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55 領主館

 私とロナは、ついさっき逃げて来たばかりの貴族街への門を、これ以上ないほど正規の手段――領主の遣いに連れられ領主の差し向けた馬車に乗って通過した。

 

 貴族街でも一番大きくて立派な馬車に、何処かの家の使用人と思しき通行人たちも振り返る。

 

 貴族街の道は整備されていて綺麗で広いし、そもそも領主の馬車を遮る者などいないので一定のスピードで走り続け、暫くして一旦停車し、また走り出した。

 

「領主館の敷地に入りました。まもなく到着いたします」

 

 トルストイさんがそう教えてくれた。さすがこの街のトップのお家。門の中まで馬車移動するほど広いとは。

 

 窓から見えている景色は、領主館と言うより砦か城かという感じの高く分厚く頑丈そうな壁であり、森の中と言われても納得しそうなほど立ち並ぶ木々であり。

 

 その森を抜けると周囲に堀を巡らせたお城が見えて来た。領主館というより領主城だな、あれは――。

 

 堀には跳ね橋が降りており、馬車が通過しても降りたままだった。平時は降ろしっぱなしなのかもしれない。 

 

「到着いたしました。ラミラ様、ラロナ様、引き続き謁見室までご案内いたします」 

 

 もちろん私たちはハイと答えるしかない。トルストイさんに連れられて領主館内を歩くとチラチラと好奇の視線を向けられているのを感じた。

 

 そのまま連れまわされ、大きな扉をくぐり、豪華な装飾の施された広い部屋に案内され、立派な長椅子に座れと促された。

 

「この度は私的な謁見ですのでこちらの小謁見室での謁見となります。ではお2人の到着をお知らせしてまいりますので、暫くお待ちください」 

 

 そう言って放置された豪華な部屋で、私とロナは使用人さん達からお茶やお菓子を振舞われつつ、領主が来るのを待った。

 

 扱いからすると、捕まったり罰を受けたりというような用件ではないのだろうか?とは言え、全然安心は出来ないが――。

 

 そのままお茶やお菓子を食べ終わり、暫くの間は姿勢を正して待っていたが、だんだん緊張感が無くなってきた。感覚的には相当待った。一体いつ来るのかな?と思い始めた頃、部屋の外から複数の足音や人の気配がし始めた。

 

 と言うか、考えたらトルストイさんを魔力探知で見張ってれば良かったのだが、そんな事も思いつかないほど私たちは疲れていた。

 

 そうこうするうちに扉が開き、トルストイさんとその他、数名の人間が部屋に入ってきた。皆立派な服を着ていたが、中の一人はとりわけ豪華な服を着て、マントをつけていた。あの人が領主だろうと思われる。

 

 私とロナが急いで立ち上がると、マントの人が手で制す。続けてトルストイさんが「どうぞお掛けください」と言うので、また座り直した。

 

 私たちの正面にマントの人が一人で座り、トルストイさんが横に立つ。一緒に入ってきた人たちはマントの人の後ろや、入口付近や要所要所に陣取った。動き的には護衛の人っぽい。

 

「――呼び立ててすまんな。俺がこの街の領主、アンドリュース・リヴァーディアだ。よろしく頼む」 

 

 挨拶されたら挨拶を返さなきゃいけないと思うが、勝手に口を開いて良いものか。

 どうして良いか分からず迷っていると、領主アンドリュース・リヴァーディアが苦笑いを浮かべた。

 

 年齢は30歳過ぎというところか。多分領主としては若いんじゃないかと思うけど、どうだろう?金髪碧眼で美形の渋いおじさんと言う感じだ。

 

 歳が離れすぎているので私は特に何も感じないが、客観的に見てカッコいいんだろうな、という事は分かる。

 

「そう固くなるな。自由に発言するがよい。今日、この場では儀礼を気にする必要はない」


 そう言われたら挨拶しないのはやっぱり感じが悪いだろう。私は仕方なく口を開いた。

 

「――商人ギルドにはラミナ商会のラミラと登録していますけど、ずっと名乗ってきた名前はミラです。よろしくお願いします」

 

 そう言って、ロナに視線を向けるとロナも仕方なさそうに口を開く。

 

「――えっと、ウチはロナです。よろしくです。ギルドにはラロナで登録してます」

 

 私たちはかろうじて領主に挨拶をしたが、臣下の人達は苦々し気な表情をしていた。私が臣下の人達と領主を見比べていると、領主は周囲の臣下たちを見回す。

 

「――彼らの事は気にするな。格式張るのも彼らの仕事の内なのでな」

  

