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45 市場

 森にはついて行けないが、市場には同行するというのでノエラさんを伴って市場に借りたスペースの見学に行った。案内してくれたのはマーシャさんだ。

 

 市場には雨避けの天幕が張られていたが、市場の端っこの色々斜めってる変な形のスペースの上には天幕が及んでいなかった。

 

 そして隣のスペースに店を出している商人が予備の空き地代わりにゴミや荷物を置いていたりもした。それを見たマーシャさんが隣のスペースへ赴き、空き地として利用していた期間の使用料の話をチラつかせたらそれらのゴミや荷物は直ちに撤去された。

 

 そうして更地になって見ると、形は歪で狭く、天幕もない市場のメインの動線とは離れている販売スペースだと改めてハッキリと分かった。借地料が安かったのも納得だった。

 

 ただ、良く見ると更地でもなかった。前の借主が設置したのか、歪な形の販売スペースの端っこの方に狭い厨房スペースと小さい2連式の竈と物置小屋があり、それがさらにこの場所を狭くしていた。

 

 そうしてみると確かに狭いが、安くて目的に合った設備も揃った良い物件かもしれない。私たちは冬の間の宿泊費、生活費を稼ぎたいだけなのでこれで十分だ。

 

 あとは明日からの営業の為に、適当にテーブルとイスを買って設置しようと思っていたが、もうテーブルは箱で代用すればいいかもしれない。椅子は何とか森で自作しよう。

 

 手前側の空いたスペースにテーブル代わりに箱を置いたらさらに狭くなる。せいぜい椅子は10人分ほどしか置けないだろう。それくらいなら何とか作れる気がする。

 

 マーシャさんに話すと箱くらいならすぐに手配してくれるという。ノエラさんの事もあってか、ありえないほど良くしてもらっている気がする。それだけノエラさんが心配なのだろう。

 

 そんな視察のあと、食材も私たちが明日の朝までに用意するのでノエラさんは朝から調理、昼から販売、売り切れ次第終了ということに決まった。

 

 箱の調達だけマーシャさんにお願いして、私とロナは森へ行くため北街門へ向かって小走りに走り始めた。

 

 

 ☆

 

 

 走り去るミラとロナの後ろ姿をノエラと並んで見送りながら、マーシャは顎に指を当て考え始めた。マーシャもなかなかの美人さんなので、そういう仕草をすると非常に絵になる。ちょうど通りがかった商人や市場の客たちがチラチラとマーシャを見ながら通り過ぎていく。

 

 そうとは知らず、マーシャが考えていたのはミラとロナの事――査定だ。まあ、査定といってもギルドの査定ではない。マーシャの査定だった。

 

 確かに年齢の割にしっかりしている――しすぎているかもしれないくらいだ。だが、だからと言って無条件で安心してノエラを任せるわけにはいかなかった。

 

 ノエラが表に出て働けばいずれ必ず例の連中の耳目に触れる。付きまとって邪魔をするようになるだろう。嫌がらせ程度ならまだしも、深刻な事態になる事も十分考えられる。

 

 マーシャはノエラの親でも何でもないが、既に懐に匿って情が移り過ぎている。もしミラとロナが例の連中にきちんと対処できないようなら、ノエラは彼女達の商売からすぐに手を引かせるつもりだった。

 

 ……それにしても――

  

 マーシャはついさっき試食した「カレー」というスープを思い出した。

 平民としてはそこそこ安定した立場、高収入のマーシャもあれ程美味しいスープは今まで一度も食べたことが無い。

 

 たっぷりとした肉と野菜の味わい、何とも言えない香ばしい香りと複雑で刺激的な味わい――思い出すうち、思わず涎が出そうになり、マーシャは慌てて口を押えた。

 

 ……1日にどれくらい売るつもりか分からないけど、作れば作っただけ売れるのは間違いないわ

 

 マーシャは既にそう確信していた。そして「帰り際にパンを買う事」と自分に言い聞かせた。先ほど急に始まった試食即売会で、マーシャも夜に食べる分を買ってある。ノエラの分も合わせて2人分だ。

 

 そしてミラが言っていた米を何とか入手できないかと考える。マーシャ程度のコネでは難しいが、ミラの商売が話題になれば取引も可能になるのではないだろうか。

 

 ミラがカレーに一番合うと言うのだ。ぜひとも食べてみたい。

 

 ……ともかくまずは商売を軌道に乗せないとね

 

 勿論それはマーシャの仕事ではないが。ぜひ、一刻も早く、ノエラの心配をしないで思う存分カレーを堪能出来るようになってもらいたい。

 

 マーシャはテーブル代わりにするという、適当な箱を用意するため、ノエラを連れて商人ギルド会館へ戻って行った。

 

 

 ☆

 

 

 小走りで北街門まで辿り着いた私とロナは商人ギルドの会員証を見せて街を出ると、一気にスピードを上げて巨木の森へ走り出した。私達の後ろで門の兵士が目を丸くしていた事には気づかなかった。

 

 森に入るとすぐにカレーの材料を採取し始めるが、暫くの間、ロナはただ私について来るだけの存在になる。

 

