表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/86

52 陽動

 ギース(仮)の傲慢な声が「魔法石」と言った。ノエラに「魔法石」を寄越せと要求していた。

 

 私は思わずロナを見た。ロナも私を見て目を丸くしている。そしてその隣でダンも――。

 

 貴族以外で魔法石を持ってる人がいたとは。しかもそれがノエラさんとは。会ったばかりとは言え、こんなに身近に魔法石を持っている人が居るとは全く気付かなかった。

 

 しかしノエラさんは綺麗だから狙われているという話だったが――まあ、それはそれで狙われているのかもしれない。

  

 ともかく魔法石を持っている限り、ギース(仮)はノエラさんを諦めないだろう。ここで助け出してもまた攫われそうだ。

 

 しかしそうか「ノエラさんが魔法石を持っている限り」という事だ。ノエラさんから魔法石が失われてしまえばただの綺麗なお姉さんだ。

 

 いや、そうなっても普通に魅力的で価値があるが、それだけならマーシャさんが守ってくれるかもしれない。

 

 私は小声でダンに囁いた。

 

「ダン、ここから自力で逃げられる?」 

 

 ダンは少し考えて頷いた。

 

「はい」

 

「――じゃあ、ノエラさんを連れて逃げるのは?」 

 

 ダンは一瞬動揺し、また少し考えて頷いた。

 

「――行ける、と思います」

 

 何となくそんな気はしていた。ここまで潜入活動を共にして身のこなしというか、ただのへっぽこ新人探索者ではないような、何かを感じていた。ダンは誤魔化さずに答えてくれた。

 

「なら、私とロナで正面から行って騒ぎを起こすので、隙を見てノエラさんをお願いします」 

 

「――分かりました」 

 

 ダンが引き受けてくれたので、私はロナと2人、屋根の上を正面入り口のほうへ進んだ。

 

「――はぁ。また逃げる事になりそう」


「まだこの街に来てそんなに経ってないのにねー」

 

 ロナの言う通り、ほんの数日でこのトラブル。所々ケンカを売ったり買ったりしたのがまずかった気もするが――。

 とにかくまずこの場をしのがなければ。反省も先の心配も、その後だ。

 

「――じゃあ、まあ降りて行って、一騒ぎするか」 

 

「おっけー。魔法はどうする?」 

 

「基本、身体強化だけで。危なかったら使って」 

 

「そうなると隠しておけないけど、いいの?」 

 

「しょうがないよ。ノエラさん攫われたの私たちのせいだしね」 


 私がそう言うとロナがちょっと微妙な顔をする。


「ミラ、そーいうとこ、もうちょいズルくても良いと思うけどな~」


「まあ――納得の問題かなぁ?最低限、筋は通しておかないとただの無法者だしね」


「ふ~ん、まあいいけどねー」


 ロナはまだ何か言いたげだがそれ以上は言わなかった。


 私達は窓枠や、壁や柱の凹凸を利用して屋根の上から正面入り口の前に降り立った。

 

 私が正面扉のドアノッカーを勢い良く鳴らすと立派な服を着た使用人らしき男が出てきた。彼は私とロナを見下ろすと、周囲に視線を巡らせた。

 

「――お前たちだけか?どこの使いだ。……というかどうやってここまで入った?」


 私達は今、見習い商人っぽい恰好をしているので、見かけ通りそう思われたらしい。


「市場で攫われた女の子がここに連れ込まれたと聞いて迎えに来た」


「はぁ?」


「誘拐された女の子がここにいるはず」


「――言っている意味が分からんのだが……」


 男の反応的に、ギース、ミックの一味である可能性とただの使用人の可能性と、どちらもありそうに見えた。


「そうですか、じゃあ勝手に探すんで退いて下さい」


 私はそう言うと同時に男の立派な服を引っ張り、男が思わず1歩前に踏み出した足をタイミングよく蹴りあげた。男は半回転して頭から着地し白目を剥いた。


「ねえ、それ前からウチもやりたかった。教えてよ!」


「別に簡単だよ。体重移動しようとして足を踏み出すでしょ?その足が地面につく直前に蹴り上げると簡単に一回転するよ」


「え~!そんなんでいいの?!」


 ロナが試したくてウズウズの顔になっている。

 

