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42 人材

 その人材――料理人は腕はそこそこで歳は若く、住む場所や生活に困ってその組織に住む場所を世話してもらっていたが、良くない仕事をさせられそうになり、世話された住居を出た。

 

 その後、「料理」という自分に出来る唯一の技術で生計を立てようと商人ギルドに登録し、ギルドが働き先を斡旋したが、その働き先にチンピラが現われて店に迷惑をかけるようになりクビになった。

 

 同じような事が数回続き、ギルドとしてもそれ以上、紹介しづらくなり、本人も斡旋を頼むことを諦めてしまったという。

 

 なるほど、面倒な人材だがある意味好都合だ。そういう事情ならこちらも訳アリでもそれほど気にしないに違いない。

 

「――なるほど、可能ならその人を雇いたいと思います。とりあえず、会って話をしてみたいです」 

 

「いや、あの、聞いてました?彼女を雇うと――」


 おっと、人材の人は女の人だったらしい。少し面倒が増えるかもしれない。だけどまあ、結局、そうは変わらないだろう。


「はい、まあ、程度によるとは思いますけど、私達、戦えるので問題ないと思います」 

 

「いえ、その辺の子供のケンカと同じというわけには――」 

 

「はい。無理なら諦めますよ。すぐに邪魔が入るんですよね?そしたらすぐ結果がでますから」 

 

 職員のお姉さんはいよいよ目を見開いて黙ってしまった。話の通じない、気持ちの悪いガキ、というところか。まあ、そう思われても仕方ない。

 

 実際に揉めてしまってから、やっぱり無かった事にします、と言って許してくれるような相手ではないからだ。

 

 ただ私にも、街のチンピラ集団程度に尻尾を巻くという選択肢はないのだ。

 

「それで、いつ会えますか?」 

 

 再度尋ねると、職員のお姉さんは明日、この会議室で会えるよう手配してくれると言うので、私達は礼を言って商人ギルド会館を後にした。

 

 その足で森まで走り、カレーの素材となる薬草を採取して適当な小さい魔物を狩り、最低限の処理をして肉にすると、また走って街まで戻った。着いたのは夕方で閉門ギリギリの時間だった。


 なかなかの強行軍で疲労困憊した私とロナは宿の部屋に入ってすぐに眠りたかったが、眠い目をこすりつつ採ってきた素材を乾燥させて粉にして個別に瓶に入れる作業に精を出した。何とか全て終わって最後にブレンドしてカレー粉にするとそれも瓶に仕舞って蓋をした。そこまですると私もロナもすぐに泥のように眠った。


 ☆


 そして翌朝。用意したカレー粉と肉を背負い籠に入れた――ことにして――籠を背負い、さらに3日ほど宿の部屋を延長して宿をでると、商人ギルド会館へむかう。手持ちの金が殆ど無くなったので、「人材」の人との面談のついでに「熊」の魔石を売って金に換えたい。


 私とロナが商人ギルド会館に到着すると、職員のお姉さんが私達を見つけて会釈した。私からも会釈を返してお姉さんに近づくと、そのまま会議室に案内された。


 職員のお姉さんは私達を案内すると、一度会議室を出た。暫くしてまた戻ってきた時にはコップをのせたお盆を持ち、背後に凄い綺麗な女の人を従えていた。彼女が件の「人材」さんのようだ。

 燃えるような赤の髪は背中に届くほど長く、先が少しカールしている。そして同じく濃い赤の瞳に白い肌、物凄く整った顔立ちの、少し年上のお姉さんだった。

 

 職員のお姉さんは「人材」さんに座るよう促し、コップを全員に配ってくれてから自分も椅子に座った。

 

 興味を惹かれ、コップの中身に口をつけてみると、レモンティーの酸味と甘味抜きと言う感じで、味の系統はレモンティーと似ていた。メチャクチャ美味しいわけではないが、悪くはない。


「――改めまして、リヴァーディア商人ギルド職員のマーシャと申します。よろしくお願いし致します」


 私がコップの中身を味わっていると、お姉さんはそう切り出した。そう言えば、名前は聞いていなかった。私の悪い癖と言うか、あまり人の名前に興味が無いので、何となくの印象で覚えていたりする。当然、印象が無ければ覚えてすらいない。改善したいとは思っているのだが――。

 

 ちなみに初めて聞いたがリヴァーディアというのはこの街の名前でありこの街の領主家の家名でもあるという。街の名前は大抵、この街のように領主家の家名であったり街の開祖の名前であったりするらしい。


