35 プロローグ
ロナを攫われたり助け出したりした事件の後、巨木の森に逃げ込んでから、結構時間が経った。いつの間にか季節が変わり、朝晩涼しいな~と思っていたら、どうやら冬が近いらしい。
「――そろそろ皆、私達のこと忘れてくれたかな?」
「ん?どうだろねー……いや、覚えてる人は普通に覚えてるんじゃない?」
ある日の朝、私がそんな話を振ると、ロナが客観的な返事をくれる。まあ、私もそうだろうなと思いつつ言ってみたのだが、やっぱり忘れるほどの長期間というわけじゃない。
だとしても、そろそろ寒さを感じるようになってきた。このまま森を拠点にするとしても、防寒対策をしなくては冬の間に凍え死んでしまう。
「ちょっと、寒くなってきたからそろそろ街に行ってみようかと思うけど、どうかな?」
「いいね!寒さはまだ平気だけど、ウチは流石にもうちょい人に会いたいよ~」
「あー、私はそれは全然だけどね。ロナがいるし」
ヨーコもいるしな、と私は心の中で付け足した。
「いや、別に話とかしなくてもいいけど、人の声がしないと静か過ぎてさみしくない?」
私が「全然」と答えるとロナが目を丸くする。でもそんな顔されても、私は他人に関わって良かった記憶がほぼ無いので、ロナとヨーコが居れば他の人は特に必要ないと思うのだ。
「――ま、それはともかく冬の間は街に拠点を移す方が過ごしやすいかなと思うけど、どう?」
「ウチはそれでいいよ~♪」
ロナは街に行くのは嬉しそうだ。ならば一度、街に行ってみようか。色んな物資を買い足したいし。
まあ、街に行くと言っても元いた「あの街」に戻ると言う話じゃない。それは流石にまずそうだし。隣かその隣か、とにかく違う街に行って様子を見たり買い物をしたりしたい。
「それじゃ、これから移動して、明日あたり隣の街に入ってみるので良い?」
「おっけー♪」
そんなやり取りの後、特に荷物も無いのでお互い、背負い籠に入る程度の荷物と長い棒(武器で杖)を持って歩き始めた。今日はいつもの狩りも訓練も無しだ。
ロナは元居た街の付近から離れたことが無いらしいが、私は一度、指名依頼で結構、遠出した事がある。
その時の記憶を頼りに森の浅層――外縁部分を歩き続けるうちに昼になり、偶に探索者っぽい少年少女と出くわすようになった。
勿論、知らない子ばっかりだ。
さらに歩き続け午後も遅い時間になると、人が踏みしめた小道に行き当たり、そのまま小道を辿るとすぐに森を出た。遠くに街が見えている。
「おっ、あれが隣町?」
ロナが額に手を翳して遠くを見る。
私もここまで来たことは無いけど多分そうだろう。
「多分そうじゃない?行ってみよ」
「オッケー♪」
森の端からは少し下っていて遠くまで草原が続いていた。草原は途中から穀倉地になり、やがて街に至る。遠くに見えた街が、実際に辿り着くには見た目よりさらに相当遠かった。
私達が元居た隣街と違って、ここの探索者は森への行き来に時間がかかって大変そうだ。
森を出た時はまだ夕方まで間があると思ったが、街の門に着いたときは既に夕方で危うく門外で野宿になるところだった。
ロナは初めて来た隣町の街壁と街門を見上げて物珍しそうにしていたが、私は急に緊張してきた。
もしあの貴族が、それかあの商会のおじさんが私達を名指しで手配していたら、門でいきなり揉める可能性がある。その場合は何とか戦って切り抜けた上で森へ引き返すことになるのだ。今からそれは正直、シンドイ。
探索者ギルドに登録しているので下級探索者のギルド証はあるのだが、ロナと話し合って、念のためそれは出さない事にした。
門は行列が出来るほど混んでなかったので、私達はすぐに兵士の前に進み出た。
「次。身分証はあるか?」
「ありません」
「ふむ。浮浪児か。どこから来た?」
「隣の街です」
兵士はそれだけ聞くと、隣の男と一言二言話をする。
「では入街税、小銀貨1枚だ」
「はい。私と妹の分です」
私がロナの分と合わせて小銀貨2枚渡すと、兵士の一人が片眉を上げた。
「――お前が姉か?妹みたいな姉だな――まあいい。次――」
そう言いながら私達は街の中へ追い払われた。
「――ぷぷっ、やっぱミラが妹じゃん?」
「ロナ。姉に対してその態度は――?」
私がピキピキと額に青筋を立てるとロナが慌てて訂正した。
「嘘。冗談。ミラ姉ちゃん♪」
そう言われても私の眉間の皺はすぐには消えなかった。別に決める前なら私が妹でも良かったけど、既に決まった事なので。実の姉妹じゃないんだからそこはハッキリしたい。
それに実際、森では私がロナの師匠だったし、私がロナの世話をしていたのだ。いまさら私が妹とかありえない。
ちなみに私はあの兵士を無礼者としてしっかり記憶した。
しばらくロナを連れて無言で歩き、まともそうな宿の中で一番安い宿を選んだ。ただ用心のため大部屋じゃなく個室を借りて部屋に入った。個室は1泊小銀貨2枚。私たちには痛い出費だがこの街では最安だろう。ベッドに座る頃、ようやく私の眉間のシワが消えていた。
「――とりあえず、猛烈に手配されたりはしてないね」
私は小声でロナに囁いた。さすがに堂々とできる話ではない。
「あーミラ、それでさっき緊張してたん?ウチはあんま気にしてなかった」
ロナは屈託なく笑う。
「――もっと力がつくまでは、多少は気にしてよ?多分、目をつけられてる筈だし」
ロナが頷いたところで、ようやくいつも私達の感じに戻った。
部屋を見回すとなんと壁にランプが設置してあった。私は聞いてなかったが、ロナが宿の人に聞いた話では燃料は1回頼んで銅貨1枚らしい。それで一晩持つかどうかは分からないが、夜は暗くなったら寝るだけの私からすると驚きの仕組みだった。
「へぇ。こんな最底辺の安宿でもこんな仕組みがあるのか。部屋も思ったより綺麗だし、この街は結構栄えているのかな?」
「そうかもね。領主の腕が良いのかも?」
ロナが笑って頷いた。なるほど、元の街は領主の腕が悪いからあんな感じだったのか?それだけの事でこんなに違うのかと、私は驚いた。
「――まあいいや。とりあえず、これからどうしようか?」
私は明日からの行動のつもりで相談したが、ロナがとりあえずご飯を食べようと言うので、そう言えば今日は昼ご飯を食べずに歩いたのを思い出した。
今日はあまり馴染みの無いエリアを歩いたので良い休憩場所や丁度いいリズムやペースも分からなかったし、ただひたすらよそ見せず休まず歩いたのだ。
私が2人分のカレーとレモンティを「カレーライス」の魔法、「レモンティ」の魔法と言って出す。ロナが喜んで早速カレーをパクついた。
ちなみに私も最初はヨーコにそう言われて信じていたが、ロナもカレーを出す「カレーライス」の魔法、レモンティを出す「レモンティ」の魔法と信じて疑わなかった。
「――にしてもこんな美味い物、ずっと1人で食ってたとか、やっぱミラずるい!」
「いや、本来はずっと教えないつもりだったからね。それを教えたんだからむしろもっと感謝してくれないと」
「えぇ~!?」
ロナがブーブー文句を言ったがそれ以上は相手にしなかった。そしてこの日は私もロナも思ってた以上に疲れていたらしく、お腹がいっぱいになると、すぐに眠ってしまった。
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