「そうだけど、今は実戦だからね」


「おっけーおっけー♪」


 使用人をまたいで正面入り口から屋敷に侵入しつつ、ロナとそんなやり取りをしているとバタバタと幾つかの足音が近づいて来た。

 

 流石貴族の別邸、正面玄関の扉をくぐって邸内に入るとそこは玄関というより吹き抜けの大ホールで、大人数が集合出来そうな広さだった。正面には大階段があり1階も2階も奥の方まで廊下が続いている。


「おい!お前たち、そこで何をしている!?」 

 

「攫われた女の子を連れ戻しに来ました~」 


「何だと!?」


「何を言ってる?」


 新たにやって来た使用人とも同じようなやり取りを繰り返す。 

 

「実行犯はミック、主犯はギース。ここってギースの家ですか?」 

 

 私がその名前を出すと使用人の男達の雰囲気が変わる。

 

「――オイ、とりあえず黙らせて縛りあげろ」

 

「ああ」 

 

 男は頷くなり、どう見ても子供の私を大人の足で容赦なく蹴り上げた。だがそういうのは大好物だ。軽く避けて蹴り足をさらに蹴り上げると面白いように半回転して後頭部から着地して白目を剥いた。

 ロナが興味深そうに一連の流れを見ている。やめろと言っているのにやる気らしい。

 

「こ、このガキ……ッ!?」 

 

 黙らせろと命じた男が私を捕まえようと踏み出した瞬間、ロナがその足を蹴り上げる。ものの見事に半回転し、屋敷の高い天井を蹴り上げるようにして後頭部から着地し、やはりあっさりと白目を剥いた。

 

「おー!いいね♪」


「いや、いきなり実戦で試さないでよ」


「まぁまぁ」 

 

 それを見ていた他の使用人たちが色めき立つ。

 

「貴様等!」


「舐めてんのか!?」 

 

「やっちまえ!」 

 

 最早、使用人という体裁はかなぐり捨て、隠し持っていたナイフを抜き、ただのチンピラという有様で襲い掛かって来る。

 更に屋敷の奥から追加の人員が向って来るのが見えた。人が少ないと思っていたが、居ないわけでもなかったらしい。

 

 それからはロナも新技を試す余裕もなく、全力で戦い始めた。

 私はまだ多少余裕があったのでロナをフォローしつつ押し寄せる使用人――チンピラたちを殴り倒し、蹴り飛ばしていく。

 

「な、何だコイツら!?」 

 

「もっと人を呼べ!」


「誰か、あの方に報告を!」


 チンピラを殴りながら私は、狙い通りギースを誘い出せそうだと思っていた。

 

 そうこうしているうちに増援も戦いに加わった。彼らは最初から短剣を抜いていて殺す気満々だった。

 

 だが、私もロナもスピード重視で成長中だ。ロナはまだ男達の攻撃をまあまあ必死で回避しているが、私は既にナイフや短剣が突き出され、振り下ろされるのを見てから動いても余裕で回避できる。

 

 ロナをフォローしつつ増援を2人ほど殴り倒して短剣を奪うと、1本ロナに渡す。それだけで一気に戦況は私達優勢――というか勝勢になった。

 

 まだ武器を持っている連中を優先して斬り付け、強制的に武装解除していく。

 

「ギャッ!?」「ぐぁっ!?」「ひっ!?」


 武器を取り落とした者は邪魔にならないように強めに蹴り飛ばして脇に寄せる。

 

 正面にいた男を殴り倒すと、まだ立って襲って来るものは居なくなった。ぐるっと見回すと使用人のようなチンピラのような男達が屋敷の床に倒れて呻いている。

 

 さて、回復してまた襲ってきても鬱陶しいので縛りあげて――そう考えていると正面の大階段の上の方から声がした。

 

「――おいおい、どうなってる?まさかそこのガキどもにやられたんじゃねぇだろうなぁ?」 

 

「そ、それがその……」


 見上げると、巨体な上、鍛えられたがっしりとした体格の大男と付き従う使用人の男が階段をゆっくり降りて来る。大男は口角を凶悪に吊り上げ歪めながら私とロナを見下ろし、倒れている手下たちをぐるっと見回した。

 

「――成る程、テメェら、持ってるなぁ!?」


 大男はその凶悪そうな顔を、邪悪な笑みでいっぱいにしたのだった。



読んでくれて、ありがとうございました♪

もし続きを読んでも良いと思えたら、良かったらブックマークや評価をぜひお願いします。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