「心苦しいのですが、昨日もお話した通り、当ギルドからはご紹介出来ないのです。ですので私個人からの紹介という事になります。問題が起きても当ギルドからの補償等は受けられませんが、よろしいですか?」


 申し訳なさそうな顔で職員のお姉さん――マーシャさんはそう言ったが、私としては何も問題ない。むしろ何もかも全てギルド抜きでやりたいくらいなのだが、勝手に商売をしたら街にいられなくなるのでギルドを通しているだけなのだ。

 

 という事で、当然、私は頷いて見せた。


「――そうですか。ではご紹介します。彼女はノエラ、事情があって、今は私が匿っています」


 ノエラと呼ばれた女の人は私達に向ってペコリと頭を下げた。年齢は15歳前後だろうか。私やロナよりはハッキリ年上でマーシャさんよりは年下という感じだ。


「ノエラです。はじめまして、よろしくおねがいします」


「こちらこそ、よろしくおねがいします」


 不安そうな表情のノエラさんのと挨拶を終えると、早速マーシャさんからノエラさんに関する事情を聞く。


 マーシャさんの話を要約すれば、ノエラさんも私やロナと同じ様にいつの間にか孤児だったらしい。孤児院で暮らすうち、幸か不幸か炊事の技術が身についたが、幸か不幸か他の子供より見目麗しかったせいで売られそうになり、逃げだした。

 

 すぐに路頭に迷いかけたが住むところと仕事を貰えると言う話に飛びついて、またしても客を取らされそうになり、何とか逃げだした。

 

 そこで隠し持っていた全財産で商人ギルドに登録し、何とか炊事の技術を活かせる仕事に就こうとした。容姿も良いので一時は仕事を得ることが出来たが、昨日もマーシャさんから聞いた通りの邪魔が入り、すぐに仕事を失った。

 

 それが何度か続いて、行き詰ったノエラさんを見かねたマーシャさんが匿って、今に至るという事らしい。

 

 居場所がバレていないはずはないと思うが、商人ギルドというバックボーンがあるマーシャさんに匿われているおかげか、今のところノエラさんに対する動きは見られないらしい。ただ、その平穏もいつまで続くか分からない。


 ……正直なところ、こちらから攻め込んで一気に皆殺しにしてしまえば話は早いのだが――出来るかどうかはともかく――たとえ出来たとしても――さすがに無理か。

 

 そんな事をしたら逆に私が危険人物として居場所を失ってしまう。いずれ私が最強になればそういう選択をした場合でも、最強だから大丈夫なのだが、今はまだ最強には程遠いからダメだ。


 ……ともかく、妄想は妄想としてだ――。


「売り子はまた別に雇いたいと思ってるんで、ノエラさんには調理全般をお願いしたいんです。やってもらえます?」


「あ、あの、えっと……」


 私がノエラさんを見ると、何やら焦って言葉を詰まらせている。何だろう?ああ、先に報酬とか条件を聞かないと判断できない、ってことだろうか?

 

 であれば、言いたくはないが言うしかないだろう。あとで揉めても困る。


「あ、私達も今、お金が無いのでとりあえず報酬は成功報酬にしてもらいたいんです。1食売れるごとにいくらとか、そういう感じで。実際の支払いは1日ごとでも数日ごとでも大丈夫です」


「あ、あの、いえ、そうではなく……」


 ノエラさんはまだ何か、言いにくそうにモジモジしている。やはり先払いで欲しかったのだろうか。そう言えば私も「熊」の魔石を売りたいんだった。あれを売れば先払いできるだろうか?マーシャさんの紹介なので先払いしても持ち逃げされたりはしないだろうし――。


「どうしても先払いが良ければ金額は相談させてください。魔石を売ればなんとかなるとおもうんですが」


「あの、いえ、あの……」


 ノエラさんは何やら呟きながら俯いてしまった。何かかみ合っていない気がする。


「――ノエラさん?」


 その時、マーシャさんが見かねた様子で口を開いた。

 

「ミラさん、おそらくノエラが言いたいのは、自分を雇えば例の集団に目を付けられるので、あなた達が危険になる、という事でしょう」


「え、そんな事なんですか?ノエラさん」


「ええ……あの……そう、です……」


 何と。今さっき、私と同じような孤児院出身で私と同じく孤児院を脱走したというノエラさんの経歴を聞いたはずだが――そんな弱気な性格で良く今まで無事だったな、この人。イヤ、無事じゃないから行き詰ってるのか。



読んでくれて、ありがとうございました♪

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