41 商人ギルド
色々あって森で夜営した翌朝。「熊」と言う魔物に追われる少年達に遭遇した以降は特に何もないまま眠り、何もないまま夜が明けた。
朝食には私が「異空間収納」の魔法から、昨日、自分達で作ったカレーと廉価パンを取り出した。
大して量を作らなかったが何とか2人分あったのでお皿に分けるとロナも私もすぐに完食した。
改めてしっかり味わうと、美味しいのは美味しいがやっぱりヨーコのカレーに比べるとかなり味は落ちると感じた。食べてる時、少しロナの方を見て観察するとロナは美味しそうにバクバク食べていた。これはロナがまだカレー自体を食べなれていないせいで表れた差かもしれない。
という事は、街の人に売った時、自作のカレーでも十分売り物として喜ばれるのではないだろうか。計画通り料理人を雇ってベースのスープを作ってもらえばなおさらだ。
2人とも食べ終えたので私は「洗浄」の魔法で食器を洗浄してさっさと「異空間収納」の魔法に仕舞った。
「――よし、じゃあ街に行こうか」
「おっけー」
私達は今日の訓練(狩り)をお休みすると街に向って森の中を真っすぐ歩いた。森の浅層――その外縁部で夜営していたのですぐに森を抜け、草原と穀倉地帯を抜けて朝のうちに街の街門に到着した。
初めて来た時は森の端から街まで随分と距離があると思ったが、知った上で歩くと大した距離でもないという感覚に変わっていた。
街門で門を護る兵士に、昨日手に入れたばかりの商人ギルドの会員証を見せて門をくぐると宿には戻らずに商人ギルド会館をめざした。
宿は昨日の時点で2日分、つまり今日まで更新してあるので今日はまだ大丈夫なはずだ。昨日の分の宿賃は無駄になってしまったが、考えてみれば一冬泊るつもりなのだ。そんな日もあるだろうし、気にしても仕方がない。
そんな事を考えつつ、私は足を動かし続けて商人ギルド会館に到着した。勿論ロナもついて来ている。
「――そんじゃ、入るよ。何か気づいたら言って」
「了解」
私はロナに一声かけるとギルド会館の中へ足を踏み入れた。昨日登録したばかりなので受付の場所は分かっている。ついでに昨日と同じ職員さんはいないかと探してみる。
視線を少し彷徨わせると、濃いブルーグレーのショートカットで紫の瞳の、ビシッとした雰囲気の女の人がいた。昨日ギルド入会手続きをしてくれた職員さんだ。
私とロナが彼女の前に歩み出ると、彼女と目が合った。
「あら、昨日のお嬢さんたち。今日はどういったご用ですか?」
職員さんはニッコリ笑って丁寧なあいさつをくれた。だが「お嬢さん」か――。これは逆に舐められてる感じだろうか?それとも単に小さい子供に対する普通の対応だろうか?
確かに私とロナは世間的には子供だろう。ただ、働き始める子も普通にいる。まあでもそういう子達も見習いだろうから、この対応は普通――かやっぱり丁寧なのかもしれない。「お嬢ちゃん」と言われないだけましか。
まあ、いちいち引っかかっていても仕方がないか。はっきり悪意を感じたらそれから対処したらいい。
自分がちょっと過敏に反応してしまった気がしたのでその印象をひとまず振り払った。
「えっと、人を雇いたいので紹介してもらいたいです。あと近々、食事を提供する商売を始めたいのでその場所と許可を取りたいです」
「あら、もうお店をお出しになるんですか?」
職員のお姉さんが目を丸くした。もちろん、「その歳で?」ということだろう。それか懐具合を心配してるのかもしれない。さらに言えば「貧民の子供のくせに」という意味もあるのかもしれないが――いや、そこは考えないと決めたんだった。
「――お金がないので、最初は屋台か晴れの日だけの露店販売になると思います」
「なるほど、しかし残念ですが当ギルドでの取引の実績が無い方にはご紹介出来ないのです。ギルドの信用に関わりますので――一応、お聞きしますが雇いたいのはどういった職種の者でしょうか?」
少し驚いた後、お姉さんはまたビシッっとした雰囲気に戻った。
「料理人と接客が出来る人を1人ずつ雇いたいです」
「――料理はお嬢さんが作るのではないのですか?」
お姉さんはまた少し驚いた様子でそう聞いて来た。
「私達は以前は探索者をやっていたので、食材調達を担当するつもりです」
そう言うと、お姉さんがまた少し固まってしまった。まあ、言いたい事は何となくわかる。今まさに子供のくせに「以前」「やってた」って――以前は何歳で今は何歳だよ?という感じだろうか?
