にいるッ!?」
「それがリヴァーディアでして……」
「リヴァーディアだと!?――ほんの目と鼻の先だが……?」
「左様で」
「――舐められたものだな?」
つい今し方、発見の報告に喜びの表情を見せたミゴスカが、憤怒の表情に変わる。
「――すぐに人を送って奴らを捕えて来させろ」
「ですが、1人や2人では捕縛する事は難しいと思われます」
ミゴスカの血走った目が部下の男に向けられる。
「――それが何だ?だったら10人でも20人でも雇って、まとめて事に当たらせればよかろう!」
「ですが……あそこの領主は堅物ですので、領内で揉めるのは――」
部下の男が言いにくそうに口籠るのへ、ミゴスカが喚き散らす。
「貴様!まさか平民如きに怖気づいてはおらんだろうな!?もう良い!それなら私が直接出向いてやる!」
部下の男は正直、捕縛も領主との交渉も、ミゴスカが行ったくらいではどうにもならないだろうと思ったが、口に出さないだけの賢明さは持ち合わせていた。
☆
ちょうどその頃、リヴァーディアでは一人の男が憤り、側近に向って声を荒げていた。
「何だと!?」
「は。姫様が例の少女たちと接触されたようです」
「アンネリーゼの奴……見ろ!其方たちが何だかんだと理由をつけて止めるせいで妹に先を越されてしまったではないか!」
「ですが、アンネリーゼ様は例のカレーと言うものをお召し上がりになり、すぐにお帰りになられたようです」
「ならば、こうしてはおれん。私も会いに行くぞ。すぐ用意せよ!」
「アドレッド様、流石に今すぐと言う訳には――」
だが、アドレッドはそんな側近の言葉などほとんど聞いていなかったのだった。
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