46 販売初日――準備
翌朝、日の出と共に目を覚ました私とロナは、素早く服を脱ぐと「洗浄」の魔法で全身と口を洗浄し、ついでに服も洗浄した。
これも最近始めたことで、一度やり始めるとこの状態が快適過ぎてなかなか以前の状態には戻れない。あまり綺麗すぎると周りから浮きすぎて悪目立ちするのでは、と警戒して最初は2~3日に1回程度だったが、すぐに毎朝の習慣になってしまった。
街までは多少時間がかかるので、私とロナはすぐに街に向って走り始める。
ちなみに昨日、ロナと夜までかかって作った椅子10個は私の「異空間収納」の魔法に仕舞った。だが、いくら何でもロナの目の前で堂々と椅子を10個消してしまうのはさすがに不自然すぎて誤魔化せない。
という事で、丁度いいので「異空間収納」の魔法についてはロナにカミングアウトして同時に「少しの例外なく誰にも秘密にしてくれ」とお願いした。ロナは大して驚く事も無く黙って頷いた。やはり以前から察していたらしい。
まあいつも一緒に居れば、私の背負い籠が空っぽなのはイヤでも分かるだろうし、当然か。
私はロナに感謝しつつ、ちょっとホッとした。割と面倒だった「異空間収納」の魔法に関する誤魔化しを、これからは少なくともロナに対してはしなくて良くなった。そして他の人に対して誤魔化す時、ロナに協力してもらえるようになったのも非常に助かる。
私とロナは森の端まで戻って来ると一旦足を止め、周囲に他人の魔力反応が無いのを魔力探知で確認した。
その後、私が「異空間収納」の魔法から昨日作った10個の椅子を取り出し、5個ずつ重ね、それぞれが重ねた5個ずつ1塊の椅子を抱きかかえた。割と常時、身体強化しているので全然重くはないのだが、椅子は大人も座れる普通サイズで大きいので――というか私たちが小さいので非常に嵩張って歩きにくくなる。
面倒だが「異空間収納」の魔法をロナ以外の人に知らせる気は無いのでバレないためには仕方がない。
苦労して街の北街門に到着すると、門の兵士たちが目を丸くして驚いた。子供が大荷物で開門直後という朝早くに街の外から来たことに関して何か聞かれるかと思ったが、身分証を要求されただけで、他には特に何も聞かれなかった。
見ると門の兵士は昨日、私達が街を出た時の兵士と同じだったので、私は軽く会釈すると市場の私たちの販売スペースへと急いだ。
☆
ちなみにミラとロナが街門付近を去った後、驚きから立ち直った兵士たちは昨日、2人が街を出た時の様子なども含めて噂し合った。「アレ森で拾って来るのか?」「あんなもん落ちてないだろ」「じゃあ森に作りに行かされてる?」「そんな工房ねえよ」「じゃあなんで?」「そりゃ好きでやってるんだろ?」「やろうとしてやれるか?見習いに成るか成らねぇかってくらいの歳だぞ?」「――と言うか、あれはヤバイな」「ガキの貫禄じゃねぇ」「いずれ大物になりそうだ」「既に只者じゃねぇ――」という感じで、何故か門の兵士たちの一部から一目置かれ始めた事を、勿論、ミラ達は知る由も無かった。
☆
私たちの販売スペースに行くと、既に約束通りノエラさんが来て待っていた。心配なのかマーシャさんもいた。
「おはようございます」
「あ、おはようござ――って、えっ!?ええっ!?ど、どうしたんですかっ!?」
「ッ!?」
私が挨拶をすると、ノエラさんが挨拶を返し切る前に急に慌て始めた。恐らく私がロナの分の椅子も持っているからだろう。マーシャさんも静かに驚いていた。
ロナとは市場の手前で別れて食材の買い物に行ってもらった。私の「異空間収納」の魔法の中にある食材を、背負い籠の中から出している態で出して使っても良いのだが、それも毎日だと何処で仕入れているのか、と疑われた時、ちょっと困る。
仕方がないので今日のところはロナに適当に買い集めてもらう事にして、椅子は私が引き受けたのだ。来る途中も市場の色んな人にびっくりされた。
「お店で使おうと思って作ってきました」
私が5つずつ重ねたイスの塊を2つ、床に降ろしながらそう言うと、ノエラさんもマーシャさんもまた目を丸くした。
