53 ギースの魔法
ギース(仮)――(仮)はもういいか。間違いなくアレがギースだろう。アイツは私たちが「持っている」と言った。「何を」とは言わなかったが、勿論、魔法石の事だと分かった。
小さな子供が2人、自分の屋敷に侵入し手下のチンピラ多数をぶちのめしている、というその状況から確信しているようだ。実際、私たちは魔法石を持っている。
そして、そんな状況を不思議がるのではなく一瞬でその結論にたどり着くという事は、ギースも魔法石を持っているという事だ。当然「身体強化」で増強されているはずで、元々の身体の性能が違う分、その力は私やロナとは比べ物にならないだろう。
そもそも魔力探知でその強大な魔力反応を見た時からそんな気はしていた。
ここからは魔法使い同士の戦い、一瞬の隙も許されない。
「ロナ、少し退いて、いつでも逃げられるように」
ロナに小声で指示する。一瞬、不満そうな雰囲気を醸し出したがロナはゆっくり後退していった。
ホントはロナにも一緒に戦って欲しいが、ギースがどんな魔法を持っているか分からないしヨーコが「強い」と言っているほどの相手だ。ロナでは無理だと思う。勿論、私だって自信はないが、ここは私がやるしかない。
「――ほぉ……なりは小せぇが、なかなかやりそうじゃねぇか!」
ギースは今や大階段を降り切って、鼻息も荒く私を見降ろしつつ近づいて来る。
間近で見るとギースは魔力反応から想像していたよりかなり強そうだった。その上、どんな魔法攻撃が来るか一切不明。超怖い。
本来ならこんなのと対峙するはめになる前にさっさと逃げたい。だが今は陽動作戦中だ。やっとギースが釣れたところなので、せめてもうしばらく引き付けておかなければいけない。
となると、やはり先手必勝。ギースが余裕こいてるうちに一気に勝負を決めるのが最善だ。
私は常人男性の3倍以上の瞬発力に「剛力」の魔法を上乗せして、呼吸が苦しくなるほどの急加速でギースの脇から背後を狙った。
この場の誰も反応出来ていない。ギースの頭もそのまま前を向いている。遥か頭上にあるギースの首を狙って斜め後方から全速力で飛びかかった、その瞬間、私は全身に衝撃を受け、弾き飛ばされた。
何が起こったか分からなかった。突然、自分から全力で壁にぶち当たったような強烈な痛みと衝撃で息が詰まり、目はチカチカ、頭はズキズキクラクラ、身体はフラフラとなった。
「おっと!?ブハハハハッ!凄いスピードだな!」
そう言いながら、ギースが振り向きざま突進してきた。同時に私を捕まえようと大きくてぶっとい腕を伸ばして来る。ふらつく身体に活をいれ、必死に回避し跳び退った。
少し距離をおいてギースと対峙した次の瞬間、横合いから微かな魔力反応、僅かに遅れて殴られるような衝撃が来た。
何とかギリギリ、衝撃と同じ方向に跳んで威力を減らしたが、微かな魔力反応と見えない衝撃は2撃目、3撃目と襲って来る。いつの間にか私だけが一方的に攻撃を受ける展開になってしまっていた。
間違いなくギースの魔法だ。透明な何かを操って攻撃する魔法だろうか。
だが、ギースはニヤついたまま対峙した位置から動いていない。
「ほぉ、なかなか戦い慣れているじゃねぇか!」
ギースがゆらりと私の方へと向き直る、その間も次々と透明な衝撃が襲って来る。だが私も魔力感知には自信があるのだ。透明な衝撃が来る直前の魔力反応の兆候は覚えた。集中していればもう喰らわない。
(ミラ、ギースの魔法だけど――)
少し落ち着いた私の頭にヨーコの声がした。ヨーコはギースの魔法について推測を話してくれる。ヨーコの推測が正しいなら、凄いチャンスになるかもしれない。
私がギースの攻撃を全て完全に回避するようになると、透明な衝撃の連続攻撃が止んだ。
そしてギースの身体の周囲にたくさんの魔力反応を感知した。空中に氷の粒が発生し見る見るうちに鋭く大きな槍の穂先のような形に成型されていく。
そして何の合図も脈絡もなく突然、氷礫がギースの周囲に撒き散らされた。
透明な衝撃と違って目に見える分、避けやすいが数が多い。私はロナに向う射線上に陣取り、当たりそうな氷礫だけ短剣で防ぐ。
「ぐぁっ!?」「うぐっ!?」「ひっ!?」
周囲からいくつも悲鳴が上がり、横目で確認するとギースの手下達に氷礫が多数突き刺さり、血みどろになっていた。それだけでなく、ホールの壁や柱にもヒットし、あちこち傷だらけになっている。
「きっさまらぁあああああぁっ!?」
その阿鼻叫喚の光景を見たギースは、冷静になるどころか完全にとち狂った様子で喚きながら今度は炎の玉を呼び出し、私とロナを目掛けて飛ばし始めた。
と言うかこの人さっきまでそこそこ冷静そうに見えたのに、何でいきなりキレてるの。だいたい手下を傷つけたのも屋敷を破壊したのも自分なのに何故私たちに怒ってるのか。訳が分からない。
私は素早くロナと合流し、ロナの手を取って2人で高速移動し、炎の玉を躱していく。炎の玉は私達を掠める事も無く背後に飛び去り、壁や床に当たって爆発した。付近に居たギースの手下やギースの屋敷がさらに吹き飛び破壊されていく。
何となく炎の玉は弾かずに回避すると決めた自分の勘を褒めたい。
「もう許さん!絶対許さん!!絶対殺すッ!!?」
ギースが訳の分からない罵声を叫びながら気が狂ったかのように炎の玉、氷礫、透明な衝撃を乱発し始めた。
違う対処が必要な炎の玉と氷礫に見えない攻撃が加わり、躱し続けるのが困難になってきた。次第に氷礫が身体を掠り、炎の玉が至近距離で爆発し始め、私もロナも相応に傷を負い始めた。
これほど魔法を乱発しているのにギースの魔力は衰える様子もない。このままではいずれまともに喰らってしまう。
私はかなり焦りを感じていた。もう陽動は十分だろうか?ソロソロ逃げてもいいだろうか?周囲を見ればいつのまにか動ける手下は屋敷の奥へ避難したらしく、倒れているのはどう見ても手遅れという者たちだけになっていた。
入口の大扉も既に破壊されて屋敷の中から美しい庭園が見えている。
「ロナ、逃げて!」
「ミラは!?」
「1撃、試してから逃げる!」
私とロナは逃げ回りながら小声でそれだけを申し合わせると、2手に分かれた。ギースがどちらを狙うか迷ったようで一瞬、魔法攻撃が止まる。
(ホントにやるの?)
「やる!ヨーコの推測を信じる!」
(責任重大だわ~)
困ったようなヨーコの声。だが止めろとは言わない。なら可能性は十分あるはず!
私の動きが止まったのを見て、ギースが私に狙いを絞って攻撃を再開した。ロナを切り離したので少し回避が楽になる。それでもまだ結構ギリギリでそこまで余裕はない。
私は回避を続けながら慎重に魔力を制御し、一か八か、「短距離転移」の魔法を発動した。
読んでくれて、ありがとうございました♪
もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。




