49 乱闘
どう見てもチンピラと言う風体の集団に迫られ、マーシャさんもノエラさんも顔面蒼白になっている。一方ロナは「どうすんの?」って感じの目で私を見ていた。
「おい、店主に用があると言っているんだが?」
チンピラの群れから一歩突出した男が再度、店主との面会を要求した。まあ、このまま無視しているわけにもいかないだろう。
「――この販売スペースの借主という事なら私ですけど?」
「はぁ?――イヤ、お前みたいなガキじゃなくて責任者を出せと言ってるんだ」
男は一瞬、真正面から私を見降ろして言葉に詰まった。私のような子供が名乗り出たのが意外だったのだろう。だが、すぐに調子を取り戻した。
「――そう名乗り出るように言われてるのか?ここの店主は随分用心深いようだな?」
男はキョロキョロと販売スペース内を見回しているが狭いのであっという間に私に視線を戻した。
「――まさか、あの倉庫に隠れてるのか?」
男は馬鹿にしたような、驚いているような表情で首を傾げる。確かにもしそうなら無駄な事だし、そんな表情になるかもしれない。
「いや、だからここの借主でこの店の店主で責任者と言えば私ですよ」
男は改めて私をじっくりと見た。
「――そうか。じゃ、まあ、お前で良い」
何をどう考えたのか、仕方なく、という感じではあるが男は私と話をする事にしたようだ。
「俺たちはギースの配下の者だ」
まるでそれで全て話は通じると思っているような口ぶりで男が言い放った。だが、私はギースが誰か知らない。
「それで、そのギースの配下の人が何の用です?」
今度こそ男は信じられないというように一瞬、目を見開いて急速に剣呑な雰囲気を放ち始めた。
周りにいる男たちの目もギラリと光ったように見えた。
「――命知らずのガキだな?ここらがギースの縄張りだと知らないわけはあるまい?」
私が「イヤ、知りませんけど」と答えたとたん、話にならんとばかりに男は正面に立つ私を無視して店内に踏み込んできた。
そのまま私の姿など目に入らないと言うように進もうとするので、男が店内の地面を踏みしめようとする足を思い切り「足払い」で掬って跳ね上げた。
完全に油断していた男は天井に向って足を蹴りあげ後頭部で着地した。
「ゴチンッ!」「げひゅっ!?」
「なっ!?」
「ミ、ミック!?」
「ミックさんっ!?」
後ろに控えている男たちが口々に叫ぶ。どうやら転がって頭を抱えて悶えている男はミックと言うらしい。
「ぐぁ……ッ!?」
ミックは悶えながら呻き声を漏らしていたが、次の瞬間、起き上り様、いつの間にか握っていたナイフで私を突いて来た。心臓直撃コースだ。散々、子供子供と言っておいて容赦がない。
「グシッ!」「ギャッ……ぁ!?」
打撃音と悲鳴がほぼ同時に響く。悲鳴はもちろんミックの悲鳴だ。
悪いが私はこの手の人種を1ミリも信用していない。というかロナとあと数人以外の人間は基本信用していないので、私の対人関係は常に「敵対」あるいは「休戦」状態だ。
余程工夫してくれないと不意討ちはただの通常攻撃と同じだ。常に攻撃してくるかもしれないと思っているのだから後は反射神経と瞬発力勝負。そういう勝負なら普通の人には負ける気がしない。
改めて見下ろすとミックの腕は手首の手前で変な方向に曲がっていた。私が蹴り上げたからだ。ナイフは――――――今、落ちて来たのでキャッチする。
「――それで、ギースの配下の人が何の用でしたっけ?」
「ぐっ……うぅ……し、ショバ代を、よこしな」
痛むのか、威勢は無くなったがそれでも要求をしてくるあたり、普通のチンピラではなさそうだ。私はちょっと緩み始めた気を引き締めた。
「払いませんよそんなもの。商人ギルドで許可を貰ってますから」
「ギースの、許可は、取ってない……だろうが!」
「知りませんよギースなんて。ここでショバ代を取って良いのは商人ギルドだけです。それだって領主の代理ですから。ギースとミックは領主にケンカを売ってるんですか?」
