28 ロナ
私は咄嗟に答えを返せなかった。
ロナの申し出――パーティの事は私も一度は考えた。
ロナとは気が合う。私の覚えている一番古い記憶はクソみたいな劣悪な環境の孤児院に居た時の記憶。そこでロナと一緒だった事。
だからそのクソみたいな孤児院を一緒に脱走して貧民街に逃げ込んでから、ずっとお互いを守り合って来た。
同世代の他の子達より目端が利き、腕っぷしも強いロナと拠点を同じにした事で、今まで子供同士のいざこざを割と簡単に遠ざけて来れた。
だけどどこか、ロナは甘えさせてはくれない、ロナの方も甘えて来ない、そんな雰囲気があった。
なので私から「パーティを組みたい」「組んで欲しい」と言うとまるでロナに縋りつくみたいだし嫌がられそうで、今まで私からは言い出せないでいた。
「――ミラ?ダメ、かな?」
「あの、保留、したい。させて――ダメ?」
私は、答えを欲しがっているロナに、逆にお願いをしてしまった。
「――ロナは嫌いじゃないし、信頼してるけど――私、誰にも話したくない秘密があって――パーティを組むなら話さないわけにはいかないから、ちょっと考えたい」
私がそう言うと、ロナはビックリした様な、何とも言えない顔をした。
「――そうか、うん、分かった。決めたら言ってよ」
「ごめん、ありがと」
そんなやり取りの後、気まずくなったのか、ロナは拠点の部屋を出て行った。もうすでに夜だし一人歩きは危ないが、この辺り――子供エリアならそう問題ないだろう。何よりロナは自分の事は自分で守れる。
そんな事より、どう返事するか決めなくては。あまり待たせるのも悪いし、そういうのは私の好みではない。とは言え、正直、どうしたものか――。
「――どうしよう」
(ミラしだいねぇ)
私は、ヨーコが苦笑いをしているような――何となくそんな気がした。
☆
その頃、ロナは拠点の部屋を出て貧民街の路地を歩いていた。貧民街は空き家や潰れた廃屋ばかりになっていて、貴族も商人も手を付けないので放置されている。
そしてそこに訳アリの人達が入り込んで暮らしているのだが、とくにこの辺りは子供が集まっている。
そのおかげで大人が来るととても目立つので非常に警戒しやすくていいんだけど、じゃあ、なぜこの辺りに居座ろうとする大人がいないのか。人攫いじゃなくても戦えない大人が流れて来そうだが――考えると不穏なので考えないようにしている。
ロナは憂鬱そうにため息を吐いた。ミラにパーティを組んでくれとお願いしたのは本心からで後悔はない。
ただ、自分達は同じ孤児院出身で今まで拠点の部屋を共有していたというだけで、基本的にお互い一人でやって来たし自信だってあったし、ミラだって同じだろう。
それが急にあんなことを言われたら――ミラはイヤならすぐ断ると思っていた。イヤじゃ無ければ、オーケーしてくれるかも、と、ちょっと期待もしていた。
だけど、保留というのは意外だった。真剣に考えてくれているのは嬉しいが、悩ませてしまっていると思うと、妙に気まずかった。
「――やっぱり、言わないほうが良かったのかなぁ……?」
「ほう、何を言ったんだ?」
思わずつぶやいた言葉に返答が来るとは思ってないロナが、弾かれるように顔を上げて辺りを見回すと、そこは既に子供が多い一帯――所謂「子供エリア」ではなかった。思いの外、拠点から遠ざかっていたらしい。
顔を上げたロナの目の前には、高級そうな生地だが動きやすそうなシャツとズボンで身を固めた、見知らぬ男がいてロナを見下ろしていた。思わず一歩下がるロナ。
大人がこんなに近くに来るまで全然気づかないなんて、いくらなんでもボーっとしすぎだと思った。だが、それ以上に、目の前の男は気配が無さ過ぎた。
「――独り言だし。アンタに関係ないじゃん?」
「まあ、そう警戒するな。先輩探索者のオレが相談に乗ってやると言うんだ」
男はそう言うと酷薄そうな笑みを見せる。ロナは更に一歩下がって逃げ出す隙を狙う。だが、目の前でただ突っ立っているように見えるその男から、どういう訳かロナは逃げられる気がしないでいた。
「――そうだ、えらいぞ。すぐに動かないのは正解だ。痛い目を見なくて済む――」
男がそう言いかけた時、ロナはひっそり隠し持っていた小石を男の顔めがけて投げつけた。直後、翻って全力で走りだす。
……ヤバイヤバイヤバイ!
……あいつ、絶対、人殺しじゃん!
ロナは貧民街を我が物顔に闊歩するチンピラたちや、人攫いっぽい不審者たちとは比べ物にならない圧力に晒されていた。
滅多にない事だが、ロナは恐怖に突き動かされ、呼吸すら止めて必死に逃げた。
だがロナが10歩も進まない内に轟音が轟き、ロナの全身を衝撃が襲った。
あまりの衝撃や痛みに一瞬で頭が真っ白になり、ロナは走っていた勢いそのままに貧民街の地面に転がった。
「――オレを無視する、オレに背く、どちらも最悪の選択肢だ。バカなガキめ。結局、自分から痛い目を見るとは――」
薄れゆく意識の中で、倒れたままのロナは近づいて来る男を見ていた。男は顔の前で人差し指を立てている。そしてその指先には白熱した火花のような、ちいさい稲妻のような、眩い光の塊があった。
……あ、魔法だ――
ロナはぼんやりそんな事を思った。そしてそこで記憶は途切れた。
☆
男が指先から放った白熱が強烈な光と破裂音と共に、ロナの意識を完全に奪った。
男は、意識を失ってピクリとも動かないロナに近づくと、足先で突く。
「――死んだのでは?」
いつの間にか男の傍には更に2人の男が立っていた。
「いや、まあ大丈夫だろう。加減はしたからな。良いからさっさと連れて行け」
現れた2人の男は頷くと、1人がロナを担ぎ上げて近くに止めてあった馬車に運び込む。魔法を使った男がもう1人に視線を向ける。
「――お前は、例のミラと言う子供に会いに行け。そうだな――『お前の魔法石を買い取ってやろう。断れば二度とロナは帰ってこない』そう言えばどんなバカなガキでも喜んで魔法石を売るだろう」
指示を受けたもう1人の男は頷くと、すぐさま踵を返してその場を立ち去る。
やがて魔法を使った男とロナを運んだ男も馬車を駆って立ち去った。
その犯行の一部始終を目撃した者がいなかったわけではない。だがその誰もが、どう見てもヤバそうなこのネタを吹聴することは無かった。少なくともしばらくの間は――。
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