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31 侵入

 魔力で探知した場所の近くまで来ると、左右に延々と続く屋敷の高い塀に行く手を遮られた。

 

 ヨーコに聞いた話では男爵と言うのは貴族の中では一番下っ端で、この街の貴族は領主以外、領地を持たないという話だったが、それでもこの広大な屋敷だ。貴族と言うのは物凄いお金持ちらしい。

 

「――にしても広すぎ」 

 

(まあ、街同士の戦いになって、街に侵入された時、最後の防壁になるわけだからねぇ。特に武官のお家なら抱えている私兵や職人の宿舎、工房、練兵場、色々必要なんでしょうね) 

 

 私はヨーコの言葉を聞きながら、屋敷の高い塀に跳びついた。塀の上で姿勢を低くして周囲を見回すと、広い敷地内に小道や草木が綺麗に配置されていて、デカい建物や小さい建物が幾つも点在している。

 

 私の探知に反応したのは、一番デカい屋敷ではなく、端っこの方にある小さい建物だった。

 

 まあ小さいと言っても、一番デカい屋敷に比べたら、であって私達が拠点にしている空き家と比べたらかなり大きい建物という事になるが。

 

 私は屋敷の塀の傍を走ってその小さい建物へ近づいた。見たところ敷地内を巡回している兵士は殆ど無く、塀の正門付近に兵士が立っているだけだった。貴族を襲撃する平民なんていないのだろう。

 

 目的の小さい建物には正面にデカい両開きの扉があり、地上付近の壁には窓が無く、屋根に近い上の方に、前後に1つずつ小さい窓があった。

 

 小窓まで地上から大人の男の人3人分ほどあったが、途中まで跳び上がり壁を蹴って駆け上がった。余裕とまでは言えないが、何とか窓の枠に手がかかる。

 

 窓枠を掴んで壁に張りつきながら建物の中を覗くが、暗くて見えない。仕方ないので窓を「異空間収納」の魔法に仕舞って、私はぽっかり空いた壁の穴に飛び込んだ。――この能力があれば私はいつでも大泥棒になれるのではないだろうか。

 

 ふわっとした浮遊感のあと殆ど音を立てず着地して建物の中を見回す。最初は暗くてよく見えなかったが、じきに目が慣れてくると床の上に小さい塊が転がっているのが分かった。

 

 急いで駆け寄ると、それは後ろ手に腕を縛られたロナだった。喜びと安堵で私は思わず大きく息を吐いた。

 

 そして、少し呆れてまた息を吐いた。こんな状況でこんなところに転がされながら、ロナは呑気に?眠っていたからだ。度胸があるのか危機感が薄いのか――私だったら怖いし心細いし、とても眠っていられないと思うのだが。

 

「ロナ――ロナ、起きて」 

 

「――ん……ミラ……もう朝?」

 

 私は色々呆れて一瞬、声が詰まった。

 

「……朝ならこんな暗くないでしょ。てか腕縛られてて違和感ないの?」

 

「ん?――あれ、そういやウチ昨日の夜、変な奴に捕まって……?」


「まだ昨日の夜だよ」 

 

 ロナはポケッとして「あ、そうなんだ?」と呟いた。

 私はとりあえず腕を縛っている縄を斬ると告げてから縄を斬り、ロナの腕を解放した。

 

「うっ……あっ、痛てて……痛いってか、腕の感覚が……」


 身体の下になっていた腕が痺れたらしい。体を起こしたロナが腕をさするのを横目に、ロナの身体を確認する。服が少し焦げたり破れたりしているが、どうやら何処にも大きな怪我はしていないようだ。


「じゃ、ロナ、とりあえずさっさと逃げるよ」


「あ、うん、了解」 

 

 私はロナを促してから、ジャンプして入ってきた小窓に取り付いた。

 

「――ミラ、ウチは無理だよそんなの……」 


 ロナが大人3人分ほどもある小窓までの高さを見上げて弱々しい声を出しているが、私は別にロナを虐めてる訳ではない。ちゃんと考えてある。

 

 私は窓の外に用意してあったていで「異空間収納」の魔法から縄を取り出して窓の中に降ろす。

 

「それで登ってきて」 

 

「おっけー」 

 

 上で私が持っているだけの縄を、ロナがちょっとだけ不安そうに引っ張る。だけど私の筋力も瞬発力もそこら辺の大人より全然強い。まして、ロナの体重なんて大人の半分も無いので縄はビクともしない。

 

 意を決してロナが登りだし、すぐに私の所まで到達する。私はロナが登り切る前にロナを抱え上げ、そのまま外に飛び降りた。

 

「……ッ!?」 

 

 全く危なげなくシュタッ!と着地するとロナが縄を握ったまま目を丸くした。

 

「え、何?ミラって、いつからそんな……?」 

 

「まあ、とりあえずここを出てから話すよ」 


「――そう言わず、ゆっくりお喋りしていきたまえ」


「ッ!?」


「ッ!」


 私がロナを促し、入ってきた塀の方へ向かおうとした時、知らない声がした。声の方へ視線を向けると、月明りの中、知らない男の人が立っていた。

 

「――ふむ。お前がミラというわけだな。遣いの者はどうした?まさか殺したのか?」 

 

 私はしゃべっている男の人の背後を確認する。誰かを連れている様子は無かった。この人さえ何とかすれば逃げられる。


「どうした?このオレが聞いているのだぞ?何故、答えない?」


 このオレ、って言われても誰だか分からない。分かったところでロナを誘拐したクズで敵だ。それだけ分かれば十分じゃないだろうか。


「――分からせる必要があるようだな?」 

 

 男がそう言った瞬間、男が指を立てた。その指先から魔力が迸り、私へと向かって来る。 

 私がロナを抱えたまま、とっさに後ろへ跳び退くのと同時に強烈な白熱光とバーン!という轟音が響いた。光は今まで私が立っていた地面に突き刺さって爆ぜた。

 

「ふん。その動きと言い……やはり持っているようだな」 

 

 男の言葉は、もはや私へというより独り言になってきている。

 

「ロナ、ちょっと下がってて」 

 

「ミラ――」


「いいから」


「――分かった」 

 

 私はロナの言葉を強引に封じて下がらせた。それでも狙われたら危ないが、とにかく一緒にいると何も出来ない。

 

 私がロナと離れると、すぐに男がロナに魔力を飛ばす。さっきの光でロナを攻撃する気だ。

 

「ロナ!細かく動き回って!止まらないで!」


「おっけー!」


 ロナが前後左右に細かくステップする。


「ちっ!その程度で躱せると――ッ!?」 

 

 もちろん、私も思ってない。私は背後に回して右手を隠しながら「異空間収納」の魔法から手斧を取り出して男に思いっきり投げつけた。

 

「なッ!?ぐぁッ!?」 

 

 近距離から大人の男の人以上の筋力で投げられた手斧を男は間一髪で避ける。だが、完全に避け切れず、手斧が男の首の皮一枚を斬り裂き、血飛沫が舞った。

 

「きっ……さまぁああぁ!?」


 完璧なタイミングの不意打ちを避けられてしまった。これが決まれば完勝と思ったが、そう甘くないらしい。

 

 しかもさっきの光はおそらく「雷撃」の魔法だ。私の「小雷撃」とは断然、威力が違う。


 男の狙いを引き付ける事には成功したものの、私の勝率はググンと下がってしまった。

 

「――なるほど!問答無用というわけだな!?良かろうッ!貴様を殺して奪う事にしようッ!!」

 

 そして男は死ぬほど怒っていた。正直、おしっこちびりそうなほど恐ろしかった。



読んでくれて、ありがとうございました♪

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