 領主は仕方なさそうに肩を竦めた。まあ、領主が気にするなと言うなら気にしないでおこう。私は臣下の人達の反応はとりあえず無視する事にした。

 

「分かりました。それで、私たちが呼ばれたのは何故ですか?」 

 

「――えらく切り替えのはやい娘だな。普通はいくら気にするなと言っても萎縮するものだが――イヤ、良いのだ。その方が話が早いし俺も気持ちよく話が出来るからな」 

 

 領主は少し面白そうに笑いながら話を続けた。

 

「今回、其方たちを呼んだのは、まあ形としては事情聴取だな。だが実際のところ、其方たちに会ってみたかったからだ」 

 

「えっと、それはどうして――?」 

 

 私は流石に「〇〇の件ですか?」とか、自分から色々喋ってしまわないように言葉を濁した。

 

「そう警戒するな――と言っても難しいか。ギーストリアは近年、この街の悩みの種となりつつあったのだ」 

 

 ギーストリアっていうのはギースのことか。貴族だしそっちが本名だったのだろう。

 

「――尊大に振舞ってみたり、突然激怒したりと不安定な性格ゆえに早々に廃嫡され、家督相続権は取り上げられていたのだが、何故か魔法の才能はズバ抜けて高かったため奴の親も奴を放逐しきれずにいてな」

 

 領主の眉間に皺が寄る。

 

「――似たような貴族家の持て余し者どもを侍らせ、犯罪行為に手を染め、次第に見過ごせぬまでになりつつあったのだ」

 

 なるほど、身分が貴族の無法者――それは普通の無法者より遥かに質が悪い。

 

「奴らの手法はまず甘い言葉で誘って囲い込み、依存させ、徐々に汚い仕事を押し付け、最後は完全に犯罪者の一味にされるか奴隷として売られるか、というものだ。およそギーストリアの仕業とも思えんのでおそらく手下の差配だろう」 


 領主が真剣な顔のまま言葉を続ける。

 

「だが、ギーストリアは性格にこそ難があったが無能という訳ではない。騎士団に居た頃から腕っぷしは常にトップ。そして魔法を使えるようになってからは手が付けられなくなってな。情けない話だが兵を差し向けた場合の犠牲を考えると、現状、見て見ぬふりをするしかなかったのだ」 

 

 私が黙って頷くと領主がニヤリと笑う。

 

「そのギーストリア――ギースと名乗っていたそうだが、奴の別邸に乗り込み叩きのめしてくれたそうだな。兎にも角にも、まずは感謝する。良くやってくれた」 

 

 まさか感謝されるとは思わなかったが、相手が喜んでいるなら良しだろう。と言うかこれほど早く領主に呼ばれるという事は、やはり私たちの行動は全部、把握されているという事だろうか。領主怖ぇ……。

 

「――私も絶対に退けない状況だったので、その……役に立ったなら良かったです」

 

「固い。固いな。其方、その歳でそれ程の実力、さぞや剛の者であろうと思い描いていたが――意外にも繊細な気質のようだな?」 

 

 領主が面白がりつつも、やや呆れたように息を吐いた。

 

「まあ良い。ようやくギーストリアを捕縛することが出来る。既に騎士と領兵を向かわせておるのでな。じき捕縛完了の報告が届くだろう。其方が奴を叩きのめし、魔法石を取り上げてくれたおかげだ」

 

 私は一瞬、緊張した。やはりその話か、と思ったからだ。だが領主の表情は柔らかいままだった。

 

「だからそう警戒するなというのに――俺は其方たちにギーストリアから取り上げた魔法石を寄越せなどと言わんよ。考えてもみろ。ギーストリアにすら手を拱いて(こまねいて)おったのに、そのギーストリアを打ち破った者達と敵対するなど愚かにも程があるだろう?」

 

「――それは助かります。どうやって逃げようかと考えてましたから」 

 

 私が少し力を抜いて答えると、領主がまたニヤリと笑った。

 

「大凡の事情は報告を受けておる。此度の市場での乱闘からギーストリア討伐まで、諸々全て不問にする。まあ細かい規則は色々と破ったようだが全ての原因は奴にある。其方達は身を守ったに過ぎんからな。ただしあくまで今回だけの例外措置だ。これ以降はまたちゃんと法を守れよ」 

 

「はい」 

 

 私が頷くと、領主も満足そうに頷いた。

 

「良し良し。では事件についてはそれで良いとしよう。さて、ここからが其方たちを呼んだ本題なのだがな――」

 

 そう言いながら領主が軽く居住まいを正した。

 

「――其方たち、我が領地リヴァーディアの客分にならんか?」



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