54 決着
私は一か八か、ギースの背後、背中に触れるほどの至近距離を目標に「短距離転移」の魔法を発動した。
そして今、まだ私の足は地面についていないが、見えない壁にぶつかって弾き返される事も無く、目の前にはギースの後頭部と首筋がある。ヨーコの予測は正しく、私は賭けに勝った。
「ど……何処へ行きやがった、くそ餓鬼がぁあああああああぁ!?」
魔力探知も基本の魔力感知さえも忘れたのか、ギースが喚き散らしている。
私は完全に殺す気でギースの首筋を目掛けて思いっきり短剣を振り下ろした。この男は生きている限りノエラさんを追う。そして私たちを殺しに来る。
ところがギースの膨大な魔力による魔力障壁によってか身体強化なのか、短剣の切っ先が傷つけたのはギースの首の皮一枚だけだった。
「そこかぁああああああああぁっ!?」
次の瞬間、ギースが高速で反転し私を捕まえようと手を伸ばす。同時に私はギースの頭を掴み全力で「雷撃」の魔法を発動していた。
ドォオオオオオオオンッ!という轟音が響き、ギースが仰向けに吹き飛んで床を転がった。
ギースの頭を「雷撃」の魔法が直撃した時、ギースに触れていた私はギースに弾かれるように吹き飛び、やはり床を転がった。
私はすぐに飛び起きたが、ギースが飛び起きて来ることはなく、ギースの手下がすぐに駆けつけて来ることも無かった。
ギースに歩み寄ると、完全に白目を剥き、頭を中心に体のあちこちから煙を上げていた。死んだのかと思いきや、胸やお腹はしっかりと上下している。メチャクチャ頑丈なおっさんだ。それでも、今なら止めを刺せるが――。
だが、私は思いとどまった。やっぱり愚かな選択かもしれないが、戦闘の流れを外れたらもう殺せない。この決断がいずれ私の首を絞めるかもしれない――そう思っても、やっぱり私は殺せなかった。
自然とため息が出た。まあ、無理なものは無理なのだ。しょうがない。ただ、それで貰うものは貰って行く。それは絶対だ。勝者の権利だ。
私はギースの服を解体し始めた。どこかに肌に触れるようにして持っている筈だ。まさか呑み込んで体内に隠している、なんてことは無いと思いたい。それだとギースの身体を解体しなくてはならない――そう考えて私はゾッとした。
気持ち悪い考えを振り切って、服の解体を急ぐ。貴族なら首飾りか腕輪あたりか。以前戦った魔法使いは首輪にしていた。
予想通り、ギースは腕輪に加工し、左右の腕に装着していた。
一瞬、取り外せないようになってるなら腕を斬り落とす必要があるかと警戒したが、普通に外せてホッとした。
左右2つの腕輪には未知の魔法石を含め全部で10個ほど取りつけられていた。
魔法使いと闘うのは非常に危険だが、それだけに報酬はとてつもなく大きい。
私は思わず自分の口角が「ニヤリ」の形につり上がるのを自覚した。
「――よし、さっさと逃げようか」
私は何だかんだでホクホクしながら屋敷を飛び出した。庭園を走り抜ける途中、ロナが走り寄ってきて合流した。
「先に逃げろって言ったのに」
「ミラがいないと逃げるのも結構むずいよ~」
ロナが困ったように言う。そう言えばロナにはまだ隠密系の魔法がない。あれ?いや、「擬態」の魔法は渡してあったような?