私がそう言うとミックは脂汗を流しながら強く睨んでくる。痛みが増しているのだろうか。
「……へっ、だったら、しょうがない……なっ!」
ミックは折れていないほうの手で再びナイフを抜き、至近距離から投げた。
止まって見える、とまでは言わないが、射線にロナもノエラもマーシャも入っていないのを確認してから避けるくらいの余裕はあった。
だがミックはナイフを投げると同時に、意外なほど素早く数歩後退した。
「やれっ!!」
「うおぉおおおおおぉっ!」
そしてミックの号令と同時に背後の男たちが押し寄せて来た。
正直、ミックもその手下たちも、ミックがやられた時点で戦意喪失すると思っていた。魔力感知と魔力探知で大体の強さが分かるせいで、ついつい油断してしまう。
数人同時に突っ込んでくるが多少の差はある。一番突出している男の足を蹴り飛ばし、体勢を崩したところで踏みつける。一段高いところに躍り出た私は左右の男に一撃ずつ蹴りを見舞った。
着地しながら確認するとロナも戦闘開始している。上手く攻撃から身を躱しながら打撃を入れて、一人ずつ倒していた。
だが、ずっと見ている余裕はなかった。次々とチンピラが押し寄せて攻撃してくる。中には手強いのもいて10人ほど打ち倒した時には私も結構、殴られて息も切れていた。
「ミラ!」
ロナが叫ぶ方を見ると、ロナも数人倒していたが私の注意を引いたのはそこではなかった。
厨房に居た筈のマーシャさんが倉庫付近に倒れていて、ロナが助け起こしている。そしてマーシャさんと居た筈のノエラさんが何処にもいなかった。慌ててミックと取り巻きを捕まえようと見回すと、既にミックはどこにもいない。
「――ミラ、ノエラさんが……」
どうやら私はチンピラ風情と甘く見過ぎたらしい。ミック達は最初から上手く行かなかった場合の作戦も決めていたのだろう。敵ながら見事、と言うより私が間抜けすぎだった。
念のため、倒れているチンピラを片っ端からふん縛って顔を確認して行くが、ミックやその周りにいた連中の顔は見つからなかった。
さて、これからどうする?おそらく彼らの拠点は低所得者層の集まる北街門付近の住宅地だ。だが具体的にどの家がボスの家で、ノエラさんがどの家に連れ込まれたのか。
適当に突入すると探してる間にノエラさんの身柄を移されてしまう。最悪、リヴァーディアの街から連れ出されたらもう探せなくなる。
「マーシャさん、ギースという男の情報は?」
「名前くらいしか……」
マーシャさんは襲われたショックとノエラさんが攫われたショックで酷く動揺してしまい、呆然としていた。
仕方ないのでふん縛った10人以上のチンピラを起こし、一人ずつ尋問していくが要領を得ない。
彼らはタダで長屋に住ませてもらっている代わりに、たまに言われた通りの仕事をするだけで、自分達の住んでいる長屋の場所くらいしか知らず、ミック達の事はほとんど何も知らなかった。
「参ったな。ノエラさんを探そうにも手がかりがない」
明らかに私の失態でノエラさんを攫われてしまった。こんなんで良くもまあ調子に乗れたもんだ。私は久々に落ち込んだ。
「ミラ、魔力探知は?」
ロナが小声で聞いて来る。
「ずっと見張ってたわけじゃないから――」
それでも一応、魔力探知を私ができる最大範囲で展開してみた。だが、今まさに急速に遠ざかっている、と言うような特徴的な反応でもない限り、たくさんの人間の魔力反応の中からノエラさんだけを特定するのは無理だった。
私はヨーコに注意を向けてみたが(探知不可)と告げられた。
万事休す、そう思った時、販売スペースの外から声をかけられた。
「――あの、オレたち多分、分かります、居場所――ギースさんの……」
ハッとして声の主を見ると、そこには微かに見覚えのある3人組の少年が立っていた。
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