5 探索者ギルド
街に帰った私は、ヨーコの言う通りに探索者ギルドへ向かった。
探索者ギルドでは、探索者たちによって収集された様々な情報を資料室に保管しており、ギルド会員なら有料で閲覧できる仕組みがあった。
私は資料室の職員さんに要求されるまま、入室料として小銀貨1枚を支払って入室した。およそ3日分の食費が飛んだことになる。私にとっては成果無しでは到底、許されないほどの大金だった。
(魔物図鑑か、魔物の生息域が分かる分布図なんかが載っている資料を探してくれる?)
……と、言われても私は文字が読めない。とりあえず、図鑑を探してみたが見当たらない。仕方ないので資料室の職員さんに聞いてみる事にした。
「すみません、魔物図鑑とか、生息域が分かる資料とかありますか?」
「ああ、ありますよ。君、読めるのかい?」
「大丈夫です」
「そう、ちょっと待っててね」
一瞬で文字が読めない事を見抜かれたが、それ以上、特に咎められる事もなく、図鑑と資料を出してもらった。
図鑑と資料を閲覧用のテーブルに運び、椅子に座ってまずは図鑑から開いてみる。中は片側ずつ、観察して描かれたような、割とリアルな魔物のイラストとその下の方に文字が書かれている構成だった。
魔物のイラストを見ているとヨーコがページをめくれと指示してくる。指示に従ってペラペラとめくっていくと、2か所でヨーコが少し時間を掛けたが、そのまま最後までページをめくり切った。
資料の方は図鑑以上に早くページをめくらされた。そして、やっぱり2か所でヨーコが時間を掛けて読み込んだらしかった。
(覚えたから、もういいわよ)
「えっ?もう?」
私は思わず小声で聞き返す。だって、小銀貨1枚もしたのに、こんな短時間で出るのはもったない気がしたのだ。
私は未練がましくもう一度図鑑を一通りめくったが、魔物のイラストを眺めただけで、特に収獲もなかった。
仕方なく、資料室の職員さんに図鑑と資料を返して資料室を出た。
短い時間だと思ったが、空を見ると既に黄昏時だった。私はパンを一つ買って拠点に戻った。
拠点では今日も先にロナが帰っていた。買ってきたパンを食べて、今日の事を少し話して壁際で目を瞑った。
私が眠るまでの間にヨーコが今日の資料室での収穫と明日の計画を話していた。
ただ、目を瞑ると途端に眠くなり、すぐに寝てしまったので殆ど覚えていなかった。
☆
翌朝、私はいつも通り籠を背負って杖を握ると、拠点を飛び出した。
街を出て、森への道すがら、自分の周囲に人が居ないことを確認してヨーコに話しかける。
「それで今日はどうするの?」
(ああ、昨日も言ったけど、貴女、ほとんど寝てたからね)
ヨーコが少し笑っているような雰囲気を醸し出す。まあ、実際その通りなので黙って頷いた。
(昨日、探索者ギルドの資料室で資料を読んで、発火蜥蜴と発雷鼠が良いかなと思ったのね。その理由は、どちらもミラが何とか倒せるレベルの魔物だという事、そして、その割に魔法が有用だという事、さらに割と森の浅層のあちこちに生息していて見つけやすい事よ。今の実力からすると、どちらも楽にはいかないでしょうけど、ミラは動きが素早いし反応も良いから何とかなると思うわ)
ヨーコは私がウサギに襲われて、とっさに返り討ちに出来た事を評価してくれているようだ。元・魔法使いにそう言われるとちょっと嬉しい。
「どんな魔法?」
(そうね、発火蜥蜴のほうは一瞬、獲物にブワッ!と炎を吹きかけるわ。ほんの一瞬なので炎はそこまで高温じゃないけど、その一瞬ギョッとして、無意識に怯んじゃう、そこを襲って来る蜥蜴で、この戦法は弱い魔物全般に有効だわ。面白いのは発火蜥蜴自身もこの魔法で怯んじゃうことね)
ヨーコはそこで一度、間を開けてまた説明を再開する。
(――発雷鼠も殆ど同じ戦法を使う鼠ね。ある程度近づくと、バチッ!っと静電気――小さい雷を飛ばして来るのね。これがかなり痛いので思わずビクッと動きが止まる、そうやって怯んだ瞬間を狙って襲って来るの。こちらも弱い魔物全般に有効な戦法ね)
(どちらを狙うにせよ、何匹倒せば魔法石が出るか分からないから、根気よく倒し続けるしかないわ。問題は、魔法石を持っていない個体でも魔法は普通に使って来るのでミラにはなかなか厳しい連戦になるという事かしら――やっぱりやめとく?)
