3 魔法の話
ヨーコの話によれば、魔法と言うのは元々、魔物が持っている特殊能力の事で、基本的に人間は魔法を使えない。
一方でどんな生き物でも生きている限り体内に魔素を取り込んでいる。取り込まれた魔素は体内で変質し魔力になる。体内に魔力があるから生き物は生きていられるのだそうだ。
その魔力だがある程度自在に動かせないと魔法石に注ぐのは難しく、かなり慣れが必要だという。
それに魔力を魔法石に注ぐことが出来ても、それであらゆる魔法が使える訳ではない。「魔法石に宿る魔物の魂が、生きていた時に使っていた魔法」を逸脱しない範囲でしか使えないらしい。
例えば火を噴く魔物の魔法石に魔力を注いでも水流を噴射したりは出来ないということだ。
そして最後に重要なのが、魔法石に宿る魔物の魂への指示。言葉の通じない魔物の魂へ的確に指示する事は不可能に近い。
そこで編み出された方法が、行使する魔法を強さ、範囲、形状など細部まで明確に、映像として脳裏に描き出す事。
言葉は通じなくとも、魔法を使う瞬間、魔法石に宿る魔物の魂とは魔力によって繋がっているのでイメージは何となく伝わるらしい。
この作業の精度如何によって、魔法の威力が左右されるのだという。
そう聞くと、魔法石を持っているからと言って今すぐ魔法を使えるわけではないのだと分かった。
……つまり練習が必要ということだな
ところで私はヨーコの魔法石ではどんな魔法が使えるのか、凄く気になった。話の通りなら「ヨーコが生前使っていた魔法」が使えるはずだ。聞きたくてしょうがなかったが同じ部屋でロナが寝ているので、声に出して聞くことが出来ない。
念のため、頭で質問を考えてみたが、ヨーコが応えてくれることは無かった。やはり言ってた通り、考えただけでは伝わらないようだ。まあ、ヨーコが知らんぷりしてる可能性も無くはないが――。
いつの間にか私は、ヨーコのおしゃべりを聞きながら、眠ってしまった。
☆
翌朝。ヨーコから早く色々聞きたくて、起きるとすぐに私は籠を背負って拠点の空き家を飛び出した。
2着しかないシャツとズボンの片方を部屋に干したままなので、最悪、盗られるかもしれないが、この子供地帯ではシャツとズボンは盗らないというのが暗黙の掟なので大丈夫だろう。多分。
ちなみに、皆、シャツとズボンには外から見て分かるところに自分なりの印を入れているので盗っても着ることが出来ない。着るとバレるからだ。そしてボロくて汚いので売っても二束三文。結果として掟は守られているのだ。
森に着くと、食材や魔物、価値のありそうな落とし物などを探しつつ、周囲に誰も居ないのを確認してからヨーコに声をかける。
「ヨーコ、昨日の続きを話して」
(おはよう、ミラ。昨日の続きって言うと、魔法の事が聞きたいの?)
「うん。魔力の注ぎ方を教えてよ。私も魔法が使いたい。と言うかヨーコはどんな魔法が使えるの?どうして元人間のヨーコが魔法を使えるの?人間は使えないんだよね?ってか何で魔法石になっちゃったの?」
私が矢継ぎ早に質問すると、ヨーコが少し困ったような雰囲気になる。
もしや、魔法の事は秘密とか秘伝とかなんだろうか?それとも個人的な質問はダメだった――?心配になって聞いてみた。
(うーん、そうねぇ、魔法について教えるのは全然オッケーよ。ただ、生前の自分の事はあまり良く覚えていないのよ。だから話したくても話せない、と言うかんじなの)
「分かった。じゃ、魔法の事ね。魔力の注ぎ方、どうやるか教えて」
(良いわよ。ちょうどいい魔法があるからやってみましょう)
「え?そんな急にできるもの?危なくないの?」
あまりに軽く言われたので、私は少し不安になった。
(大丈夫、大丈夫♪自分で言うのも何だけど、わたしは普通の魔法石じゃないの。特別な魔法石なんだから!)
いや、ヨーコが特別でも私は普通の子供なんだけど。不安がちょっと大きくなった。
「――えっと、ちなみに、どこが特別なの?」
(そうねぇ、例えば普通、魔法石に宿っているのは魔物の魂だから、意思を伝えるなんてほぼ無理だけど、わたしは元人間だからミラと意思を伝えあう事が出来るわ。つまり、本来難しいはずの魔法に関する様々な匙加減がある程度、自由自在になるって事よ。どう?凄いでしょ?)
そう聞くと、マジで凄いと思えた。普通の魔法石の所有者――魔法使いが苦労して習得する、あるいは苦労しても習得できない事、魔法を自由自在にコントロールする事が出来るようになるかもしれない。
つまり私は魔法使いを超える魔法使い、大魔法使いに成れるのでは?そう考えると、ドキワクが止まらない。
「で、でも私は普通の子供なんだし、いきなりやれっていわれても――」
(そう、普通なら無理。魔法使いの弟子にでもなって習うか、その必要のない魔法の天才でもない限り、人間がいきなり魔力を認識して動かす事はほぼ不可能だわ。でもね――)
そこでヨーコがもったいぶるように間を開ける。焦れる私を見て楽しんでいるような気がした。まさか、ヨーコはいじめっ子気質なのだろうか?
そんな事を考えていると、ヨーコがたっぷり間を取ってから再び話し始めた。
(――元人間のわたしなら、ミラの具体的な指示が無くても魔法を制御できるし、必要な魔力をミラから引き出す事も出来る。つまり何も知らないミラでもいきなり魔法を使う事が出来るってわけ。どう、すごいでしょ?)
私はヨーコがドヤ顔でふんぞり返っている雰囲気を感じた。実際すごい。ドヤ顔に値する。本当に、ヨーコは特別な魔法石だったのだ。
魔法石自体がレアな上に特別なのだから、レア中のレアだ。凄すぎる!
ちなみにヨーコはまだ何か言っている。(要するにオートマ車みたいなものね~)とか何とか――意味は分からないが、そう言う事も色々聞いてみたくなった。
きっとヨーコは私の知らない事を山ほど知っている。魔物のことや昔のことや他にも色んな事を山ほど。
文字が読めない、保護者もいない私にとって最高の相談役だ。
最初は売ることも少し考えたが、最早その気持ちは完全に失せた。
となると盗られないように用心しなくてはいけないし、奪われない力をつけていく必要がある。
「じ、じゃあ、ヨーコはどんな魔法が使えるの?」
(そうね、じゃあまずはやってみましょう。軽く手を伸ばしたら届くほどの位置、そう、その辺を注目していてね、いくわよ?)
私は手を伸ばして軽く泳がせると、その手を降ろし、目の前の空間に注目した。すると、ほんの少し体内で何かが動くのを感じた。
次の瞬間、空中にろうそくの火のような小さな火がポッと現れた。同時に同じような小さい火が円形にポポポッといくつも並んで輪を作った。
「――これは?」
(ふふんっ♪これは「弱火」の魔法よ!)
私は、ヨーコが最大級にドヤる雰囲気を醸し出しているのを感じたが――いや、何これ?
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