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6 ヨーコ

 夕方になり、発雷鼠をなんとか5匹狩ったところでタイムアップ。だが発雷鼠は、狙っていた魔法石はおろか魔石すら1つも持っていなかった。

 

 もう一つの目的である戦闘訓練もあまり捗らなかった。何せ殆ど探してるか待っている間に時間が過ぎて行ったからだ。

 

 それでも1戦ごとにヨーコの分析と講評が入り、今までみたいにいきなり出くわして、ただワチャワチャと杖を振り回すのではなく、攻撃を待ち受けて回避してカウンターを狙ったり、不意打ちに対する気配察知を磨いたり、その後の応戦であわてないよう訓練したりと実のある経験になった。

 

 そのせいか、いつもより何倍も疲れ、少し足が震えている。普段、無意識によほど楽してるらしい。私はちょっと反省した。

 

 そんな私のお腹がぐぅぐぅと音を立てる。そう言えば朝から何も食べてない。そう思うと、余計お腹が減って来る。

 

(ミラのお腹が凄い鳴ってるわね)

 

「朝食べるの忘れた。お腹へった……」 

 

(あら、そう言えば食べてるとこ見なかったわね。ダメよ~お昼もお弁当にパンくらい買ってこないと)

 

「うん、そうする」

 

(う~ん、ミラってば素直で良い子ねぇ♪)


 突然、ヨーコが嬉しそうな雰囲気を出してそんな事を言いだした。 

 

「そうかな?無駄に反抗しても仕方ないし、教えてもらえるのは嬉しいよ」

 

 ……なんせ無料タダだし、得しかない

 

(普通は人にアレコレ指図されるのはイヤなものなのよ。わたしだってあまり得意じゃなかったわ)

 

「ふ~ん、そんなものかな?」 


 人といえば、今日は街を出てから探索者にも、他の誰にも会わなかった。パンを買って来るのを忘れるくらい朝早かったのもあるが、この辺り、もしかしたら穴場なのかもしれない。

 

 多分、上級者はもっと奥の方、私と同じくらいの駆け出しはもっと手前の方で活動してるのだろう。私の活動範囲もいつもはもっと手前の方だし。

 

(――そうだわ、今こそわたしのもう一つの取って置き魔法が火を噴く時だわ♪) 

 

「もう一つあるの?レモンテーの魔法みたいなの?」

 

 ボーっと考えていると、ヨーコがまた取って置き魔法を見せると言い出した。

 けど確かにあの水は凄い甘くて美味しかった。今なら疲れて喉も乾いているのでもっと美味しいに違いない。


(「レモンテー」じゃなくて「レモンティー」ね――うん、そう、同じ感じよ)


 ……ふむ、テーじゃなくてティーか。ティーってなんだろう?

 

 そう考えつつ、期待に胸が膨らむ。

 あの美味しい水と同じ感じの魔法なら、そっちもきっと美味しい魔法に違いない。

 

「――てことは、別の美味しい水が出せる魔法?」


 私は期待を込めて聞いてみた。


(いいえ――コレよ♪)


 ヨーコがそう言うと同時に、お馴染みの、私の身体の中で何かが動くような感覚と、少しお腹が減るような感覚があった。ヨーコが私の魔力を使ったようだ。この感覚にも大分慣れてきた。

 

 その時ふと、レモンティーが目の前に突然現れた時の事を思い出して、慌てて両手を前に差し出して待機する。

 

 ほぼ同時に、目の前の空間に何やら楕円形のお皿が現れた。お皿の中は香ばしい匂いのする何かで溢れそうになっている。そして、お皿はツルツルとして高級そうな感触で、しかも凄く熱かった。

 

「熱っあちちっ!?何これ?食べ物?」 

 

(ふふふっ♪これこそもう一つの取って置き、「カレーライス」の魔法よ!)