 と言うのは、ロナは街からここまで9割方全力疾走だったのに対し、私はせいぜい1~2割の力で走っていたので疲労度が段違いなのだ。それ程に差が出る理由は「慣性力」の魔法だ。

 

 あのロナを攫った魔法使いから奪った魔法石の魔法で、例えば走る際、走り始めは変わらず体力を消耗するが、望みの速度に達した時点で力を抜き、あとは流す感じで走っても、速度が落ちないという超便利魔法だ。

 

 今のところ私にはその使い方しかないが、仕組みや理屈を理解して使えば、非常に便利で強力な魔法だ――とヨーコがそう言っていた。

 

「ハァ……ハァ……ゲハッ!ゲハッ!……ゼェ……ハァ……」 

 

 ロナの苦し気な呼吸音を聞きながら、どんどん材料の薬草を採取していく。探索者ギルドで買い取らない薬効の低い薬草なので貧乏人以外採取しない。おかげで山ほど生えている。

 

 この材料でもカレーらしく作れると分かり、ギルド職員の――つまり街の人の評価も上々だった。毎日採取しなくても良いようにたくさん採っておく。勿論採りすぎ注意だが、山ほど生えているので現状、採りつくす心配はあまりする必要は無い気はする。

 

 いずれは今採っている薬草以外にも材料として研究してみたいが、今はともかく教わった薬草を採る。

 

 ある程度、量が採れると今度は種類ごとに「乾燥」の魔法で乾燥させていく。ロナが回復したので乾燥させた薬草を種類ごとにすり鉢とすりこ木で粉にしてもらう。粉にした薬草は種類ごとにビンに入れていく。

 

 全ての薬草の処理を終えると、ヨーコに教わった比率で薬草の粉を混ぜてカレー粉の完成だ。この比率も研究してみたいが、今は少しの材料も無駄に出来ないので無理だ。

 

 カレー粉をたっぷり作ってビンに入れ「異空間収納」の魔法に仕舞うと、今度は椅子作りだ。

 

 わざわざ木を切り倒さなくとも適当な倒木がそこかしこに有るので、腐って無さそうな部分を「乾燥」の魔法でしっかり乾燥させてから切り出し、穴を4つ空け、枝を削っただけの棒を突っ込んで出来上がりだ。背もたれも無いシンプルな椅子だがこれで十分だと思う。

 

 ちなみに椅子の作り方――というか簡単な木工細工の方法を教えてくれたのも、その為の道具を前もって買うように指示していたのも、もちろんヨーコだ。おかげで私の「異空間収納」の魔法の中には何に使うか分からない道具がアレコレ入っていて、木工用の工具もあった。

 

 ロナと協力して1個完成させた後、それぞれ別に作業して私が5個ロナが4個作って終了だ。

 

 最初の内は座る部分の板をノコギリで真っすぐ平らに切り出したり、その板に椅子の足を繋ぐための穴を、ノミで刳り貫いて開ける作業にかなり手間取ったが、徐々に慣れて手早く出来るようになった。

 

 とは言え、椅子が10個出来るころにはすっかり夜になっていた。

 

 今日は朝ご飯と昼ご飯が兼用で、昼前にノエラさんのスープで作ったカレーを食べたが、当然夜もカレーを食べる。

 

 そしてもちろん夜はヨーコのカレーだ。ノエラさんには悪いがやはり1段格上の出来。しかもご飯つきの「カレーライス」なので現状、私とロナにとって一番のご馳走だった。

 

「――モグモグ……美味ぇ!……モグモグ」  


「――ハグハグ……美味いね……ングング」 


「モグモグ……あれか?市場でミラが……モグモグ……マーシャさんに聞いてた米って……モグモグ……カレーライスのライス?……モグモグ」 


「ングング……そう……ハグハグ……当分『自作カレーライス』は無理っぽい……ングング」


 私は思わず情けない顔になり、ロナにも移った。

 

 ヨーコのカレーは一度に一杯ずつと最初に決めたのでお替りした事はないが、自作のカレーにライスがあればいくらでもお替りできるのだ。

 

 ロナの目が、絶対米を手に入れると強く主張しているような気がした。私も賛成なのでぜひ何とかしたい。


 カレーを食べ終えると、食器を「洗浄」の魔法で洗浄して「異空間収納」の魔法に仕舞う。そして自分とロナの口を「洗浄」の魔法で洗浄する。

 

 ロナは「洗浄」の魔法が使えないので私がやってあげるしかないが、これがお姉さんぽくて秘かに気に入っている。ロナも食後の口が綺麗になってすっきりするので抵抗せず、大人しく口を開けた。私もロナももはや「洗浄」しないのは有りえなくなっていた。

 

 そういう寝る前の行事が終わると、ヨーコに警戒と虫除けを頼んで、即就寝。最初は焚火が明るくて寝づらかったが暫く森暮らしをしたせいでもう慣れた。ただ、やっぱりもう既にちょっと寒い。じきに寒くて夜営も出来なくなるだろう。

 

 それに、冬が来てもっと寒くなったら薬草は採れるのか?採れないとしたら、冬になる前にたくさん採っておかなくてはいけないし、冬に採れる代わりの材料があるのかどうかもヨーコに聞かなくては――。

 

 そう考えながら、私はいつの間にか眠っていた。



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