48 販売2日目――準備中
この辺境地帯では、何処の街でもだいたい北街門付近に低所得者層の居住エリアがあり、あるいは貧民街が形成されていた。その理由は広大な巨木の森が街の北に広がっているからだ。
巨木の森に出入りするのは探索者か貧乏人か訳アリの人間だけで、探索者は腕利き以外は貧乏人が多く、大抵、北街門付近に住処がある。
そんなわけで北街門付近には貧乏人が集まっている。北街門を使うのはほぼ貧乏人という事で貧乏人専用門と揶揄されたりもする。
リヴァーディアの北街門付近にも低所得者が集まる一角があった。領主によって貧民街――いわゆる荒廃したスラム――は存在を認められていないので、一帯の各住居の所有者は明確で、少ないとはいえ税も徴収されているらしい。
そんな一帯の、長屋の様な集合住宅の一室で寝起きする3人の少年がいた。ダン、ロブ、エドという3人兄弟だ。と言っても血がつながっているかどうかは分からない。物心がついた時、既に3人だけで生きていたし、お互いの他に家族はいなかったからだ。
「――ったく、何であんな言い方しちゃうかな?あれじゃただの嫌な奴……よりなお悪いよ。恩知らずで身の程知らずの無能探索者と思われても仕方ないじゃないか」
「ホントだよ。危ないトコ助けてくれるとか、メチャクチャ強くて良い子じゃないか。両方揃ってる子なんて普通居ないよ?そんな子と仲良くなれるかもしれないチャンスだったのに」
「あーうるさいうるさい!仕方ないだろ!?テンパッちゃって頭真っ白だったんだ!それより早く準備しろって」
「だったらせめて最初から黙ってるか、さっさとお礼だけ言って黙ってるかすればよかったんだよ」
「止める間もなく恩人にケンカを売っちゃうとか何なの?実力も無いのにプライドだけ高いなんて最悪だよホント……」
3人の中で一番年上の少年、ダンはこの2~3日というもの、2人の弟たち――ロブとエドから何かというと森での事をチクチク責められていた。
「だいたい無理やり僕らまで探索者になれって言うし――」
「ダンが面倒をみるっていったくせに全然稼げないし――」
「僕らじゃ無理って言ってるのに無理やり森の奥の方に連れて行くし――」
「予想通りヤバイのに遭っちゃうし――」
「あげく、助けてくれた人に突っかかるって――」
弟たちの言う事は何一つ間違っていない。兄の威厳を振りかざしてキレてみても2対1では分が悪いし、最悪1人きりになってしまう。
「――だから、何度も謝ってるじゃないか!オレが悪かったよ!もういい加減――」
ダンがまたキレそうになった時、部屋の扉の方から別の声が割り込んだ。
「――何だ、お前らまだやってんのか?いい加減にしとけ。それより頭数が要る。お前らも来い」
声の主は兄弟たちにこの部屋を世話してくれたミックと言う男だった。
いつの間にか彼らの部屋の扉を開けて立っており、ノックする動きをしている。だが返事を待たずに開けたらノックの意味はない。
「ミックさん、勝手に入るなよ。それにオレたちは仕事があるから――」
「仕事っつってもお前ら殆ど稼げてないだろうが。本来ここに住むのにどれくらいかかるか知ってるか?――一緒に来て立ってるだけでいいからさっさと来い」
そう言われると、彼らには返す言葉が無かった。稼げていないのも事実だし、部屋代も払っていない。その代わりに、たまにこうやって意味不明な仕事?に駆り出される。
ミックの視線が厳しくなったので、仕方なく弟たちに合図するが、弟たちの視線もまた冷ややかだった。
……何だよ、全部オレが悪いのかよ!
そう言って何もかも放り出して逃げたいが、宿なしになってなおかつ1人で生きていく自信などダンには無かった。
☆
いざという時の為、彼らの様な手駒を飼っておくのは高くつくが、必要経費と思えば仕方が無かった。それに、何も知らない無能なガキだからこそ役に立つ事も多い。
ミックは主要メンバーを絞り、その他は捨て駒を飼う事で組織の規模が大きくならないよう、領主に目を付けられないように気を付けていた。
その上でギースをトップに据えておけばそうそう他の組織から手を出される事も無いし、揉めてもギースが何とかする。おかげでミックはナンバー2として組織を自由に動かせる。
そういう意味ではギースも捨て駒のガキ共も同じ必要経費だ。ただ、ギースは実力はあるが我儘で気分屋で考えなしなので時に大きな負担にもなる。
「――ったく出費ばかりでイヤになるぜ」
ボソリ呟くとミックは出撃の準備に向うのだった。
☆
販売2日目の朝。私とロナはいつも通り朝日と共に目を覚ました。宿屋のベッドから起き出すと、いつも通り服を脱いで全身と口と服を「洗浄」の魔法で洗浄する。
その後、ベッドに腰かけて朝食を食べる。ヨーコのカレーとレモンティだ。相変わらず文句なく美味い。
早いトコ、ノエラのカレーがこの味に追いついてくれたら「異空間収納」の魔法でカレーのストックを増やしていけるのだが。と言うかその為にはまず米か。いやカレースープだけでもストックする意味はあるのだが――。
考えながら食べているとカレーとレモンティはあっという間に消えていた。しまった。もっと味わうんだった――。
食べ終わると食器を「洗浄」の魔法で洗浄し、ついでに食後の口も再度洗浄する。
「んじゃ行こうか」
「おっけー。今日も売れるといいなー」
私はロナに合図すると、2人の背負い籠に寸胴鍋とカレー粉の小瓶、ブロック肉と食器を仕込み背負った。
昨日、販売を終えて帰る時、食器は一応、盗まれたらまずいので持って帰っていた。というか「洗浄」の魔法で洗浄したあと「異空間収納」の魔法に仕舞っていた。
ノエラさんと売り子さんに店を任せるまでは毎日持って帰って翌朝持って行く予定だ。
私達の販売スペース――お店に着くと既にノエラさんとマーシャさんが待っていた。テーブル代わりの箱は既に並べてあったが倉庫の鍵を渡していなかったので椅子が出せなかったようだ。
背負い籠を厨房スペースに置くと、ノエラさんにブロック肉を渡す。ノエラさんは一旦ブロック肉を自分の籠に仕舞うと、早速厨房スペースの拭き掃除を始めた。
それを見てロナは野菜を買いに、私は寸胴鍋を持って水を汲みに井戸へ向かう。水を汲んで「洗浄」魔法で洗浄、それを2往復したあと、とっくに厨房スペースの拭き掃除を終え、肉を切っているノエラさんと一緒にロナを待つ。
ロナが帰ってきてノエラさんに野菜を渡すと、ノエラさんはスープ作りに入った。
昨日は手伝ったが本来は手伝う必要はないので、店に並べた椅子に座って休憩する。暫くするとノエラさんの動きが静かになったので一通り仕込みが終わったと分かる。
あとは竈の火の管理と灰汁取りくらいだ。
その時、妙にざわつくので視線を向けると、店の前に大勢の人垣が出来ていた。昨日もカレーの匂いにつられて「クチコミ」のお客さんが大勢集まってきたが、まだ大分時間が早いし、どうもお客さんと言う雰囲気ではない。彼らからは店に対する好意も期待も感じなかった。
そしてその人垣の中から一人の男が前に出てきて言い放った。
「――おい、お前。この店の店主を呼べ」
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