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56 リヴァーディアの客分

「――客分というのは?」 

 

 私が小首を傾げると、領主が軽く頷いた。

 

「うむ。客分というのは、領地の賓客という事だ。明らかな重罪を犯さぬ限り、客分である間、領内の階級や序列は適用されず、領主を除けば最も上位という扱いになる。と言っても領地の者ではないので大した権限はないが基本的に誰に膝を付く必要もない。まあ領内で自由に動いて欲しいということだな」

 

「――なぜ私たちにそこまでの待遇を?」 

  

「それは、其方たちが強力な魔法使いであり、まだ犯罪に手を染めておらんからだ」

 

 どういうことか分からず私は再度、首を傾げた。領主は少し困ったようにため息を吐く。

 

「――本当は其方たちのような子供にこんな話をしたくはなかったのだがな。魔法使いに対する悪い誘惑は非常に多く、また堕ち易いすいのだ。だが其方たちはまだ悪に染まっておらん。そうなる前にこちらに取り込みたいのだ」 


「――取り込んで、どうするんです?」 

 

「守り合おう」 

 

「えっ?」 

 

「俺たちと其方たちとで守り合おう」

 

 領主は真剣な顔でそう言った。言っている事は何となく分かったが、領主としてはかなり端的な言葉で驚いた。これは彼の誠意だろうか。それともそう見せて操るつもりか――今すぐには判断がつかない。

  

「――詳しく聞いて良いですか?」


 そう聞くと、ホントに詳しく話してくれた。まとめると――。

 

 街は私たちに行動の自由と身分の保証を約束し、私たちは街が有事の際、解決のため協力してほしいと言う。

 

 今回のギースのように手に負えない犯罪者への対処や強力な魔物が出現した場合の防衛力として期待されているということらしい。

 

 何か具体的に街に迫っている危機があるのかと聞くと、今すぐどうこうという事は無いらしい。

 

 ただ、いかにギースの潜在能力が高くても、力をつける速度が急激過ぎた。その理由は魔法だが、有力貴族家の者とは言え魔法石はそう簡単に手に入る物ではない。その魔法石をどうやらギースに融通した者がいるという。

 

 それが領主の警戒する犯罪集団であり、領地をまたいで存在する犯罪互助会のようなものではないかと言われているらしい。昔からその存在は囁かれているが公に確認された事はないのだとか。

 

 ただ、領主の心配が当たっているなら、私たちはその犯罪集団がギースに与えた魔法石を奪った事になる。それもおそらく彼らがギースから十分な利益を回収する前に。当然、私達は目をつけられてしまっただろう――。


 というかそれもあって、領主は魔法石を寄越せと言わなかったのではないだろうか。

 そう考えれば一気に信憑性が増す。貴族がただの善意で魔法石を見逃すはずはないのだ。

 

 だからと言って領主が悪意的に私たちを騙したわけではない。当然の用心だ。そして最初からそう聞いていたとしても魔法石を譲る気は無い。私たちは勝って奪い取った正当な所有者なのだ。


「――ともかくだ。そんな者たちを俺の街でのさばらせるつもりはない。其方たちは確かに強いが単なる個人だ。其方たちにとって組織や数の力は難儀だろう。だが一方で強力な存在に対処できるのは強力な存在だけだ。どうだ、俺たちと守り合わんか?」


「分かりました。ただ条件を少し変更してください」


「ん?」


 首を傾げる領主に、私は「有事」と言うのが曖昧なので「何事であれ事前に要請する必要があり、私たちはその要請を断る事が出来る」という事にして欲しいと告げた。


 領主の周囲では彼の臣下の人達が一斉に顔を顰めた。「平民の、それも貧民のガキが領主に対して――」という事だろう。そういう態度を見ると、いかに領主が友好的でもあまり安心できない。

 

 領主は苦笑いしたが、首を縦に振った。

 

「構わんよ。そもそも其方たちに何かを強制する気は無いからな」


 そんな言葉を最後に、私とロナは退去を許され、トルストイさんに馬車で送ってもらって宿に帰ってきた。既にほとんど日は暮れていた。

 

 宿の食堂では既にちょっとした噂になっていた。明らかに場違いなメチャクチャ豪華な馬車に連れられて行ったからだ。そして同じように場違いで豪華な馬車で帰ってきたからだ。


「やあ、良く帰ってきたね。もう帰らないかと思ったよ」


 宿の女将さんが笑いながらそんな事を言う。あながち、冗談ばかりではなさそうだった。まあ、領主の遣いに連行されて行ったのだから無理もない。


「ども」


 私もロナも言葉少なに応じ、部屋へ直行した。ひたすら疲れていた。という事で、部屋に入ると即ベッドに倒れて、寝た。


 ☆

 

