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59 アンネリーゼ

 確かにこの子の言っている事は正論だ。そもそも主の言葉を臣下が無視したら主従関係が成り立たない。だが正直、あの言い方やり方ではメチャクチャ敵を作ってそうだ――私は自分の事は棚に上げて、そんな風に思った。

 

 ただ、まあ私の言いたかった事は、概ね彼女が代わりに言ってくれたので、イラついた感情はすっかり消えてしまった。

 

 我ながらチョロいと思うが、私は彼女に対してひとまず好感を持った。

  

 お姫様から先に自己紹介してもらったので、私とロナも慌てて名乗り軽く頭をさげる。

 

「ああ、そんな礼などいらんいらん。さっきも言ったがミラ殿、ロナ殿のほうが上位の立場なのだ。本来は私の方が貴女方に礼を取らねばならんのだが、私は儀礼的な事が苦手でな。無礼とは思うがどうか見逃してもらいたい。あと、私のことはアンネリーゼと呼んでくれ」


 男装少女アンネリーゼは真面目な顔でそんな風に言って、私とロナが頭を下げるのを制した。


「――じゃあ、私もミラでお願いします」

 

「じゃ、ウチもロナで~♪」 

 

「うむ、その方が親し気で良いな!」 

 

 私たちは周囲の大人たちの困惑をよそに、何となく3人で笑顔になった。

 

 そうこうしている間にノエラさんがスープにカレー粉を投入したらしく、カレーの香ばしい香りが漂い始めた。

 

「おっと、随分邪魔をしてしまったようだ。今日のところはこれで――――随分と刺激的な香りだな」 

 

 アンネリーゼは、言葉とは裏腹に席を立つ様子がない。まあ、わざわざ来たって事はそう言う事だろう。

 

「アンネリーゼ様、カレー、もう食べれるけど――食べていく?」

 

「む、良いのか?まだ開店まえだろう?」

 

 口ではそう言いつつ、アンネリーゼは期待と好奇心で溢れんばかりに目を輝かせている。

 

「アンネリーゼ様は平民の客と同席出来ないと聞いたから(もちろんヨーコから)」 

 

「私は別に同席でも構わないんだが――うるさい奴らに見張られているし、まあその方が無難か。ああ、様付けも私たちだけの時は不要だからな」


 今後、そんな「私たちだけの時」があるのかどうか分からなかったが、私は頷いた。


「では、有難く頂こう――時にミラ、カレーは本来、ライスと共に食すものだと聞いたのだが……?」


 私は少し驚いた。確かにギルド職員のマーシャさんに、米を手に入れたいという話をした時ちょっとだけその話もしたが、アンネリーゼは早くもその事を知っていた。何処からどれ程の情報が漏れているのか。やっぱ領主怖ぇ……。

 それにマーシャさんには「お米」とは言ったが「ライス」とは言わなかったはずだ。やはり貴族は普通にお米を食べるようだ。

 

「――そうです。私たちは現状、米を入手できませんから、スープとして食べてもらうか、パンにつけて食べてもらうか、ですけど」 

 

「ミラ、実は、ライスの事を聞いていたのでうちの料理人に用意させているのだ。良ければ本来の形で食したいのだが――」 

 

 期待にランランと目を輝かせてそう言うアンネリーゼに「ダメ」と言えるわけも無く――いや、もちろん断る時はちゃんと断るつもりだが、ともかく今日は好きなように食べてもらえば良いと思った。

 

(毒見の都合もあるだろうしねぇ)とヨーコが言うので私はお付きの料理人を厨房に招き入れ、ノエラさんにお皿の用意を頼んだ。

 

 ノエラさんがお皿を用意すると、お付きの料理人さんがお皿を受け取って軽く調べる。私がご飯――ライスをどう盛るべきであるかを話すと料理人さんは頷き、腰につけた小さいポーチから大きな桶の様な物を取り出した。

 

「えっ!?」「うわっ!」「おぉ!?」


 それを見たロナ、ノエラさん、リザさんが思わず驚きの声を上げた。ヨーコが(マジックバッグねぇ流石貴族)と言うので、在るところには在る物らしい。

 

 料理人さんは私たちのそんな驚きには構わず、桶の様な物の蓋を開けた。中からは濛々もうもうと湯気が沸き上がってくる。料理人さんはその湯気の中から木のへらの様な物で、白く輝くライスを掬いあげ、私の指示通りにお皿に盛った。

 

 ノエラさんは料理人さんに毒見を完全に任せて場所を譲っているので、料理人さんが毒見をした後、カレースープをお皿に盛られたライスの上にたっぷりとかける。そのまま彼の手でアンネリーゼの元へカレーライスが運ばれていった。

 

 しかも毒見はまだ続く。最終的に運ばれたカレーライスをお付きの人が先に少しすくい取って毒見し、ようやくアンネリーゼが食べる事を許されるのだ。

 

 ご飯を食べるだけで面倒くさ過ぎる。まさか毎食こうなのか?そう思うと思わずアンネリーゼに対する同情心が湧いた。

 

 我慢できずにアンネリーゼの料理人さんに聞くと、流石に今日は外食であり、初めての料理人であるため特別にお付きたちが警戒しているらしい。

 

