44 臨時即売会
ノエラさんのスープをベースにしたカレーが完成し、味見してみたところ、私達が森で自作したカレーとは雲泥の差で美味だった。
正直ここまで美味しくなくても、私とロナが作った程度でも十分売れると思っていたが、これは間違いなく売れると確信できる味に仕上がっていた。
ただ、それでもヨーコのカレーに比べれば多少は見劣りしてしまうが、それは単に経験の差だろう。ノエラさんがカレー粉に合うようにベースのスープを研究して味を向上させてくれればいずれヨーコのカレーに並ぶ日も来る、そう思える出来栄えだった。
「良いですね、これなら良く売れそうです」
「間違いないよ。かなり美味いもん♪」
「い、いやミラさん、待ってください、これ1杯いくらで売るつもりです?」
私とロナがノエラさんのカレーの出来に満足していると、マーシャさんが何やら慌てた様子で口を開いた。
「まだ決めてないです。今から市場のスペースを見に行くつもりなので、周りのお店を参考にしようかと――」
「それだと、あっという間に売り切れるとおもいますよ。それにお客が来過ぎて大混乱が起こるかもしれません」
「イヤ、いくらノエラさんが綺麗でも見慣れない食べ物ですよ?いきなりそんなに売れないんじゃ……?」
マーシャさんが大げさなほど深刻な顔をする。いくら綺麗なノエラさん目当てにお客が来ても、売っているのが見知らぬ「カレー」と言う料理ではいきなりそこまで売れるとは思えない。
それともこの街ではカレーが初見ではないのだろうか?だとしても大混乱は考えすぎでは?馴染みのある食べ物だとすればこの街の人にとっては珍しくないという事だから、そこまで過激な反応にはならないのでは。
私はそう言ったがマーシャさんは納得しなかった。
「ではちょっと試してみましょう」
マーシャさんはそう言うと、私達を遠巻きに見ていたギルド職員たちを手招きした。いつの間にこんなに集まっていたのか、20人ほどのギルド職員さんが近寄ってきた。
ギルド職員たちが集まるとマーシャさんは「特別に開発中のスープを試食させてやる代わりに各自、適正だと思う代金を払う事」と告げた。ギルド職員さんたちの「おーっ♪」という歓声があがる。
そんな事をすると皆、小銅貨1~2枚しか出さないんじゃないのか?と思ったが、とりあえず私は黙って見守ることにした。マーシャさんがそう言うなら本当に混乱が起きるかもしれないし。
私が頷くと、ノエラさんとマーシャさんがカレースープを1杯ずつ、職員さんに配り始めた。お皿は私が出すのは流石に枚数的に不自然だし、人目があるので誤魔化せないから無理だった。
幸い、マーシャさんが言い出した試みだという事で食器はギルド会館の物を使わせてもらう。
少しずつカレーがいきわたり始めると、あちこちから歓声が上がり始めた。
「美味いっ!」「美味しすぎ!」
「これは凄い!」「こんなの今まで食べた事がない!」
漏れ聞こえる声は、概ね賛辞か絶賛か大絶賛しかなかった。
そして早くも食べ終えた人が空になった食器を持って来た。マーシャさんが食器を受け取りながら質問する。
「あなたはいくら支払いますか?」
「う~ん、そうだな。いつも食ってるどこの昼飯より確実に美味いから加点、珍しいし稀少だろうから加点、店主が彼女なら見目麗しいから加点……」
30歳前後に見えるおじさんが指を折って評価点を挙げていく。
「確実にこれくらいの価値はあるんじゃないか?」
おじさんはそう言うとマーシャさんに小銀貨2枚を渡した。
(凄いわね。わたしが生きてた時代からすると2倍近い評価ねぇ)
ヨーコが感想を漏らす。あのおじさんは相当高く買ってくれたらしい。
「――いや、しかし市場で売るなら客層は知れているだろう?せいぜいこれくらいじゃないか?」
そう言って、もう少し年上のおじさんが小銀貨1枚を出す。