 

 ヨーコが、人間ならふんぞり返って頭でブリッジしそうなほどドヤっている雰囲気を醸し出していた。これがヨーコの切り札に違いない。

 

 私はお皿の中の食べ物の、端っこに刺さっている棒を使って食べるらしいと予想して、その棒を抜いた。金属製らしいその棒はスプーンだった。私は木製のもっと雑なスプーンしか見たことも使った事もないが、スプーンということは分かった。高そうなスプーンだ。

 

(さあさあ、食べてみて、美味しいんだから♪)

 

「うん」


 そこは疑問の余地が無かった。見た目は変だが匂いだけでも凶悪なほど美味しそうだった。

 

 一口食べてみると、強烈で刺激的な味に一瞬で打ちのめされた。美味いなんてもんじゃない。美味しすぎる。こんなの食べちゃったら、明日からいつものパンが食べられなくなっちゃう。

 一瞬でそれを心配してしまうほど美味しかった。

 

 だけど、止まらなかった。あっという間に1皿食べきってしまった。

 

(どうだった?)

 

「すんごい美味しかった――」


(でしょ~♪)

 

 ヨーコの満足そうな雰囲気が伝わってくる。

 

(ハッキリ覚えてないんだけど、生前のわたしは、毎日3食、レモンティとカレーライスで良いと思ってた気がするわ♪) 

 

「へぇ~」

 

 お金持ちって、毎日、色んな違う物食べるんじゃないの?と思ったが、確かにこれなら毎日毎食、食べたいな、と思ったので私は頷いた。


 そして、いくら好物でもそれを魔法にまでしちゃうなんて、ヨーコは凄い魔法使いだけど、凄い「イカレタ」魔法使いでもあったのかもしれない、とちょっと思った。

 

 何にせよ、「カレーライス」のおかげで、私は今、物凄く幸せだった。胃袋的にはまだまだ全然、食べられるけど、満足感が半端なかった。

 

「ヨーコ、カレーライス、マジ凄いね!」

 

(でしょでしょ♪ミラってば、分かってるわ~) 

 

 そんなご機嫌なヨーコと私は、お皿とスプーンをヨーコの「洗浄」魔法で洗浄し、布でくるんで籠に押し込んだあと、その日の狩りを総括しつつ森の外へ向かって歩いた。そして明日からの狩りの為に助言をもらいながら、私は街に帰り着いた。

 

 街の近くまで来ると、同じく街に向う徒歩の探索者や荷馬車を走らせている探索者達も見えた。皆、結構急いでいるのは夜には街の門が閉まるからだ。せっかく街についたのに野宿したくはない。

 

 ちなみに森に近いこちらの門は、貧民街にも近く、商人や貴族はほとんど利用しない、謂わば探索者専用門になっていて、陰では貧乏人専用門と呼ばれていたりもする。

 

 街に入ると急いで探索者ギルドへと向かい、持ち帰った発雷鼠を丸々、買い取って貰う。ウサギ肉ほど人気がないらしく、あまり高く買い取ってはもらえなかったが、それでも5匹分で小銀貨1枚にはなった。

 

 そんな日々が1か月ほど続き、毎日、少しずつ小銀貨が増えていった。私はホクホクとしていたが、問題も起こっていた。お金の安全な保管場所がないのだ。

 パンを買うくらいしか使わないし、銅貨でお釣りをもらうので、しばらく銅貨しか使わなくなる。ますます小銀貨は使わないのに、銅貨を含め、常に全額、持ち歩かなくてはいけない。

 

 しかも捨てられなくて持ち帰った「カレーライス」のお皿とスプーン、それにたまに飲んでいる「レモンティー」のグラスが溜まってきてしまった。

 

 最初は気づかなかったロナも、さすがにある程度、数が増えてくると「何それ?」と気にし始めたし、「最近あんま見ないけど、どの辺まで行ってんの?儲かってそうじゃん?」とか言われ始めた。

 

 ……まずいな、どうしよう?



読んでくれて、ありがとうございました♪

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