38 自作カレー
まあヨーコには秘密が多いのはいつもの事なので気にしても仕方がない。それより「乾燥」の魔法だ。
この「乾燥」の魔法はとても優秀で、採って来た葉っぱなどの素材から水分を短時間で除去できる。あくまで魔法でやっちゃうので新鮮なまま水分だけ除去された質の良い乾燥済み素材が出来るのだ。
まさに「錬金術師御用達の魔法」とヨーコが言っていた。なので、昔は皆こんな魔法を使ってたのかと聞くと、ヨーコのオリジナル魔法だとドヤられた。ヨーコが凄いのはもう十分知ってるのだが――。
素材が乾燥したら、逃げる前に買い込んであった「すり鉢」と「すりこ木」で磨り潰して粉にする。ちなみにこの「すり鉢」と「すりこ木」も何に使うか分からないままヨーコに買わされたものだ。
私には分からない何種類もの素材をそれぞれ処理し、粉にしたあと買い込んであった空瓶に1種類ずつ入れていく。
ヨーコによれば素材のほとんどはカレーの香りの為の材料で、後は色の為の材料が1種類と辛さの為の材料が少し。
完成したその何種類もの粉をヨーコの指示で少しずつ1つの皿に入れて混ぜ合わせる。ふわりと舞った粉末からちょっとだけカレーっぽい匂いを感じた。
その後、鍋に水を入れて「強火」の魔法で沸騰させる。ちなみに水は、滅多に使わない「湧水」の魔法で作る。綺麗な飲み水を作る超有能な魔法だが、普段はほぼ使わない。正直その存在を忘れていたくらいだ。
というのも喉が渇けばレモンティを飲むし、手や身体を洗うときは「洗浄」の魔法を使うのであまり使いどころがないのだ。
ともかくお湯が湧いたら野菜や肉をざっくり切ってから入れて、今度は「弱火」の魔法で煮込む。
本当は肉や野菜を炒めたり下味をつけたり寝かせたり?灰汁を取りながら長時間煮込んだり?するらしいが、今はまだお米が無いしお腹も減ってるし、そもそも作れるかどうかのお試しなので少し煮込んで廉価パンで食べる事になった。
しばらくして私は鍋を覗き込む。大して煮込んでいないから野菜もまだそこそこ元気な感じだが、それでも良い感じのスープに見えるし良い匂いがする。このまま食べても美味しいんじゃないだろうか。
ヨーコの指示で私は作ったばかりのカレー粉を投入してしっかりかき混ぜる。すると途端にカレーの匂いが立ち込めた。色もやや黄色が強いがカレーっぽい色になった。
「うわぁ……ホントに出来たじゃん!?ミラ、すげぇな!?」
「いや、これは正直、いつも食べてるのとは結構、違うと思うから期待しすぎないで」
そう言いつつ、私も期待してしまう。思わず背負い籠の中から取り出すように見せる小細工を忘れて、「異空間収納」の魔法から洗浄済みの皿とスプーン、廉価パンを2つずつ取り出した。
ヨーコの指示で買った調理器具の中から「オタマ」というでっかいスプーンみたいのを取り出し、カレースープを皿に注ぐ。
「それじゃ、食べよう」
「うん!」
私とロナはスプーンで勢いよくカレースープを掬って口に突っ込んだ。次に廉価パンを千切ってカレースープにつけて口に突っ込む。
「フーフーッ」「ズズーッ」「カチャカチャ」「ズビズビ」「ハグハグ」少しの間、そんな音だけが暗くなった森に響いた。
暫くすると、私とロナは「ふぅ~」という深いため息を吐いた。お腹をさすりつつ、私達はお互いの顔を見る。少しの沈黙のあと、ロナが先に口を開いた。
「や~、美味かったねぇ♪」
「うん、まあ――」
確かに味は凄く美味しかった。だけど、ヨーコのカレーには正直、全く及ばないと思った。
「――そうでもない感じ?」
「いや、美味しかったよ。ただほら、味だけじゃなくて、匂いとか、野菜の硬さとかさ……」
「あー、魔法のカレーと比べて?それは魔法のほうが美味いねぇ」