「こ、これミラさん達が作ったんですか……すごいですね」
「無骨だけど、ちゃんと椅子だわね。がたつきも無いし、立派なものだわ」
マーシャさんが一つ取って床に置き、座って試している。
「まあ、素人の工作ですけど一応頑丈にと思って作りました。食事の間、座るくらい大丈夫と思いますよ」
そう言いつつ、販売スペースの真ん中を見ると、お願いしていた箱がテーブルのように一列に並んでいた。
私は箱の向こう側に5つ、手前側に5つ椅子を並べてみた。それだけで販売スペースはいっぱいになった。
「……2列のほうがいいですかね?」
「んー、これで良いんじゃないでしょうか?」
マーシャさんと相談して、とりあえずこのまま1列の形で良いということにした。
そうこうしている間に、ロナが背負い籠一杯の野菜を買って戻ってきた。それどころか手にも山盛り抱えていた。それを厨房に入れるロナとノエラさんを見ながら、私も背負い籠から寸胴鍋を取り出す。昨日持って来た寸胴鍋はロナの背負い籠の野菜の下に入っているのでこれで2つ目だ。
私の寸胴鍋の中には別の日に狩って処理してあった魔物のブロック肉とカレー粉の小瓶を2本、「異空間収納」の魔法から取り出して入れておいた。カレー粉の小瓶は昨日、試食即売会で作った時に確かめた通り小瓶1本で寸胴鍋1つ分の量だ。ざっと見て、今日は寸胴鍋2つで80人分ほど作れる計算だ。
もっとたくさん作ればそれだけ儲かるかもしれないが、竈が2連式で掛け口が2つなので寸胴鍋2つで限界だった。
ともあれ、これで準備は整った。あとはノエラさんが作るのを必要なら手伝って、昼から売り子だ。カレー粉は4~5日分あるので、無くなるまで毎日売って、無くなったらノエラさんを1日休日にして、私とロナは森に採りに行く感じか。売り子を雇えるようになるまではそんな感じでいくしかない。
ともかく手伝いを申し出る。するとすぐにノエラさんが遠慮し始めたのでそれを制止する。
ノエラさんはまず野菜を洗うつもりだと言うので、寸胴鍋を持って市場の共用井戸に水を汲み行く。井戸に到着して早速水をくみ上げてみると正直、あまり綺麗とは思えない。
私はもともと――というか今も最底辺の孤児で、そんなに綺麗好きじゃなかったのだが、ヨーコの魔法のおかげで今ではすっかり綺麗好きになってしまった。
さらについ先日、カレーを自作したとき「湧水」の魔法で出した水を見ているので井戸水の透明度が気になってしまったのだ。
あまり綺麗じゃなさそうだが、ここで私が「湧水」の魔法を使って水を出すわけにもいかない。料理人のノエラさんが水の質が変わって気づかないわけがないからだ。
仕方がないので井戸水を汲んで私たちの販売スペースに戻り野菜を洗う手伝いをする。みんなで野菜を洗って籠に移したあと、こっそり籠の野菜を「洗浄」の魔法で洗浄した。
綺麗になった野菜がノエラさんの包丁でどんどん刻まれていく。刻み終えるとノエラさんがスープ用に沸かす水を汲みに行くというので私とロナがもう一度汲みに行った。
「あー、やっぱ昨日のカレーに使ったスープの水も井戸水だったのか」
「だろうね。だめなん?」
「いや、ちょっとなんか、濁ってない?」
「そっかー?」
ロナはあまり気にならないようだ。沸騰させたら大丈夫だろうか?くみ上げた井戸水を運びつつ悩んでいるとヨーコの声がした。
(気になるなら洗浄すればいいわ)
なるほど、水は何かを洗う側だと思っていたが、その水が綺麗じゃないなら水自体も洗われるべきだ。
と言うか、以前ヨーコが「井戸水はやめとけ」と言っていたはずだが、ここの井戸は平気なんだろうか?その辺、ちょっと気にはなったがともかく私は寸胴鍋2杯分の水を「洗浄」の魔法で洗浄した。
これで綺麗になった筈だが、濁っているように見えるのは変わらなかった。
その後は湯を沸かし、ノエラさんが下ごしらえした材料を入れて煮る間、灰汁取りの手伝いをして過ごした。
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