勿論、そんな訳にはいかない。私は一刻も早く強い魔法使いになりたいのだ。
「やる」
(そう、がんばってね!)
ヨーコに励まされながら、私は発雷鼠の生息地へ向かった。いつもより少しだけ森の奥寄りだが、まだまだ浅層なので何とか行けるだろう。発雷鼠を狙う理由は、発火蜥蜴より発雷鼠のほうがやや小さいと聞いたからだ。大きい魔物は、それだけで怖い。
発雷鼠は鼠と言う名前だが、アナグマっぽい見た目をしている、と図鑑のイラストを見たヨーコが言っていた。
確かに街でいくらでも見かけるドブネズミとは感じが結構違って見えた。図鑑によれば普通に食べられるらしく、肉も毛皮も買い取り対象になっていた。特訓のついでに稼げるなら言う事はない。
アナグマに似てるというだけあって、発雷鼠は地面に穴を掘って住処にしているらしい。森のあちこちにいるのだが、小川や湧き水の近くや、崖の付近に比較的、多く生息しているようだ。
私は今まで良く歩いていた辺りからさらに30分ほど森の奥に分け入った。資料室で見た「大雑把な魔物の分布図入り」の森の地形図を思い出しながら、小川があるらしい方向へ歩く。
すると、小川らしきものが見えた。小川っていうから小さい川なのかと思ってたけど、森の地面の浅い溝にちょろちょろと細くて浅い水の流れが見えるだけだった。せいぜい足首ほどの深さしかない。これじゃあ飲料水には難しそうだ。お腹を壊しながら探索なんて出来ない。
ともかく小川は見つかったので、アナグマっぽい鼠を探す。すると、意外にも探し始めてすぐ、水を飲みに出てきた発雷鼠とバッタリ対面した。
一瞬固まる、私と発雷鼠。先に動いたのは発雷鼠だった。キョトンとした表情から一変、牙を剥き出し威嚇してくる。
「シャアァアアアッ!」
私は割と何も考えずに発雷鼠に向って突進した。あと一歩で私の間合いにはいるので、杖で殴る為、小さく振り上げたその瞬間、バチッ!と言う音と共に指先にビリッ!と強烈な痛みが来て思わず杖を取り落としそうになる。
「――痛っ!?」
慌てて杖を握り直すが、同時に足元に何かが飛んでくるのがかろうじて見えた。私は咄嗟にその場で飛び上がる。下を見ると足元に牙を剥き出す発雷鼠の姿があった。
私に避けられたまま、牙を剥き出して固まっている発雷鼠に向って着地しながら杖を振り下ろす。ボグッ!ゴキンッ!と杖先に叩き潰す感触があり、その一撃で発雷鼠は動かなくなっていた。
「ふぅ、一匹目」
(お見事、良い動きだったわよミラ♪)
「ありがと。でも一発喰らっちゃったし、すごい痛かった」
(それについては先手を取られたのがまずかったわね。ミラの杖より発雷鼠の魔法のほうがリーチがあるからね)
「先手ね。という事は先に見つけて不意討ちしたいな」
(罠を仕掛けたり撒き餌して、風下で待ち伏せたりすれば先に発見するのは可能だと思うけど、飛び道具でもない限り、そこまで近づく前に気づかれると思うわよ。それに訓練も兼ねてるんだから、発見してもらって襲われた方が良いんじゃない?)
「そりゃそうだけど、やっぱ怖いな」
(がんばって。強くなるんでしょ?)
「そうだね、がんばる。とりあえず解体するよ」
私はすぐさま穴を掘り、初勝利の獲物の腹を開いて内臓を掻きだして捨てる。期待したわけじゃないけど、さすがに魔石も魔法石も出なかった。
小川の流れは浅くて細かったが、それでも一応、流水なので毛皮は剥がずに流れに晒して冷やしつつ血抜きをする事にした。流れて行かないように念のため、枝を何本か立てておく。
そうやって、獲物を見張りながら発雷鼠の襲撃を待った。ある程度、時間が経ったら獲物を籠にいれて移動しつつ発雷鼠を探索する。
夕方までその繰り返しで5匹ほどの発雷鼠と遭遇、何とか全て仕留めることが出来た。怪我もしなかったので初日の成果としてはまずまず。
当然のように魔石も魔法石も1個も出なかった。
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