まあ、良いか。しょうがない。確かに「隠形」の魔法のほうが便利だし、壁を越えるにもロナだけで無理という訳じゃないけど、確かに私がいた方が楽だ。
「――ダンは逃げられたのかな?」
私が独り言のように呟きつつヨーコに意識を向けると(ちゃんと逃げられたみたいよ~)というヨーコの声がした。
「ギースは釣れたんだし、大丈夫じゃない?」
「まあね」
自分が話しかけられたと思ったらしくロナが楽観的に返して来る。私も軽く返した。
午後も遅くなって、私とロナはさっさと貴族街を後にして宿に帰ってきた。
2人とも、かなり疲れたのでベッドに身体を投げ出した。
なんとか勝てたけど、今回も実際にはかなりギリギリだった。
戦闘開始直後、私がギースに弾き返された時の魔法は、透明な防壁ではないかとヨーコが推測していた。
魔法の防壁の仕組みや位置によっては、最悪、「短距離転移」の魔法で飛び込んだ時、私の出現位置と防壁が重なってしまうかもしれず、その結果、私がどうなるかは完全に謎だった。
単にはじき出されるだけかもしれないし、私が真っ二つに分断されるかもしれない。ヨーコの知識と観察で防壁の位置を予測し、多分大丈夫と言ってくれていたが、それでもかなり恐ろしい決断だった。
色々、確認しないとマズいけど今はもう動きたくない。何とかこのまま、せめて明日くらいまで見逃してもらえないだろうか。
「コンコン、コンコンコン」
そんな願いもむなしく、私たちの部屋の扉がノックされた。ロナを見ると、ロナも私を見ていた。「出ないの?」と言いたそうな顔をしている。だが、実際には無言だった。声を出すのも怠いからだ。私もだ。
「コンコン、コンコンコン」
またしても同じリズムで扉が叩かれた。何か「起きてるのは分かってますよ」と言われているみたいだ。
「コンコン、コンコンコン」
仕方なく私は起き上がり、扉まで歩いて何とか扉を開けた。ノックしていたのは宿の女将さんだった。
「寝てたのかい、悪いね」
「いえ……何でしょうか?」
「それがさ、アンタたちにお客が来ていてね、それがちょっと無視できないお客なんだよ」
女将さんがちょっと困った顔をしてそう言った。
「誰です?」
「それが、領主さまの遣いの者だとおっしゃるんだよ」
私は思わず口を開けたまま固まってしまった。領主の遣い?領主って、ここの――リヴァーディアの?
「――偽物という事は……?」
「バレたらとんでもない事になるのに?ありえないと思うね」
「――分かりました。いつどこへ行けば?」
「とりあえず、今、下におられるから来てくれるかい?」
「分かりました。ちょっと待ってください」
私は部屋に戻ると、身体を起こして話を聞いていたらしいロナに簡単に説明し、部屋に残って良いと言ったが、ロナはついて来ると言った。
という事で、着替えは無いけど私が私とロナを、今着ている服ごと「洗浄」の魔法をかけてキレイに洗浄し、部屋を出た。
「あら、綺麗な服に着替えたのかい?小さくても女の子だねぇ」
女将さんは勘違いして微笑ましそうに笑った。まあ、実際には着替えた訳じゃあないけど、領主の遣いと聞けば私でも多少は気にする。
私たちは女将さんに案内されて宿の食堂に入った。食堂の一番奥の席で、平民街では場違いなほど立派な服を着た老紳士が立ち上がって待っていた。
「お呼び立てして申し訳ございません。ラミナ商会のラミラ様、ラロナ様でございますね。わたくしはこのリヴァーディアのご領主様の遣いで参りましたトルストイと申します」
トルストイさんの言葉は非常に丁寧で穏やかで淀みなく、その佇まいは使用人然としていながら威厳に満ち溢れていた。この人、絶対ただの遣いッパシリじゃない気がする。てかまだ登録しただけでほぼ使ってない商会名と商人名を知ってるとか――領主怖ぇ……。
「こんにちは。えっと、どういったご用でしょうか?」
私も挨拶を返したが思わず警戒心が滲み出てしまった。
「こちらでは余人の耳目もございますので、領主館にお越しいただいても宜しいでしょうか?」
トルストイさんは素知らぬ顔で出頭を要請してくる。行きたくないがこれは要請というか命令だ。背くなら万難を排して逃亡する必要がある。明日ならともかく今日はもうそういうのは嫌だ。
私はハイと答え、ロナはガックリ項垂れた。
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