 翌日の昼。私もロナもまだ全然眠れる感じだったが、お腹が減ったので起きてヨーコのカレーを食べレモンティを飲んだ。

 

 今日は1日眠っていたかったが、気になる事もあるので自分とロナに「洗浄」の魔法をかけて身支度し部屋を出た。

 

「おはよう。よく眠れたかい?」 

 

 宿の女将さんが笑いながら声をかけて来る。数日前、泊まり始めたばかりの時はもっと早くにたたき起こされ、宿泊の延長をするかどうか聞かれたりした事を思えば、ゆっくり寝かせてくれたらしいと分かる。

 

 私は支払い済みの宿賃があと何日分あったかうろ覚えのまま、1か月分小銀貨60枚支払う。冬を越すには最低あと2~3倍、小銀貨120枚~180枚(銀貨12枚~18枚)必要だが、既にそれくらい何とかなりそうな目途もたった。

 

 宿の女将さんは嬉しそうに受け取ると、元気に「行っておいで」と声をかけてくれる。

 

「どこ行くの?」


「ギルド。まずノエラさんの無事を確認しないと。ホントは昨日のうちに確認すべきだったけどね」 

 

 疲れすぎて無理だった。

 

「そっか。ミラは真面目だなー」 


「いや、仕事だし。普通でしょ」


 私とロナはだらだらとしゃべりながら商人ギルド会館を目指して歩いた。既に昼なので朝ほどの人込みではなかったが、丁度昼時で人通りはそれなりに多かった。

 

 人波を縫いながら進み、商人ギルド会館に到着する。中に入るとすぐにマーシャさんの目に留まった。マーシャさんがカウンターの中から急いで出て私たちの方へ歩いて来る。

 

「ミラさん、ロナさん」 

 

「こんにちわ、マーシャさん。ノエラさん帰りました?」


 マーシャさんは頷きながら、私たちを会議室へと案内した。確認だけ出来れば良かったのだが。


 会議室にはいり椅子に座ると、マーシャさんが昨日から今日にかけて起きた事を話してくれた。

 

 まず、ノエラさんが無事帰り、今日は家で休んでいること。ダンの事には触れなかったのでダンとは会っていないのかもしれない。

 

 次に、ギースたちについて。彼らはグループ名とかは無いが、ギースの悪名は有名で恐れられていた。そのギースが昨日、領主によって捕縛され、手下も何人も捕まったと言う。

 

 ちなみに、市場襲撃犯もノエラさんが手配してキッチリ監獄に送られたらしい。

 

 積極的に広められた訳ではないらしいが、箝口令が敷かれたわけでもなく、ほぼ情報はダダ洩れ状態だった。

 

 ギースのこれまでの所業や、ギースが実はガレオス子爵の係累であり、廃嫡された元嫡子であり、今でも縁が切れていない事なども知れ渡り、ガレオス子爵家の名声は地に落ちた。

 

 情報流出の速さや情報の正確さからして、領主が広めたんじゃないかとも思えたが、まあ政治は良く分からないし、その辺はどうでもいい。


 ともかく、ノエラさんとは1度話さないといけない。今後も続けてもらえるのかどうか。続けて欲しいが無理かもしれない。


 ノエラさんに会いたいと言うと、マーシャさんが明日ギルドに連れて来てくれるというので明日会えることになった。

 

 ダンは――まあ、無事だったんだろうし、また会った時で良いか。

 

 とりあえず用は済んだので帰ろうとすると、マーシャさんに止められた。

 

「あの、今朝がたご領主様の遣いの方が来られまして――」

 

 そう言って、マーシャさんは1度会議室を出ると、すぐに布で包んだ何かを持って戻ってきた。

 

「こちらを――」


 そう言って、渡された包みを広げると、中身は装飾を施された短剣――と言うより懐剣だった。

 まじまじと懐剣を見ているとマーシャさんが柄の部分を指し示す。

 

「こちらはご領主様の紋章です。これは『客分の証』だそうで、ミラさんとロナさんにお渡しするようにと承りまして――」 


「あ、ども」

 

 くれると言うので受け取ったが、心なしか、マーシャさんの表情や言葉が固い気がする。

 改めてマーシャさんを見ると何とも言えない様子で固まっていた。

 


「マーシャさん?」


「いえ、あの――客分というのは……お2人は一体――?」


「あー、何かちょっとした身分証明の様なものらしいです」


「そ、そうですか」


 何故かドン引きされてしまった。



読んでくれて、ありがとうございました♪

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