 とは言え、毒見しなくては食事も出来ない時点で厳しい環境と言える。私はイヤだ。

 

 そんな事を考えている間に、ようやくアンネリーゼの口にカレーライスを掬い取ったスプーンが運ばれた。

 

 同じ様にスプーンで食べるだけなのに、何処となく優雅というか優美というか――。何がどう違うか説明できないがアンネリーゼの所作は非常に美しかった。

 

 そうかと思えば、非常に優美な動きにも関わらず、その優雅な所作を少しも崩すことなく、凄いスピードでお皿のカレーライスが無くなっていく。

 

「……美味しい。いつも食べているライスが別物みたいに美味しいぞ!?」 

 

「カレーはライスを一番美味しく食べるための料理だから」 

 

 私は以前ヨーコに聞いた言葉をそのままアンネリーゼに言った。

 

「うむ――真偽はともかく貴女がそう言うのも無理はない!そう思える程、美味しい!」 


 私はとにかく彼女が満足したようで良かったと胸を撫でおろした。いくら気さくでも相手はこのリヴァーディア領で一番偉いお姫様だ。機嫌を損ねないほうが良いに決まってる。

 

 その後、アンネリーゼは弱り切った顔のお付きの人達に懇願され、足早に店を後にした。そろそろお昼時で店の前に気の早いお客が並び始めている。

 

「――いやぁ、大変だったね」


「ホントに!」 

 

 安心したのも束の間、ノエラさんとリザさんはいつもより少し遅い開店準備に追われ、私とロナもちょっと手伝った。

 

 開店後の店は今日も満員盛況。すぐに売り切れ閉店となった。売り上げはいつもと変わらないのに疲労感はいつもの2倍以上だった。

 

 

 ☆

 

 

 アンネリーゼは父である領主につけられた側近達に馬車に押し込まれ、不満の表情を隠さなかった。

 

「いったい何がいかんと言うのだ。まだまだミラともロナとも話をしていたかったというのに――」 


「姫様、盛況な様子をご覧になりたいのだとおっしゃっておられたではないですか!まさか秘かにライスをご用意させていらっしゃったとは……しかも、そんな事の為にマジックバッグまで持ち出されて……」


 馬車に一緒に乗っている最年長側近が苦い表情でつらつらと苦言を呈し始めたのでしっかりと反論する。

 

「お前たちが開店前に引き揚げさせるから盛況な様子は見学できなかったがな。カレーを試させてもらっていなければ何をしに行ったか分からんところだ。それにマジックバッグは私が父上から頂いた物だ。どう使おうとお前たちにとやかく言われる筋合いではない」 


「平民の店で何を見学なさるというのです?リヴァーディアの姫君がご覧になる様な価値ある物など何も――」


「私が何を見るかは私が決める。今まで私が知らなかったものを知る事は何であれ全て私の血肉となるのだ」


「ですが平民にあの様な態度を許されては――」


「お前、まだ言うのか。現状、彼女が私より上位の者だと認める、とそう言っているのはこの私であり、父上だ。私達の言葉はお前にとってそれほどに価値が無いのか?」


 何だかんだと言いながらも、子供でしかも女であるアンネリーゼを侮っている様子の側近を鋭く睨む。最年長側近は流石に自らの失言に気づき、口をつぐんだ。


「――お前たちが自分の仕事をしようとしているのは理解している。だがもう一度よく考えろ。私の言動の全てに異を唱え、私に何もさせないようにする事が本当にお前たちの為すべき事なのか?」


 アンネリーゼは馬車を止めさせると最年長側近を馬車から追い出した。

 

「今日はもうお前の顔は見たくない。頭を冷やせ」


 そう言って再び馬車が走り出すと、アンネリーゼは大きく息を吐いた。

 

「――姫様、流石にやりすぎでは?」


 馬車の中に残ったのはアンネリーゼより少し年上の側仕えの少女1人。二人の間の空気はあっという間に友人同士のものに変わり、アンネリーゼの表情もそれなりに年相応になった。

 

「何がやり過ぎなものか。父上が付けた側近どもはまるで話にならん奴ばかりだ。奴らは私が『奴らの言う事を聞いて人形のように大人しく振舞う事』だけを望んでいるのだぞ?その上、平民、平民、とあからさまに私がミラやロナと話すのを嫌いおって。奴らが誰の方を向いて仕事をしているのかが透けて見えるというものだ」


 アンネリーゼはフンッ!と鼻息を荒くした。だが口元には微かに笑みが浮かんでいた。

 

「――ふっ。シャルロッタ、増員と教育は進んでいるか?」


「はい。我々と歳の近い子弟を中心に、才能があり姫様に忠誠を誓う者たちを取り込んでおります」


 アンネリーゼはシャルロッタの返答に満足そうに頷いた。

 芸術品のように美しく整った顔に、生気に満ちた力強い――ある意味、悪戯っ子のような不敵な笑みが浮かぶ。


「よしよし。私の側近は私が育てる。いずれ私が成人したら、側近を全て入れ替えてやる。皆には人脈を広げ、出来る事を増やせと言っておけ!」


「かしこまりました」




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誤字脱字報告を頂きました。ありがとうございます。何度見なおしても、毎回、何かしら見つかるので助かります♪


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読んでくれて、ありがとうございました♪

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