それから食べ終えた人達が次々と自らが評価する価格分の支払いを済ませて行った。最安値を付けた人が銅貨8枚、最高値を付けた人が小銀貨2枚と銅貨5枚だった。全員の平均はおよそ小銀貨1枚と銅貨4枚~5枚。
ギルド職員さんたちの反応を見るに、皆、かなり高く評価してくれたはず。とすると普段は多分小銀貨1枚ほどのお昼ご飯を食べているのだろう。私たちの10倍近い値段だ。やはりギルド職員は良いもの食ってるらしい。
ふと寸胴鍋を見ると半分近く減っている。軽くなって持ち運びやすそうにはなっているが――。
私は思いつきで「ちなみにパンにつけて食べても美味しいですよ」と皆に声をかけた。
「な、何ぃ!?」
「じゃあ、何故パンを用意していないんだ!?」
「もう食べ終わってしまったのに……」
「残っているなら、もう1杯売ってくれないか?」
「私もお願い!」
「オレも頼む!」
途端にギルド職員さん達から悲鳴があがった。続いて、次々とカレーのお替りを求める声が上がった。
結局、マーシャさんと軽く相談して1杯あたり小銀貨1枚と銅貨5枚で残りを完売した。腐らせないため今日中に食べる事、という条件つきで売ったが特に異論は出なかった。
まあ、数日後に食べてお腹を壊してもマーシャさんを通しているので大丈夫だろう。けど、市場で売り始めたら持ち帰りは無しにした方が良いかもしれない。
そんなこんなで想定外の即売会が解散して、私達の手元には空っぽの寸胴鍋と小銀貨40枚、銅貨200枚ほどが残った。かかった費用は私が自分の逃亡生活用に買い溜めてあった野菜代くらいなので――新鮮だがクズ野菜なので――銅貨200枚で十分足りる。ざっくり計算だがいきなり小銀貨40枚は儲かった事になる。
「――マーシャさん、料理人を1日雇うのにどのくらいが適当ですか?」
「え、そうですね、勿論、人に寄りますが平民のお店なら小銀貨5枚から。貴族のお抱えであれば銀貨2~3枚からというところでしょうか?」
「じゃあ、今日は半日弱ということで小銀貨3枚でいいですかね?」
「それは、十分だと思います」
「ではそれで。ノエラさんどうぞ」
私は儲けの中から小銀貨を3枚取ってノエラに手渡した。
「えっ……あ、あの!?」
「予定変更します。今日はここまでで解散で。明日も朝からお願いします。ギルド会館で待ち合わせましょう」
私はそう言って解散しようとしたが、意外にもノエラさんが食い下がってきた。
「で、でもミラさんたちはまだ働くのでは?だ、だったら私もお供します!大して働いてないのにこんなに貰えません」
「ミラ、まだどっか行くの?」
「うん、まあ、私達の売り場に行ってから森に行こうかと」
「えっ!?も、森ですか?」
「うん、だからノエラさんは今日は帰って休んでください」
森に行くと言われれば、流石にノエラさんもついて来るとは言わなかった。今日はまた森で野営する予定なのでついて来ると言われなくて助かった。
「あ、そう言えば、マーシャさん」
「はい?」
「この街――リヴァーディアですか?――ここでお米って買えますか?」
「お米ですか、よくご存じですね?――残念ながら大きな商会とコネが無いと難しいと思います」
「理由を聞いても?」
「ええ、もちろん。米の栽培は管理が大変なので、巨木の森から離れた内陸部の穀倉地――魔物の被害が少ない土地で作られているのでこの辺りの街では品薄で貴重なんです。その上、輸送も大変なのでこの街に入って来るお米はほぼ貴族か貴族向けのお店に卸されるものだけなのです」
「なるほど、すぐには無理ってことですね」
私が納得してそう結論づけると、気になったのかマーシャさんの方から質問してきた。
マーシャさんを見ると何やらワクワクと期待感に満ちた顔をしている。意外に食いしん坊らしい。
「カレーとは別の料理も作るんですか?」
「いや、米はカレーと一番合うんです」
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