36 作戦会議
私たちが泊ったこの宿はいかがわしくない宿としてはおそらくこの街で最安だが、ベッドで寝るという経験をしたことが無かった私とロナは快眠し過ぎて寝坊した――と言っても特に予定などは無かったが。
朝日と共に起き出して、日が沈んだら寝る私たちが、宿の人に部屋の扉をノックされて起きた。
そんな自分に驚いたが、とりあえず部屋の扉を開けてノックに対応すると、もう1泊するなら追加の宿賃を、との事だったので念のため2泊分払った。
さらにもう数日なら泊まれるが、一冬の間何もせずここに泊まり続けるには全く足りない。はやいとこお金を稼ぐ方法を見つけないと。
私が扉を閉めてそんな事を考えていると、ロナが起きてベッドの上で肘をつき少し上体を起こした。
「――なに~……もう朝ぁ……?」
「けっこう朝。宿の人に起こされたよ。今日も泊るのかって」
私がそう言うと、ロナが目を丸くして驚いた。ロナも私と同じで毎日ほぼ決まって、日の出と共に自然と起きているから。実際、窓を見ればカーテンの隙間から光が漏れているし、それだけで部屋が結構明るくなっていた。
「とりあえず2日分払っといたから、今日明日中にこれからどうするか考えよう」
「ふぁあ~……オッケー」
ロナがしっかり起き上がってベッドに腰かけて私を見る。
「――てか、探索者ギルドへ行くんじゃないの?」
ロナが私を見ながら少し首を傾げた。街に入る時、私はロナと相談して下級探索者のギルド証を提示しなかったのだが、ロナは特に何とも思わなかったらしい。当たり前に探索者としてやっていくつもりだったようだ。
「探索者ギルドにはあまり近づかないよ。少なくともミラとロナって名前じゃあダメ」
「え――ああ、なるほどそうか。ギルドからウチらの居場所がバレちゃうとか?」
私は頷く。再登録するにしても最低限、名前は変えたい。でも名前を都合よくコロコロ変えるのに慣れると、今なんて名乗ってるか覚え間違ったりするかもしれないし、多分それは色々マズい気がする。
とりあえず私から相談を始めようとして、ロナが何か言おうとしているのに気づき発言を待つ。
「――とりあえず」
「うん、とりあえず?」
「お腹減った。カレー食おうよ」
朝からカレーとは贅沢な。私はいつも夜ご飯としてカレーを出しているのでロナも朝から要求したことは無かったのだが。
とは言え、私も腹減った。そして私も毎日毎食カレーでも良いので、カレーを食うのに異論は無い。
私は要求を受け入れ「カレーライス」の魔法と言ってカレーを出し、「レモンティ」の魔法と言ってレモンティを出した。
とりあえずこの設定は続行する予定だ。ヨーコも(敵をだますにはまず味方から)と言っていた。多分こういう事だろう――知らんけど。
「――そいで、何だっけ?」
2人でカレーを食べながらロナに促されて私は相談した。一冬の間、寒さと飢えから身を守る為にお金を手に入れる方法を考える必要があること。用心のためしばらくの間は探索者ギルドでは売り買いしないこと。
そう言いつつ私は、文字も読めない底辺孤児の私たちが探索者ギルドを通さず出来る事なんて、無いのでは――?と考えていた。
ロナも黙ってモグモグと口を動かしているので、私達はしばらく無言でただカレーを食べた。
そしてカレーを食べ終えてスプーンと皿を置いたロナはレモンティのグラスに口をつけながら言った。
「――カレーを売れば?ウチこれより美味いもの食ったことないし、一生コレで良いと思うし?」
「いや――」
もちろんそれには激しく同意するし私もまず最初に考えた。けど、ヨーコの「異空間収納」の魔法の中にあるカレーはヨーコが用意したもので今は私のものだ。これさえあれば一生食いっぱぐれることは無い。そして根拠はないけど多分ロナの分も大丈夫だと思う。
けど、いくら大量にあっても人に売ればあっという間に無くなってしまう。人気が出ればなおさらだ。それでお金は手に入るかもしれないが、一番美味しいもの食べ物を売って、わざわざそれより美味しく無いものを買うのは馬鹿げている。
「私の魔法じゃ売る程、数、出せないから」
とりあえずロナには魔法的に無理という事にした。するとロナがまた口を開く。
「じゃあ自分達で作るとか?」
「え、カレーを?――どうだろう?」
なるほど、「異空間収納」の魔法の中にあるカレーは自分達で食って、人に売る物は作れば良いのか。――いや、でもどうやって?
「――ロナは作れるの?」
「作れるわけないじゃん?」
「じゃあ、無理でしょ」
「いや、ミラは『「弱火」の魔法』とか『「保温」の魔法』とかあるじゃん?」
そう言われて、また考えてみる。ロナを妹にする前から、私は確かに自炊しようとは思っていた。
せっかく便利な魔法があるから?――いや、それもあるが、ヨーコが料理が出来るから習おうと思っていたのだ。何故ってそもそもこのカレーはヨーコが作ったものだから、こんな美味しいのを作れるなら習いたいと思ったのだった。
そうだよ。ヨーコなら当然、カレーの作り方を知ってるはずだ。
「カレーの作り方か……」
私はそう呟きつつ、ヨーコに意識を向けてみる。最近、ロナが常に一緒なのでヨーコとの会話が減ってしまった。
その意味では、不便なのでヨーコの事を早くロナに打ち明けたいのだが、まだその踏ん切りがつかない。ロナを信用できないわけじゃないが――いや、やっぱり100%信用出来ていないのだろうか?何故か、まだ無理だった。
(もちろん、作り方は分かるわよ)
ヨーコが察して返事をくれた。ヨーコがそう言うなら作れるのだろう。その方向で考えるのが良いかもしれない。ただ――
「――作れたとして、私達みたいな子供が売るのは信用とか舐められたりとか、色々、厳しそうだな」
「なるほど、たしかに」
私が心配を口にするとロナも頷いた。
「――まあでも、とりあえず作れるかどうかウチらで作ってみたら良いんじゃん?」
私もちょっと考えてロナに頷いた。確かにいきなり全部心配しても仕方がない。一個一個試してみるのが先だ。とりあえずホントに作れるかどうか、だ。
「て、ことはまず作れるかどうか――材料をどうするとか?それで次に売り方――誰かに頼む?何処で売る?商人ギルドに登録とかも必要?」
考え始めると、考える事はまだまだ色々ありそうだった。けどまずは作れるかどうかを確認する事になった。
「うーん、材料を人から買うと高くついて儲からないし、何処で買うかも分からないし、そもそも売ってくれるかどうかも分からないから――やっぱ自分で採取かな」
その点は、下級といえど現役探索者の私たちなら大丈夫のはずだ。
「となると何度も街に出入りしないとダメだから身分証がいるか。よし、じゃあとりあえず商人ギルドに行って登録しようか」
私は次の行動を決めるとロナを連れて部屋の扉に鍵をかけて宿をでた。
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