「そ、そうですか。――先ほど言った通り、普通は実績が無いとご紹介は難しいですね……」
そんなお姉さんの少し歯切れの悪い言葉に感じるものがあった私はもう少しお願いしてみる事にした。
「普通は、ということは例外的なものはあるということですか?」
私がお姉さんの目を見ると、お姉さんは少し迷ってから口を開いた。
「――まあ、そうですね。当ギルドからご紹介はできないのですが、少々訳アリの人材の情報ならご提供出来ない事もありません。ただ、何かあってもギルドは責任を負いかねますし、お勧めは致しません」
「どんな訳があるのか聞きたいです」
私は即答した。訳アリの「訳」次第ではあるが、訳アリというなら私達も十分訳アリなのだ。
「そうですね……ではこちらへ」
私がお姉さんに説明を求めると、職員のお姉さんは受付カウンターを離れて私とロナを誘導してカウンターの脇を通って奥へ案内していく。どうやら会議室に案内されるようだ。探索者ギルドでも何度か同じような事があったので既視感がある。
思った通り会議室らしき小部屋に案内されてテーブルの前の椅子を勧められたので座る。
「まず、件の人材についてお話する前に前提をお話しますね」
「おねがいします」
「では――。まずこの街には他の街にあるような貧民街はありません。これはこの街のご領主様が犯罪の温床となる貧民街に手を入れ、廃屋や空き家をなるべく出さないよう、管理されているからです」
「へぇ」
私は宿に宿泊した時にロナが言ってた話を思い出した。最底辺の宿ですら環境が良い。街が隅々まで栄えている。それは領主の腕がいいからかも、という話だった。
「――おかげで、他の街より間違いなく安全で快適に暮らせるのですが……貧民街のような問題が無いわけではないのです」
職員のお姉さんは、言いにくそうに少し口ごもったが、話してはくれるようだ。
「他の街のように荒れ果てて廃屋や空き家だらけの、食い詰め者や逃亡者が逃げ込むような所謂『貧民街』はないのですが、それでも低所得者ばかりが集まる区画はできます。この街だけ孤児や食い詰め者が少ないというわけでもありません。そして残念ながらそう言った者達に住居を提供して囲い込む勢力が幾つも存在するのです」
(――昔もいたわねぇ。半グレ的な――それとも、もう既に本職なのかしら?)
ヨーコも話を聞いていたらしく、ぶつぶつと何か言っている。相変わらず「ハングレ」とか「ホンショク」とか言ってる事はいまいち良く分からないが。
「――過去にそういった勢力と関わりがあったせいで普通のお店に紹介することが出来ない人材、というのが訳アリの『訳』というわけです」
「過去に、という事は今はもう関わりはないんですよね?」
「はい、それは、そう、なんですが――」
今、真面目にやってる人なら良いんじゃないかと思ったのだが、お姉さんの曇った表情や歯切れの悪さからするとそう簡単ではないらしい。やがてお姉さんはため息を吐いた。
私は何となく想像がついた。
「なるほど、つまりその人はもう関わりたくないのに、相手が放っておいてくれない、と?」
私がそう言うと、職員のお姉さんは、眉根を寄せたまま頷いたのだった。
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