ロナがヨーコのカレーを思い出しているのか目を閉じてうっとりする。そして、パッと目を開いた。
「まあ、ウチらが作る必要ないじゃん?」
「ん?」
「だからさ、せっかく商人ギルドに登録したんだし誰か料理できる人雇ったら?」
私はロナの意見を聞いて目を丸くした。私はヨーコの話を聞くまでは、人を雇うなんて言う発想は浮かびもしなかった。
そして、いずれ売り子は雇うつもりだったが料理人まで雇うという発想も無かった。
私と同じ貧民街出身だがロナにはそういう才能があるのだろうか?だとしたら将来的にはロナに任せた方がいいかもしれない。
「なるほど、いいかも?」
「でしょ?ミラが作ってるの見てたら要するにスープにウチらの作った粉を入れるだけでしょ?なら料理人が作った美味いスープに入れたらもっと美味いよ♪」
「おぉ……!?」
「それにさ、それならウチらの作った粉の秘密は教えなくて良いじゃん?」
「ッ!?――ロナ、天才?」
「んふーっ♪」
私が目を丸くして驚くと、ロナが嬉しそうに笑って目を細くした。
「――じゃあ、あとは金だけか」
「それもさ、とりあえず料理人と売り子を1人ずつ雇うとして、売れたら報酬を払うけど売れなかったら払えないって条件で来てくれる人を雇えば最初に必要な金は少なくて済むんじゃない?」
「確かに!じゃああとは場所と許可だけか。テーブルとイスはいくつかあるし、先払いで食べてもらって食器だけ盗まれないようにすれば大丈夫か。それならカレー粉作るついでに肉を狩って、商人ギルドに売れば貯まるかな?」
私は、それなら何とか、宿屋の滞在期限が切れるまでに始められるかもしれないと思った。
「決まった?ふぁ~……じゃあ、寝よっかぁ」
ロナがお腹をさすりながら急に眠たそうにする。辺りが暗くてお腹がいっぱいになったらそうなるのも無理はないが――。
ちなみに前の街を逃げ出してから暫くの間、巨木の森に引き籠っていたので、私もロナも夜営は慣れたものだ。
昼間、雑草――薬草採取のついでに集めておいた植物の蔓を雑に編んだ手製ハンモックを木と木の間に吊るすと、焚き火にヨーコ直伝の獣避けを放り込む。
これは日ごろから、見つけた時に採取してある臭い草で、燃やすと獣が嫌がる臭いの煙が出る。一度燃やすと、一晩くらいは獣が寄り付かなくなる。巨木の森の「中層」でもそこそこ使える優れものだ。
欠点は私達も臭い煙を浴びるという事だが、背に腹は代えられない。防御用の魔法を手に入れて使いこなせるようになるまでは貴重な防衛手段なのだ。
まあ、巨木の森の「中層」の深部寄りでは効かないことも多くなるらしいが、その頃にはもっと確実に守れる防御魔法を覚えている予定なので問題ない。
何より、ヨーコは寝ないので何かあったらヨーコが起こしてくれるはずなので私は心配なく眠る事ができる。私があまりにも落ち着いているのでロナも臭い煙の効果を完全に信じているようだった。
そんな感じで私達がハンモックに上って寝ようとした時、すっかり習慣になった魔力探知に反応があった。
ちなみに私もロナも常時、魔力探知を発動するように心がけている。チラリとロナを見ると、ロナも気づいたようで、ハンモックに上がるのを中断していた。
「――何かくるね?」
「うん」
ロナは反応の全容を掴めていないらしく、ハッキリ「何が来る」とは言わなかった。
一方、私は数人の人間と魔物らしい大きな反応を探知していた。どうやら追われているようだ。夜営準備を片づける暇はない。
私とロナは状況確認のため、近づいて来る魔力反応にこちらからも近づいていった。
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